8-4  龍神様

「妖魔洞窟に行けば、その人に会えるのかな…」

 と、おれがあやかさんに聞くと、


「どうなんだろうね…」

 と、まあ、確かに、あやかさんにだって、わかる訳がないことだな。


「やはり、今から、洞窟に行かれるのですか?」

 と、さゆりさんがあやかさんに聞いた。


 そうだよな…。

 今から行った方がいいのか、今日はやめておいた方がいいのか…。

 こうやって話しているうちに、どうしたらいいのか、なんだか、よく、わからなくなってきた感じだもんな…。


 あやかさんも、同じように感じているんだろう。

「そうね…、どうしようか?」

 と、おれに聞いてきた。


 今日は、昨日から今までの動きなど、もっと、いろいろと検討をして、洞窟に行くのは、明日以降にした方がいいのかもしれない。

 と、思う一方で、今までのこととはいっても、いまさら何を検討するんだろう、とも考えてしまう。


「そうだよね…。

 行くの、明日か…それ以降にして、いま少し、考えてみようか?」

 と、おれが言った途端、サッちゃんが、


「あっ、まただ…」

 と、言って、目をつぶった。


 目をつぶったサッちゃん、

「うん、わかったよ」

 と小さく呟いて、目を開け、あやかさんを見て、


「すぐに、行きなさい、って…。

 それとね…」

 と、言葉を切って、ちょと言いにくそうに、


「考えても、わからないだろう…って言え、だって…」

 と、言ってから、


「あっ、笑ってる…」

 と、呟いた。


 笑ってる、だって?

 サッちゃんに、『考えても、わからないだろう』と、無理に言わせておいてから笑うというのは…、たぶん、ヒッヒッヒとか、クックックと笑ったんだろうけれど…、これは、ちょっと、こっちを馬鹿にしてるということなんじゃないだろうか…。


 それで、

「そいつ、誰なんだろう…」

 と、自然に、おれの口から言葉が出た。


 すると、サッちゃん、ちょっと、困ったような顔をして、

「ねえ、リュウにい…、

 そいつとは何だ…、だって…。

 怒っているみたいだよ」


 あれれ、おれ、なんだか、誰かさんを怒らせてしまったようだ。

 まずかったかも…。


 でも、そのあと、どういうわけか、相手が名乗った。


「わたしは、平池神社の龍神だ、と言えば、わかるかな?…だって。

 この方…、龍神様なんだ…」

 と、サッちゃん、途中から、ちょっと緊張して、あらたまった感じになった。

 まあ、自分に話しかける相手が、龍神と名乗ったのじゃ、そうなるんだろうな。


「平池神社の…、龍神…様?」

 と、あやかさん、大きな疑問形で、だれへともなく、聞いた感じ。


 すると、脇から木戸さんが、すぐに教えてくれた。

「東京の家の隣にある平池神社…。

 あそこにちょっと大きな池がありますよね…」


「ええ、確か、鳥居をくぐって、左手に…。

 でも、神社には、ずいぶん、昔から行っていないので…」

 と、あやかさん。

 池があることは知っているが、周囲の情景などの記憶は不確かなようだ。


「そうでしたか…。

 あの池が、平池ひらいけといって、あの付近の地名の起源なんですけれど…、その北の畔に、小さなおやしろがありまして…、確か、龍神様をおまつりしてあったかと…。

 そのお社は、ちょうど、櫻谷との境のすぐ近くにありますよ」


「そうだったの…、知らなかったわ。

 でも、何で、そんなところの龍神様が?」


「さあ…、どういうことだか…」


「ねえ、どうして、今、ここで出てくるんだろうね…」

 と、おれ、あやかさんに、聞いてしまった。

 あやかさんも、同じことを、木戸さんに聞いていたのにね。


 でも、あやかさん、

「そうよねぇ、わからないよね」

 と、受けてくれた。


 で、また、目をつぶって、何か聞いていたようなサッちゃん、

「わかったら、さっさと行くように、だって、龍神様が…」

 と、言ってから、


「フ~ッ…、これ…、けっこう、疲れるな…」

 と、目をつぶって、ぽつりと呟いた。


「そうね…、ここで考えていてもらちがあかないか…。

 サッちゃんも大変そうだし…。

 ねえ、やっぱり、今から、行っちゃおうか?」

 と、あやかさん、おれに聞いてきた。


「そうだね…。

 でも、こうやって、サッちゃんを通して話を聞いているのに、何で、洞窟に行かなきゃいけないんだろう…」


「そう言えば、そうよね。

 行かなきゃいけない、何かが、あるんだろうね…。

 どうする?」


「うん…、ねえ?どうしようか…。

 何かが、あるのかな…。

 あるいは、ただ単に、おれたちと、ゆっくりと、話したいだけなのかな?」


「フッ、どうだかね…」

 と、軽い笑顔になって、あやかさん。

 また、おれの言ったどこかが面白かったらしい。


「とはいえ、どうして、龍神様なんだかもわからないし…。

 まあ、確かに考えていたってわからない、ということだな。

 しかも、なんか、行くまで、来いって言われそうだしね…」


「そうなのよね。

 ずっと、こんな話をしてるんじゃ、サッちゃん、大変そうだよね」


「そうだね。

 よし、いいよ、行こうか」

 と、おれ、行くことにした。


「サチも行きマス」


「そうだね、一緒に行こうね」

 と、あやかさんが、サッちゃんに言うと、


「誰か、ついて行かなくてもよろしいんでしょうか?」

 と、さゆりさん、また、ちょっと心配そうな顔つきになって。


 口には出さないけれど、有田さんと木戸さんばかりか、美枝ちゃんや北斗君、浪江君まで、そんな顔つきであやかさんを見つめている。


「そうね…」

 と、あやかさん、ちょっと考えてから、


「どうも、3人で行った方が、いいような気がするし…。

 うん、みんなに心配かけて悪いんだけれど…、やっぱり、今日は、3人で行ってみることにするよ」

 と、あやかさん、3人で行くことに決めた。


 と、言うところで、おれ、具体的に行くことを考え、ハッと気がついて、

「ねえ、浪江君…、あの、大きなライト、貸してくれないかな…」

 と、撮影の時に使っていた大きなライトと電源を借りることにした。


 いくら、相手が女性のなりをしているとはいえ、真っ暗な中での、龍神様とのお話っていうのは、…しかも、妖魔かもしれない相手だし、なんだか、ものすごく不気味な感じがしたから。


 2階からリュックを持ってきて、浪江君が用意してくれたライトなどを詰め込み、そのほかにも、手持ち用の大きめなライトと普通のライトを用意した。


 そうしたら、あやかさん、

「あっ、ちょっと待って」

 と言って、2階に上がって行った。


 あやかさん、2階から、あの、妖刀『霜降らし』を持ってきて、おれのリュックに差し込んだ。

 布の袋に包まれたまま、無造作に、突き刺すように。


 リュックよりも長いので、当然、つかのところが、外に突き出ている。

 なんか、とても貴重で大切な刀なんだろうけれど、あやかさんにかかると、軽く扱われている感じ。

 あやかさんとしては、一応、大事に扱ってはいるらしいんだけれど。


「じゃあ、行こうか」

 と、あやかさん、サッちゃんと手をつないで玄関に向かう。


 この間に、サッちゃんも、ダウンジャケットを着込んでいる。


 外は、すでに、暗くなっている。

 風まで出てき、かなり寒くなってきた。


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