8-9  おまえたちの敵

 龍神さんが答えてくれる質問は、ひとつだけ、とのこと。

 でも、おれ、めげずに、まず、言ってみる。


「えっ? ひとつだけですか?

 いくつもあるんですけれど」


「いや、ひとつ、だ、け、だ」

 と言って、龍神さん、ニヤッと笑った。

 お前には、意地悪をしているんだよ、という感じで。


「それじゃ…、え~っ、どれにしようかな?」

 と、おれが言うと、


「うん? 質問をどれにしたらいいのか、というのが、おまえの、たったひとつの質問なのか?」

 と、龍神さん。


「あっ、いえ、違いますよ」

 と、ちょと焦ったけれど、このパターン、あやかさんが時々おれにやる、軽い意地悪とよく似ている。


 どうも、おれは、年上の女性に、小さな意地悪をされることが多いようだ。

 まあ、おれ、こういうのって、姉貴で馴れているので、ほとんど堪えない。

 だから、そんな反応をついしているんだろう、相手も、やりやすくって、面白いのかもしれない…。


 それでも、慌てて、でも、ちょっと考えて、細工して、おれ、質問した。


「え~と、それじゃ、妖魔を退治したら、どうして宝石になってしまう…のに、龍神さんは無事で、また、別の妖魔が現れることができるんですか?」


「ふ~む…。

 龍平…。

 おまえ、思いのほか、こざかしい手を使えるんだねぇ。

 つたない日本語の振りをして、ひとつの質問に見せかけて、三つの質問をしたということだな?」


 ばれていた…。

 しかも、二つとも見受けられる構造なのに、瞬時に三つと見抜かれている。

 この龍神さん、頭の切れは、あやかさん並み…、おれ、ちょっとかなわないかも。


 もう少し時間があれば、もっとうまく組み立てられたんだろうけれど…。

 そう、おれとしても、三つの質問を混ぜたつもりだった。


 ひとつ目は、妖魔は、どうして宝石になるのか。

 二つ目は妖魔を退治したのに、どうして龍神さんは無事なのか。

 そして、全体で、最も肝心なこと…、暗に、妖魔と龍神さんの関係を聞いている。


 どれかひとつを答えてくれたら、それを手がかりに、この部分は、という感じで、ウダウダやりながら、三つの答えを引き出したいと思ったんだけれど、完全に見透かされていた、ということなんだろう。


「ククク、どうしようかな…。

 ちゃんと答えてあげようか?

 それとも、一つだけにしておこうかな…」

 と、龍神さん、なんだかうれしそう。


 そのとき、あやかさんが、

「龍神様、わたしも、その答え、知りたいんですけれど…」

 と、添えてくれた。


「うん? あやかもなのかい?

 まあ…、そっちの立場になれば、そうなんだろうけれどね…。

 でも、謎が残るということは、今後も楽しみが続く、ということでもあるんだけれどね…」

 どう見ても、龍神さん、おれに対する接し方と、あやかさんに対する接し方とでは、違う感じがする。


「お聞きしたい謎は、まだまだいっぱいありますから…」

 と、あやかさん。


「そう来たか…。

 じゃあ、まあ、今日は、平池の洞窟掘り出し契約、その成立記念の特別サービスということとして、これらの質問に、ちゃんと答えてあげようかね…。


 まず、おまえたちが、妖結晶と呼ぶもののことだ。

 あれは、単に、そのとき放出する膨大なエネルギーを使って、また、地中深くにある元素を利用して、おまえたちが喜ぶものを作ってあげている、と言うことなんだよ。

 わたしからの、プレゼント、と言うことだね」


「プレゼント、なんですね」

 と、おれ、必要もないのに、確認した。

 これについて、もう少し話して欲しいな、という気持ちから。


「そう、プレゼント。

 それで、龍平は、妖魔を退治した、なんて思っているのかもしれないけれど、妖魔自体には、まあ、わたしという意味でもあるんだけれど、それには、何の影響も及ぼしていないんだね…。

 刀…『霜降らし』…ククク、これも、もとは、わたしが与えたものなのだが…その先端近くに、そのときの妖魔を形作っているエネルギーが収縮しているだけ、とでも言っておこうかね」


