8-8  お見通し

 あやかさんと龍神さんとの会話を聞いていて、湧き出して来たいくつかの疑問。


 その中でも大きなものとしては、まず最初に、アヤさんと龍神さん、どのような成り行きで知り合いになったのだろうか、というものがある。

 これが、二人の関係で、すべての最初に来る問題だ。


 昔、アヤさんが、妖魔の跡を追いかけてこの洞窟を見つけたという話は、櫻谷の家に残っているが、この、女性の姿をした龍神さんと、アヤさんがどのようにして会ったのかには興味がある。


 それと、もう一つ、ここで龍神さんと知り合ってから、アヤさん、平池ひらいけの土地を購入したとなると、なんだか、前に聞いていた話と逆になるような気がする。

 確か、アヤさん、平池の土地を購入してから、ここを購入したように聞いていたからだ。


 まあ、最初、こっちで会って話をし、土地を買うことについては、平池の方を急いだと考えれば、なんてことないんだけれど。

 でも、その辺のこと、本当はどうだったのか、詳しく知りたい…。


 それと、もう一つ、龍神さんは、アヤさんと、いつ、どのように接していたのかということも疑問だ。

 だって、アヤさん、ここで妖結晶をとっていたと、おれたち考えているんだけれど、それだと、ここで会うのは、龍神さんではなくて、妖魔さんの方だろうから。


 龍神さんの言葉からおれの中に湧き出た疑問、アヤさんに関することではなくても、聞きたいことはいっぱいある。


 例えば、龍神さんと会ってから、ずっと、心の底に流れていた疑問なんだけれど、それは、退治すると宝石になっちゃう妖魔と、ここにいる龍神さんって、どんな関係なんだろう、ということ。


 だってねぇ、妖魔と龍神さんが同じ存在なら、妖魔を退治したら…、もう何度も妖魔は退治されているんだけれど…、龍神さん、いなくなっちゃうはずなのに、そんなこと、何でもないような顔をして、龍神さんはここにいる。


 そのほか、小さな疑問はいくつもあるんだけれど、そんなことの質問時間などはとってくれないで、龍神さんの話は、先へと進む。


「ただ、アヤが平池あたりを買い取って、詳細に調べてみると、当時の土木工事の技術では、洞窟の口を開けるのはちょっと無理だったんだよ。

 具体的に計画してはみたんだけれどね…。

 でも、本当に、かなり困難な工事になることがわかってね。

 それで、いろいろと検討したんだけれど、残念ながら、断念したんだね」


 と、『残念』と言いながら、ちょっと不思議なことに、この話のとき、とても懐かしそうな、優しい顔をしていた。


 この話を聞いているとき、この龍神さんとアヤさんとの関係が、どのようなものであったのか、具体的に聞いてみたかった。

 だって、それまでの龍神さんの雰囲気とは、どうにもあわないような、すごく優しい顔をしていたから…。


 でも、龍神さんの話には、そんな質問をする隙間は存在せず、適当に、推し量って聞くしかなかった。


「しかも、当時ではね…、土砂の搬出も難しくって、気持ちのいい平池ひらいけに、いやな影響が出ても困ると思ってね…」

 と、検討の中心になったのは、あくまで、この龍神さんの好みだったような感じ。


「それでだね…、あやか。

 今の時代ならできると思うんだよね…。

 あの洞窟の口を開けてもらうのが…」


「ええ、そうですね、土木工事の技術はかなり進んでいますので、できるんだと思いますけれど…。

 もちろん、極力、周りに影響が出ないようにしてですが…」

 と、あやかさん、頭の中で工事の概要を考えながら答えた。


 すると、龍神さん、続けて、注意すべき点…、崩れやすいところがあるので、周辺をしっかりと保全することや、平池が濁らないように、土砂の扱いには特に注意すること…などを挙げ、あやかさんに、洞窟の口をうまく掘り出すようにと頼んだ。


 とはいえ、どうも、頼んだというよりも、結果がすでに決まっていることを、一方的に命令しているような口調だったんだけれど…。


 ただ、

「それをやってくれたらね…」

 と、龍神さんが、その工事をあやかさんがやる代わりとして出した条件…ご褒美といったところのもの…が、かなりすごかった。

 …というのか、面白かった、というのか…。


 龍神さん、おれたちの敵をやっつける、手伝いをしてくれるというのだ。


 聞いていて、どうして、そんなことまで知ってるんだろうとは思ったが、まあ、そこは龍神さん、何でもお見通しと言うことらしい。

 繋がっているだとか、支配されているだとかいう以前に、案外、こっちの情報は、筒抜けになっているのかもしれない。


 そこまで考えると、ひょっとすると、今朝のドローン戦争、やっぱり、この人…ではなく、龍神さんに仕込まれたんじゃないのかな、とすら思えてくる。

 あの、巨大な龍の姿を見せるために…遊び感覚でね。


 でも、あやかさん、言われた工事はやるつもりなんだろうけれど、まったく別の条件を出した。


「それも面白い提案ですけれど、でも、それよりも、わたしの中で、あなたと繋がっているというか…、なんだか、この半年で変わってしまったところを、もとのようにしてもらいたいんです。

