6-3  目の色

 それで、あやかさんが消えて、5ヶ月後となる今日…。

 だから、おれ、もう、153日間も、あやかさんに会っていない…。

 これって、けっこう、つらいんだけれどね…。


 それで、5ヶ月が経って、おれの思うこと…、気にしてること…。

 それは、あやかさんの奪還、あんまりグズグズしていると、そのうち、おれの方があやかさんよりも年上になってしまうんじゃないかということ。

 あやかさんの時間、止まったままなのに、おれの時間は、どんどん過ぎていく。


 もし、そのことだけだったのならば、だから、おれの方が年上になるということだけならば、おれにとっては大して悪いことでもないんだけれど…、うん?いや、待てよ、待てよ。

 やっぱりダメだな。


 あやかさんにとっては、瞬時で、おれが、いきなり年上に変身することになる。

 浦島太郎ほどではないにしても、年下の男がいきなり年上の男になるんじゃ、かなりの抵抗感があるだろう。

 気持ち悪がられるだけでなく、離婚だなんて言われても困る。


 そもそも、おれ自身、そんなに何年も待つのは嫌なのだ。

 早く、あやかさんを取り戻したい。

 そう、今すぐにでも。

 だから、というわけでもないけれど、話を戻すと。


 妖魔を呼ぶために、何かが足りない、ということはわかった。

 その『なにか』は、なんなのか。

 もう、頭の中は、そればっかり。


 そうして、今、昼ご飯を食べ始めたところ。

 今日のお昼は、吉野さんのカレー。

 あやかさんが大好きなカレーだ。


 カレーなんだけれど…、『なにか』は、何なんだろう…。

 ダメだ、カレーを食べることに専念しよう…。


 おれの左前で、サッちゃんが、カレーをおいしそうに食べている。

 そう言えば、サッちゃん、昨日の夕方、いきなり泣き出し、しばらく泣き止まなかったと、さゆりさんが言っていた。


 特殊警棒を使っての訓練中だったらしいんだけれど、何かの拍子で、おフクさんを思い出したらしい。

 話を聞いて気が付いたんだけれど、サッちゃんにとっては、半年前には、まだ、おフクさんと一緒に、楽しく暮らしていたわけだ。


 それを、心の中では、もう、二百年も昔のこととして、何とか折り合いを付けようとしていたらしいんだけれど、ふと、どうしようもなくなったらしい。

 さゆりさんに抱かれながら、しばらく泣き続けていたと、昨夜、話を聞いた。


 何とか、そこから立ち直ったサッちゃん、みんなには、そんな素振りを見せない。

 そう、今、カレーを食べている姿からは、そんなこと、ちっとも感じさせない。

 本当に、精神的に強い子なんだと思う。


 このカレーは、吉野さんが独自に開発したカレー粉を使っている。

 しかも、サッちゃん用には、やや、辛さを抑えた特製カレー。

 さゆりさんから話を聞いた吉野さん、サッちゃんのこと、かわいそうに思って、特に念入りに仕上げた超特製カレーだとのこと。


 辛さが好きな、美枝ちゃんや北斗君、そしておれは、チリペッパーなど数種の香辛料が多く、かなり辛口にしてくれた別の鍋からカレーをかけている。

 吉野さん、甘口と辛口、二つの鍋を作ってくれたということ。


 辛いカレーを一口。

 やっぱり、辛い…、でも、うまい。


 サッちゃんが、初めてカレーを食べたときのことが、思い出される。

 ここに来た日のことだ。

 涙目になって、辛いのを我慢して…。

 かわいかったな…。


 で、急に、二百年前、カレー、サッちゃんと、何かがその辺から繋がって、はっと気が付くことがあった。

 おれ流の、関係ありそうでいて、実はよくわかんない発想。

 まず、すべての始まり、どうして、サッちゃん、妖魔に捕まったんだろう、と。


 いや、それを疑問に思ったときには、一瞬の間に、そこからさらに繋がって、もっと、もっと、すごいことまで思いが至っていた。

 なんせ、『何かは何なのか』と、ずっと、その、必要条件を考え続けていたから。


 サッちゃん、ひょっとすると、目の色、変えることができるのではないだろうか、ということ。

 サッちゃん、『神宿る目』を、持っているんじゃないんだろうか?

