第8章 龍神様

8-1  忘れ物

 山荘でゆっくりと昼を食べてから別荘に戻ると、あやかさん、妙な疲れが残っているというので…、たぶん、あの、強烈な波動を打ち出したせいだと思うんだけれど、さゆりさんに勧められ、少し、昼寝をすることになった。


 もちろん、おれも一緒に。

 だってねぇ、半年かけて、やっと、取り戻したばっかりなんですから、ずっと一緒にいたい気分なんですよね…。


 でも、あやかさん、

「別に、無理して付き合わなくてもいいんだよ」

 なんて、はじめ、ちょっと意地悪を言っていた。

 でも、それ以上は、一緒に寝ること、拒否しなかった。


 リラックスした気持ちで寝るために、二人とも、わざわざパジャマに着替えてベッドに入った。

 少し経って、体が暖まったところで、ちょっと声をかけようとしたら、もう、あやかさんの寝息が聞こえてきた。


 確かに、あやかさん、疲れたんだろうな…。

 それで、天井を見て、今日の出来事を、いろいろと考え始めた。


 でも、この、いろいろと考え始めた、というのは、おれの場合、まとまりもなく考えが出てきたと言うこととほぼ同意の場合もあり、そのようなとき、これは、眠る前の儀式のようなものになる。

 知らないうちに寝てしまったようだ。


 まあね…、寝るときは、いつも知らないうちで、知っている間に寝る、と言うことは、おれ、経験がないんだけれど…。


 目を覚ますと、夕方の4時頃だった。

 1時間半くらい寝たようだ。

 今は日が短く、もう、外は、薄暗くなり始めている。


 隣を見ると、あやかさん、枕の上、頭の下で手を組んで、目をぱっちりと開け、天井を見ている。

 おれが時計を見る動きしていたのに、身動き一つしなかった。


「起きてたんだね」


「うん…、ちょっと前にね…」


「そろそろ、下に行く?」


「いや、もう少し、このままでいたい…」


「わかった、ゆっくりでいいよ」


「うん…」


 それで、おれも、仰向けになり、天井とにらめっこ。


 あやかさん、しばらく、そのまま黙っていたが、少し経ったときに、天井を見たまま、また、話し出した。


「ねえ、さっきの結界の話だけれどね…」


「ああ、妖魔の?」


「うん、そう…。

 今、ずっとそのこと考えていたんだけれど…、どうも、結界というんじゃないみたいだな…」


「そうなの?

 まあ、外からは、何も感じないからね…」


「いや、結界だとか、何だとか、外から受けた、そういうものじゃなくってね…。

 ただ、単に、わたしの問題…。

 わたし、この世界に、完全には戻っていないのかもしれないよ…」


「えっ? それって…」


 おれ、天井から目を離し、横を向いて、あやかさんを見た。

 今、言われたこと、正確には意味がとれないし…、それに、なんとなくだけれど、ちょっと気味が悪い話だ。

 どういうことなんだろう…。


「わたしの何かが、向こうに残っていてね…。

 それで…、今も、どこかで、繋がっているような…」


「向こうって…。

 それ、あの、消えてしまったときに、あやかさん、止まったままでいた空間…ということなの?」


「ええ、たぶん、そうなんだろうね…。

 わたしとしては、止まっていたなんて、まったく感じなかったんだけれどね…。

 でも、どこかのタイミングで、半年もたっていたとなると…。

 どうも、そこから、まだ、完全に抜け出していないのかもしれない…。

 向こうに、何か残してあるような…」


「それって、向こうに、何か…、そう、何か、忘れ物をした、というような感じの意味なの?」


「えっ?忘れ物?」


「うん、ほら、こっちに帰ってくるときに、何か、忘れてきちゃったって感じで…」


「フッ、あなたね…。

 ふ~ん…、忘れ物か…。

 ククク…、やっぱり、あなたはあなただね…。

 ハハハハハ…」

 急に、あやかさん、愉快そうに笑いだした。


 で、続けて、

「まあ、忘れ物って、ほとんど正解なのかもしれないね…。

 あなたの言ったような意味ではあるんだけれど…。

 でもね…、わたしとしては、もっと、深刻に考えていたんだよ。

 それなのに…、忘れ物だなんてさ…。

 そんなにのどかな感じには捉えていなかったな…」


「何か…、深刻なことがあったの?」


「わからない。

 ただ、アイツとも繋がっているような気がする。

 いつもね」

 と、あやかさん、言って、上半身、ガバッと起き上がる。


 おれもつられて、同じように上半身起き上がった。

 掛け布団が、肩から落ちるて、ちょっと寒い感じがした。

 部屋が冷えている。


 それで、ここは、奥様に、特別サービスとばかり、おれ、ベッドから降りて、近くにあったあやかさんのガウンを持ってきて、羽織らせた。


「ありがとう。

 うん?あなたは?」


「おれは大丈夫。

 もともと、ガウンなんて、ないしね」

 と言いながら、もう一度ベッドに上がって、あやかさんの隣へ。

 二人で寄り添って、炬燵のように、掛け布団を胸まで引き上げた。


「そういうことなら…、そのこと、あやかさんが気になるのならね、いま、すぐにでも調べに行こうか?」


「調べるって…どこへ?」


「もちろん、妖魔洞窟だよ。

 洞窟に行って、忘れ物はなかったかな?ってさ。

 どうせ、そのうち、遊びに行くつもりだったんだし…」


「あなた、今の、わざと、軽く言ったんでしょう…。

 フ~ッ」

 と、あやかさん、大きなため息をついて、


「そうなんだよね…。

 どうも、こんな感じになるの…初めてなもんでね…。

 妙な緊張もあるし…。

 それに、どこか、アイツに支配されているんじゃないかと…。

 まあ、かなり深刻に考えていたんだけれど…。

 でも、もう少し、気楽に考えるようにしてみるよ」


「うん、その方がいいと思うよ。

 妖魔か…。

 でも、やっと本物の妖魔が出てきたのかな、っていう感じだよね」


「えっ?

 本物…?

 それ、どういうこと?」


「ああ、妖魔って…、まあ、魔物的なもんだよね」


「まあ、妖魔、なんだからね…。

 でも、その、『的』というのは気になる言い方だけれどね」


「ああ、これは、まだ、魔物と断定まではできないと言うことで…」


「うん?よくわからないけれど、ぼかした、と言うこと?

 まあ、とりあえず、今は、魔物的でもいいけれど…。

 それで?」


「ああ、それでね、今まで出てきた妖魔ってさ、なんだか、ただ、地面の下、走り回っていて…。

 それで、うまく仕留めれば宝石くれて…。

 魔物というよりは、ただ単に、『神宿る目』の美女と、遊んでいるだけみたいな感じだったから…」


「ふ~ん…、遊んでいるだけね…。

 そうなんだ…」

 急に雰囲気が変わって、あやかさん、ちょっと怖い感じで、そう言った。


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