 ですから、あなたに捕まる前のわたしの状態に戻して欲しいんですけれど…」


「えっ?そんなこと?

 ふ~ん…、そんなことを言うとは、思いもしなかったね…。

 おまえ、今日の力、欲しくないのかい?」


「今日の力って…、やっぱり…」


「そう、あの、敵のドローンを撃墜した、あの技だよ。

 目からビームが出て焼き尽くした…、と言う訳ではないが、気分良かっただろう。

 ムッとしたヤツを一撃で…。

 あれは、わたしと、部分的にはせよ、しっかりと繋がっているからできたことなんだがね…」


 あの波動のことだ。

 やっぱり、龍神さん、あやかさんと繋がっている。

 そして、影響を与えている。

 力が着くか着かないかは関係なく、あやかさんは、それを嫌っている。


 それにしても、この龍神さん、ドローンという言葉もちゃんと知っていた。

 目からビームが出てって言うのも、何かの映画を受けて言っている感じだ。

 さっきのエネルギーにしろ、龍神さんに対する変な先入観…昔の人だというようなイメージ…を捨てなくてはならない、と思う。


 まあ、それはそうなんだろうな。

 龍神さん、自由に、外を見ることができそうな雰囲気だし…。

 それなら、なんだかんだ言っても、社会性の育っていないおれなんかよりも、はるかに、今の世界に詳しいのかもしれない。


「わたしと繋がっていれば、あの技を、いつでも使えるんだけれどね…」

 と、龍神さん、ちょっと残念そうに言った。


「ええ、あれはあれで面白いし、使えそうなんですけれどもね…。

 でも、なんだか違和感を感じて…、イライラして…。

 だから、外してもらいたいんですよ」


「そうなの?

 イライラするの?

 まあ、そうかもしれないね…。

 なんせ、中途半端な状態だからね…。

 でも、あれはね、作るのには時間がかかるんだけれどね…」


「そうかもしれませんけれど、でも、どうも、不自然な感じがするので…。

 その代わり、洞窟は、ちゃんと掘り出しますし、もう、崩れないように、しっかりと補強もしておきますから。

 そうすれば、向こうにいても、いつでも、こうやって会えるんでしょう?」


「うん、それはそうなんだけれどね…」


 龍神さんは、条件について、考え込んでしまった。

 で、少し考えて、


「まあ、話だけなら、依り代はなくてもいいわけだけれど…」


「ええ、それに、わたしが依り代になってしまったら、わたしとは話ができないんじゃないですか?

 つまらないと思いませんか?」


「フフフ…。

 アヤを依り代に誘ったときにも、同じことを言われて断られたよ…。

 ただね…、依り代には、知られていない、別の役割もあるのだが…。

 まあいいだろう…、そういうことなら、外してやってもいいけれど…。

 でも、もう一度作ってなんて言われても、よっぽどのことじゃないと、引き受けないよ、時間もかかるし…」


「ええ…、それは、致し方ないことですよね」


「ふん、なにが、『致し方ないこと』だ。

 心にも思っていないくせに…。

 やれやれ…まあ、しょうがないこだな…。

 作るのには時間がかかるけれど、消すのは簡単なんだよね。

 じゃあ、すぐに消してあげるから、向こうに帰ったら、早速、工事に取りかかるんだよ」


 と言うことで、交渉成立。

 話し終わると、すぐに、あやかさんの違和感、なくなったらしい。

 本当に、あっという間の出来事。


 そのあと、龍神さんの話が途切れた瞬間を見て、おれ、質問した。

 おれとしては、自慢しまくりたいような、上出来のタイミングの取り方で。


「あの…、龍神さん、いくつか質問があるんですけれど…」


 龍神さん、おれの方を見て、

「ふ~ん、『龍神さん』ねぇ…。

 中途半端な謙虚さだよね…。

 うん、まあ、それじゃ、龍平には、ひとつだけ質問を許してあげよう。

 いいかい、ひとつだけだよ」

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