7-12  波動

 さらに少し登ったところで、歩きながらだけれど、さっきから気になっていたことを、あやかさんに聞いてみた。


「ねえ、さっきの…、あの、ドローンを撃墜した波動だけれどね…」


「フフフ、その質問、来ると思ってたよ。

 今までになかったことだって言うんでしょう」


「うん、まあ、そういうことだけれど…、

 やろうとしてやったの?」


「そんなわけないじゃないの…。

 あんな風になるなんて…、

 わたしだって、すごく驚いたんだから…」


「思った以上だった…ということ?」


「うん、まあ…、と言うよりもね…、あなたに、『波動』と言われるまでは、わたしにも、何が起こったのか、実は、よくわからなかったんだよ…」


「へぇ…、そうだったんだ…」


「うん、あのときは、ムッときたのを、そのまま解放…。

 わたしとしては、それだけだったからね。

 とは言っても、なんか、わたしがやったんじゃないのかな、って気持ちは、少しはあったんだけれどね…」


「そうだったのか。

 だから、おれが下に降りたときには、ちょっと怖い顔をしていたんだね」


「ああ、あのときね…。

 何がどうなったのか、よくわからなくってね…。

 戸惑っていたのかな…。

 だから、あなたの顔を見て、ほっとしたのは、確かだな…」


 そういえば、あのとき、あやかさん、ニコッと笑って、手を振ってくれた。

 いい笑顔だったよな…。


「そうだったんだね。

 なんか、そう言ってもらえると、うれしいな。

 でも、有田さんが質問したときには、あやかさん、平然と答えていたように見えたけれどね」


「それも、あなたが来て、安心したからだよ。

 それに、あなたの言った『波動』にも納得したし…。

 わたしの周りの人って、どんなに奇妙なことが起こっても、『神宿る目』になった、で、すべての説明になっちゃうからね」

 と言って、あやかさんは、愉快そうに笑った。


 確かに、『神宿る目』になったあやかさんなら、どんな、奇跡的な動きをしても、周りの人たちは、みんな、納得してしまうだろう。

 櫻谷では、それほど『神宿る目』は、敬われ、尊ばれている存在なのだ。

 何が起きても不思議ではない。


「それで…、あの波動って、いつでも自由に撃てる感じなの?

 拳銃にも効きそうなこと言ってたし…」


「じつは、よくわからないの」


「じゃあ、あのときは…」


「うん、周囲への気休め…。

 そうだな…、できるとしても、少し練習が必要だろうし…。

 そもそも、あれって、どんな働きがあって、周りにどんな影響が出るのか、よくわからないしね…。

 まあ、そのうち、おいおい、調べてみるよ」

 と言って、ニコッと笑った。


 この草地に入ったとき以来、あやかさん、どことなく、変な緊張をしているのを感じていたんだけれど、どうやら、それもとれてきたようだ。


「そういえば、あの波動は、洞窟から戻って、あやかさんが変化したことの一つ、と言っていいんだよね…」


「ええ、それには気がついたんだけれど…、でも、自分のことだからね…。

 明らかに、自分が変わったのであって、周りが変わったわけではない、と言うことはわかるから…」


「でも、その、自分の変化で、逆に、周りに違和感を感じちゃうってことはないのかな?」

 と、おれ、重ねて聞いてみた。

 自分が変わったのなら、相対的に、周りが違ったものに感じるかもしれないから。


「可能性としてはあるのかもしれないけれどね…。

 でもね、この違和感…、そんなもんじゃないように思うんだよね」


「なるほど…。

 そうだ、さっき出てきた妖魔のやつ、洞窟で、あやかさんになにかしたのかな?