 龍神さんの話に、『霜降らし』が出てきて驚いたが、これについては、後に回すしか手がないだろう。

 それよりも、


「すみません、そこ、よくわからないんですが…」

 と、おれ、ちょっと謙虚な気持ちになって。

 だって、この龍神さん、簡単な感じで、想像以上に、難しいことを言うから。

 

「もう少し、詳しく、ということか…。

 そうだね…、地底では、徐々にエネルギーが溜まっていく。

 そして、溜まって、余分になったエネルギーを、時々放出しなくてはならない。


 その、放出する際に、そのエネルギーの流れに合わせて、まあ、それに乗るような形で、わたしが…わたしの心が…、地上に遊びに来ている…。

 それが、おまえたちが妖魔と呼ぶものなんだよ。


 その妖魔の形…、わたしとしては龍の姿のつもりなんだけれどね…、その姿になるのも、まあ、単なるついで、お遊び、というところだね。

 だから、昔、アヤが言っていたことが、櫻谷には伝わっているだろう?

 妖魔自体は、単なる物理現象だって…」


「なるほど…、そういう意味だったのですか…。

 そのことについては、ちょっと、わかったような気がします」


 確かに、質問したことはわかった…、今時点では、わかったと思っているだけなのかもしれないけれど、なんだか、理解できた感じがする。

 

 龍神さんの答え、おれの質問に合わせて、うまいこと、三つの答えが、大きく一つに融合されていた。

 この話を聞いていて、龍神さんと妖魔は、本質的には同じ存在であると言うことも、なんとなく納得できた。


 そのとき、あやかさんが、

「そのような妖魔ですと、その強さが月齢と関係があるのは、どうしてなんですか?」

 と、聞いた。


「おやおや、質問の時間は、もう、オーバーしてるんだけれどね…。

 まあ、あやかは特別、ということで答えるとだね…、それは簡単なことなんだよ。

 ただ、重力の関係、ということなんだね。


 とは言っても、こっちで…地下の深いところでね…少しいじって…放出量を調整してだね、現象の変化を強調し、表現を極端にしてはいるんだけれど…、それも、単なる遊びだ。


 ということで、今日の質問受付は、終了…。

 わたしも、そろそろ戻りたいんでね」


「えっ?せっかく来られたのに、もう、戻られるんですか?

 地下にですよね?」

 と、あやかさん。


「そう、地下、深いところ…そこに戻る…。

 こうやって話しているのは楽しいのだが、思いのほか疲れるのでね」


「龍神様でも、疲れる、ということが、あるんですか?」


「そりゃあ、本来、地下深くにいるのに、ここにエネルギーを送って像を結び、存在を仮置かりおききしているんだからね…。

 けっこう、疲れるんだよ。

 それで…、最後に、いいことを教えてあげるよ」

 と言って、龍神さんは、ニッと、深い意味合いの笑いを浮かべた。


「おまえたちの敵…、AKと呼んでいる男…、萱津かやづ秋則あきのりは、来年春までには、帰国するらしいよ」


「えっ?AKは、萱津…秋則…?」

 と、あやかさん、驚いて。


「そう、萱津秋則。

 別名もいくつか持っているが、イニシャルは、すべてAKだ。

 ただね…、そいつは、今や、普通の人間ではないから、注意するんだよ。

 遙か昔から、わたしと争っているものと、一体化してしまったのでね…」


「一体化?」


「ああ、何がどうなったのかわからないのだけれどね…。

 数ヶ月前に、融合してしまった…。

 帰国は、来年の3月から4月ころらしいんだが、それ以上は、つかめない…。

 と、言うことだ。

 くれぐれも、気をつけるように。

 では、また会おう」


 龍神さんは、そんな、とんでもない情報を伝えてくれて、フワッと消えてしまった。




 ****  ****  ****  ****  ****


 これで、第8章 龍神様 を終わります。


 次を、章にするか、別の題名で 妖魔神伝--紅眼の巫女--4 とするか、迷っています。

 一応、妖魔洞窟の謎はこのくらいわかればいいかな、ということで。

 ただ、次が、一つで独立するほど長くならないんじゃないかな? というところから、迷いが出ています。

 いずれにせよ、いよいよ、最後の決戦、ということなんでしょうね。


 1週間から10日ほどたってから、再会します。

 また、読んでいただけたら幸いです。


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