状況開始

強襲型ゴリラ 前編

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  ――――《Misson1:強襲型ゴリラ》――――

 ――――《Target:対人戦闘用自動人形『パンゼ』》――――

  ――――《Wanted:★★★》―――― 


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 数十発にも及ぶ小型ミサイルランチャーが廃墟の一角に押し寄せ爆発した。

 ひび割れた外壁は木っ端みじんに吹き飛び、部屋とその周囲は瓦礫が巻き上げた粉塵で何も見えなくなる。それでも、これだけの飽和攻撃を一度に受ければ、通常の生物であれば肉片の一片たりとも残らないはずだ。


 だが、黒光りするゴリラ型の兵器は、生体反応センサーから、敵対象がまだ生きていることを感知している。

 赤い三つのカメラアイが輝き、腕部に搭載した2丁のアサルトライフルを発信源めがけて乱射する――――が、射撃をした時にすでに対象はその位置におらず、改めて反応した時には虹色のオーラをまとったアイネが目前まで迫っていた。


「ぬるいっっ!!」


 実弾をはじく虹色のオーラを纏ったまま、アイネはゴリラ型兵器に突撃を敢行。すぐに武装を切り替えることができなかった兵器に凄まじい衝撃を与えて姿勢を崩すと、間髪を入れず驚異の脚力でみぞおち辺りの部分を思い切り蹴飛ばした。

 約2トンの黒い鉄の塊が宙に浮いた!


「さあ、スクラップにしてやるっ!」


 アイネは満を持して、両手に持った虹天剣からそれぞれ赤と青のレーザービームを発射した。これを喰らえば、魔力が全くない機械など一撃で機能停止に追い込める――――はずだった。


 ところが、頭部と腹部を貫くはずの二筋のビームは、驚くことに、装甲を貫くことなく明後日の方向に反らされてしまったのだった。


「うっそぉっ!?」


 必殺の一撃が無効化されてしまい唖然とするアイネに、こんどはゴリラ兵器の方からビームライフルが射出される。普通の人間なら食らっただけで体が蒸発する威力の熱線を、アイネは素早い反応で躱す。

 ビームライフルが直撃した地面には、ボーリングでくりぬかれたような穴が開いた。


 虹天剣が攻撃面でほぼ無力化してしまった以上、格闘戦によってケリをつけるしかない。

 アイネは不本意ながらも、着地したばかりのゴリラ兵器相手に、再びオーラをまとって突貫した。しかし、敵もさるもの、アイネが近接戦闘に切り替えたと判断するや否やすぐに換装し、両腕にビームサーベルを装備した。

 この対応力の高さにアイネは思わず舌打ちしたが、建物内で待っているひよりんたちの為にも、早めにケリをつけなければならない。


 アイネは両手の虹天剣から再び赤と青の光を発し、こちらもビームソードのようにふるって、相手の光剣と打ち合った。

 光の刃がぶつかるたびにビシィビィシと光の火花が散る。アイネが羽を舞い散らしながら踊る両剣の舞は見ていてとても美しいのだが、本人は敵の武器が掠っただけで大ダメージだとわかっているため、とても必死だった。

 ゴリラ型兵器の長い腕から繰り出される暴力は、そのリーチも相まってなかなかアイネを近づけさせない。だが、この兵器にも構造上の弱点が数か所ある。それは、機体がどうしても前のめりになることだ。

 もともとゴリラは『ナックルウォーキング』と呼ばれる、手足を用いた四足歩行が、最も安定した体勢となるので、腕に武器を装備しながら戦うと、後退するのが難しくなる。


「今っ!!」


 光剣を二本同時に受け流した瞬間、アイネはムーンサルトで、ゴリラ兵器の顎部を力いっぱい蹴り上げた。

 頭部が前につんのめっていたせいで、下顎から脳天に多大な衝撃を受けたゴリラは、赤い光の三つ目を弱々しく点滅させ、その場に仰向けに倒れた。どうやら、指令中枢が甚大なダメージを被ったようだ。


「ふぅっ、いっちょ上がりっ! やけに頑丈だったけど、何とかなったわね」


 ゴリラ兵器が起き上がる気配がない。これでもう大丈夫だろうと、アイネは額の汗をゆっくりぬぐった。



 しかし、戦いはまだ終わってなかった。

 彼女が気を抜いた瞬間、後方の茂みから連続した銃撃音と――――弾丸の嵐が彼女の背中を襲った。


「あぐぅっ!?」


 たちまち背中に数発の弾丸を受けて、アイネの背中から血飛沫がいくつも吹き出す。驚いた彼女が振り返ってみれば、そこにはたった今1機壊したばかりのゴリラ兵器が……………3台。アサルトライフルを構えて、アイネを狙っていた。

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