 ほら、例えば、結界を張って、あやかさんを包み込んじゃっていたとか…」


 あやかさん、急に立ち止まった。

 そして、おれの方を、じっと見た。


「結界って…。

 それ…、なんか、説得力があって、気味悪い感じだよ…」

 と、あやかさん。


「そうか…。

 あいつ、あやかさんを隠したかと思っていたけれど、次は、結界を張って…」


「なんだか、そんな、包まれている感じも、しないではないんだよ」


「ふ~ん…、包まれている感じなのか…。

 あれ? 待てよ…。

 ねえ、おれ、あやかさんには、なんの変化も感じないから…、そういう意味で、あやかさんを包むような、そんな結界にはなっていないのかもしれないよ…」


「何の変化も…、感じない?」


「うん、さっき言ったように、あやかさんが変わったということはないよ。

 と言うことは…。

 うん?

 本当に、結界、と言うようなものなんだろうか…」


「どう考えてもはっきりしそうにないね…。

 そもそも、問題の焦点も、どこにあっているのかわからないし…

 ねえ、それ、あとでゆっくり考えることにしようよ。

 とにかく、行くよ」

 あやかさん、そう言って、また歩き出した。


 あやかさんも、おなかが減ってるんだろうな。

 おれも、腹ぺこだ。

 さあ、山荘までは、もう少しだ。


 と言うところで気がついた。

 草地管理棟の上に、人影がある。

 顔までははっきりわからないが、あれ、たぶん、有田さんだ。


 有田さん、やはり心配なんだろうな…。


 そうだよ、有田さん、さゆりさんに、あやかさん警護のこと、しっかり仰せつかって来ていることもあって、普段以上に気になっているはずだ。

 だから、遠くから、草地の周囲全体に気を配ってくれていたんだ。


 でも、あの妖魔は見えなかったんだろうな。

 もし、見えたら、どうしたんだろう。


 ドローンを操るような敵じゃなくて、さっきの、そびえ立つような巨大な妖魔が、こっちにやってきたら、どうなるんだろう。

 あれ、映画に出てくる怪獣のような大きさだったからな…。

 たとえ、戦闘用のドローンだって、効果ないかも…。


 そんなこと考えながら歩いて行ったら、駐車場近くからは、木戸さんが草地を見下ろしていた。

 まあ、二人には、ずいぶん心配をかけた散歩だった、と言うことだな。


 駐車場のところで、合流。

 4人そろって、山荘に戻った。


 妖魔で、ちょっと興奮していたせいか、あまり気にならなかったけれど、かなり冷えていたみたいだ。

 食堂の中の暖かさに、まず、ほっとした。


 浪江君、破損したドローンを木戸さんから受け取っており、すでに、気持ちの整理はついていた。

 でも、ちょっと、悲しそう。


 早坂さんが、お昼を用意してくれていた。

 午前中から準備してくれていたようで、不審なドローンがいつ来るかわからなかったので…、と、サンドイッチ。


 このサンドイッチ、とりの照り焼きのような具と野菜で、味よし、ボリュームよしで、すごくうまかった。

 おいしいポタージュと一緒。


 このサンドイッチに入っていた鶏、なんだか、いわれのあるもので、早坂さん、どうしてもあやかさんに食べてもらいたかったんだとか。

 あやかさんもおいしそうにパクついていた。


 そういえば、あやかさん、珍しく紅一点。

 大抵、さゆりさんや美枝ちゃんが一緒に行動するが今日は別。

 こういうのって、おれ、初めてかもしれない。


 ゆっくりとした昼食。

 冷えていた体も温まった。



 ****  ****  ****  ****


 これで、第7章を終わります。

 たいした戦争になりませんでしたね…。


 今、暑さぼけのせいか、どうも冴えませんので、「一人ブレーンストーミングもどき」を試みています。

 勝手につけた名前ですが、まあ、いろいろ、普段読まないような本でも批判抜きの乱読をして、一応すべて受け入れ、…もちろん、どうしてもつまらなければ止めますが…、いろいろな話を踊らせて、頭の中をゴチャゴチャにしているのです。


 それと、ちょっとほかにもあって、第8章に入るのは、1週間か、それよりやや多めに休んでからとなってしまいます。

 再開後もよろしくお願いします。


 サッちゃんが…、まあ、お楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る