 そうでなくっちゃ、いくら二百年前だって、妖魔がさらいにやって来ない…。


 願いを込めたような、つい期待してしまうような、おれの推測。

 でも、最近、ヤツを調査していて感じたことからすると、サッちゃんが、ヤツに捕まった要因は、これ以外には考えられない。


 こんなこと考えながら、おれ、サッちゃんのことを、じっと見ていたようだ。

 サッちゃん、真っ直ぐにおれの方を見て、

「リュウ兄…、どうした?」

 と、聞いてきた。


 おれにとっては、急に来た質問。

 ハッとして、おれ、反射的に、そのまま、答えてしまった。


「うん…。

 サッちゃんが…、どうして、妖魔に捕まったのかと思ってね…」


 そして、もう少し、ポイントに近い説明。

「だからね…、どうして、その時、洞窟の紫色が、動き出したんだろうかと…」


 カレーを食べていたみんなが、動きを止め、そのままの姿勢で、おれを見つめた。


 サッちゃん、ちょっと考えてから、

「洞窟の中に入ったら、急に、青…紫の火が、動き出した…デス」

 と答えた。


 最後の『デス』は、今、さゆりさんに、丁寧な話し方を教わっていて、その影響。

 おれとしては『動き出したの』とか言ってもらえる方がいい感じなんだけれど、まあ、今は、置いておこう。


 でも、次に、おれが聞いたことで、思いもよらない反応となった。

「それで…ねえ、サッちゃんは、目の色、赤く変えること、できるの?」


 おれがこう聞いた途端、サッちゃんの顔がきつい表情になり、体中に強い緊張が走ったのがわかった。

 張り詰めた雰囲気。


 睨むような目でおれを見て、サッちゃん、椅子の上で少し構えた感じになった。

 いつでも、飛び出せる体勢だ。

 その変貌に、みんなも驚いて、サッちゃんを見つめた。


 でも、それに気が付いたさゆりさん、やはり驚いたんだろうけれど、それは、少しも表には出さず、右手で、柔らかく、サッちゃんの肩を抱き、少し、自分の方に引き寄せた。


 サッちゃん、ハッとした感じで、さゆりさんの顔を見る。

 さゆりさん、優しく微笑み、ゆっくりと頷く。


 この間に、おれ、咄嗟に、考えたことは…。

 サッちゃん、おそらく、目の色、赤く変えられる。

 そして、そのことを知っている。

 でも、それは、人には知られてはいけないことだと、思っている。


 これは、おそらく、フクさんたちに教わったことなんだろう。

 そう、目の色が赤くなること、サッちゃんの『敵』に知られてはまずいことだと教わっているに違いない。

 敵は、これを探っている可能性すらある。


 そんな風に感じ取れたので、おれ、すぐに、サッちゃんに話しかけた。

 咄嗟の打開策、と思ってのことだけれど、まあ、例のごとく、深い思慮はない。

 サッちゃんの緊張すら無視してしまって、ということになっちゃったけれど。


「おれの奥さん、あやかさんて言うんだけれどね…」

 ここで一息入れて、サッちゃんの表情を見る。


 サッちゃん、おれを見つめ、何の話だろうと、ちょっと怪訝そうな顔をしながらも、

「知ってる…」

 と、答えてくれた。


 反応してくれて、よかった…。

 無視された場合には、どうしようかと、まだ、思案中であって、先ができていなかったので…。


 でも、返事をしてくれた。

 たぶん、もう、これで、大丈夫だ。

 おれ、続きを話し出す。


「実は、その、あやかさん…、目の色を、赤く変えることができるんだよ」


 サッちゃん、目をぱっちりとあけ、ビックリしたような顔をして、さゆりさんの顔を見る。

 さゆりさん、また微笑んで、ゆっくりと頷く。


 すると、サッちゃんの、ホッとした感じが伝わってきた。

 場の雰囲気も、柔らかくなった。


 さらに、おれ、話しかける。


「それでね、リュウ兄も、目の色変えられるんだよ。

 赤くはできないけれど、暗い色になるんだ。

 やってみるからねぇ」

 と、サッちゃんを見ながら、目を少し大きく見開き、ヒトナミ緊張をした。


「本当だ…。

 黒くなった…。

 …。

 わかった…」

 と、ようやく、サッちゃん、もとに戻ったような感じ。


 そして、

「サチの目…、赤くなると、フクが言っていた…」

 と、サッちゃん、教えてくれた。


「やっぱり、そうなんだね…。

 それで、サッちゃんにお願いがあるんだけれど…」


「お願い?」


「うん、お願い…。

 リュウ兄が、あやかさんを取り戻すの、手伝ってくれないかな?」



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☆ お知らせ ☆


読んでいただき、ありがとうございます。

当然、この章は、まだまだ続きます。

でも、ちょっとお知らせです。

明日か明後日ぐらいから、これと併行して、

「眞衣さんはカウンセラー:幽霊の相談事」

と言う小説を発表しようと思っています。

…この時点で、題名、まだ、迷っているのですが…

これ、コンテストに応募しようという、積極的な気持ちからなんですよ。

今まで、出していた小説は、コンテストがあるから応募してみようかな、程度でしたが、まあ、ちょっと、積極的に生きてみようかな?と言うことで…。


本当は、併行するの、しんどそうなので、この小説、切り上げて、そっちに移ろうかなと考えいたんですけれど、@yoichikunさんからのコメント、勝手に、励ましのコメントと受け取りましたが、それで、やっぱり、この小説はこの小説で、初めに考えたくらい続けてみようかな、という気になりました…思ったよりも、部分部分が長くなっているんですけれど…。


と言うことで、前の予告撤回。

この章が、最終章ではなくなると思います…たぶん…。

眞衣さんの小説、「僕」が、美人の奥さんの話をするような形で進む、と言う点では、この小説に似ているのですが、内容は、まったく別。

ちょっと、「あの世」に踏み込んでいる…わたしの知っている範囲でですが…、小説なんですよ。

あの世は、異世界かもしれないんだけれど…わたしとしては、この世界の十分条件、この世界を含んだ世界なんですけれど…、異世界ものとはまったく違うので、現代ファンタジーとして発表します。


そちらも、読んでいただけたら、幸いです。

おもしろいはずです。

そちらでも、コメントをいただければ、うれしいです。


…気になるのは、ペースなんですよね…


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