5-6  調査の方針

 昼ご飯の時間になった。

 この時刻になると、みんな、自然に、食堂に集まってくる。

 まあ、いろいろ動いていて、おなかが減るからね。


 今日のおかずは、チキンカツにサラダ。

 それと、茄子の炒め煮。

 この茄子、冷やして出されるが、吉野さんのこれ、最高に美味しい。


 吉野さん、毎日、三食、7人分から8人分を用意してくれている。

 手抜き、一切なしの休日なし。

 本人がそれでいいとは言うんだけれど、ちょっと、申し訳ない気分がする。


 そんな中、最近、朝は、ほとんど、パンになっていて、時々、ハムエッグなどが付くこともあるが、基本的には、ジャムとバターだけで済ませている。

 これ、吉野さんのためと言うよりも、実は、サッちゃんの好みの反映。


 驚いたことに、サッちゃん、バンが大好きになり、しかも、バターとジャムを付けるのに、今、嵌まっている。

 だから、おかずなんて余計な感じ。


 先日、さゆりさんと吉野さんに連れられて、サッちゃん、街に古くからあるジャム屋さんに行ってきた。

 そこで、10種類を越えるジャムを買い込んできて、今日はどれ、明日はどれ、と食べていて、みんなも、それにのって、いろいろと楽しんでいる。


 ということで、パンにバターとジャムの組み合わせはサッちゃんの好みによるものだ、と、みんな知っているので、ハムエッグが付かなくても、誰も文句を言わない。

 まあ、もともと、文句を言うような人はいないけれど…。


 朝が、そのような食事のためか、昼は、みな、ご飯中心となっていて、結構、ガッチリと食べる。

 吉野さんも、それに合わせて、ご飯を食べやすいようなおかずにしてくれる。


 今日も、ご飯の進みそうなおかず。

 全員、席に揃って、『いただきます』の挨拶。

 

 すると、美枝ちゃん、

「リュウさん、ごめんね。

 今日の昼は、ちょっと、ビールを飲むよ…」

 と、立ち上がって、台所へ。


 グラス二つと、缶ビールを持ってきた。

 コン、コンと、グラスをホク君と自分の前に置きビールを注ぐ。

 うまそうなんだけれど、不思議に飲みたいと思わない。

 さゆりさんも、午後に、サッちゃんに教えることがあるので、今は飲まない。


 美枝ちゃん、ホク君と、カチッとグラスを当て、一気に飲み干す。

 ホク君、すぐに、美枝ちゃんに注ぎ、台所に、もう一缶、とりに行った。

 ホク君のこの動きの良さ、美枝ちゃんの今の状態を、よく理解している証拠だ。

 ということは…、なんとなく、美枝ちゃん、ヤバイ雰囲気なのかも…。


 美枝ちゃん、一息ついて、なぜ今ビールなのかを、説明してくれる。

 まあ、ちょっと、おれに愚痴を言うような感じで。


 それは、美枝ちゃん、お盆前に片付けようと段取りしていた、わりと大事な仕事、お盆直前になっても、完了したという連絡が来ない。

 それで、どうしたんだろうと思って調べたら、お盆の少し前に、動き全体がストップしていた。


 ある人が、お盆休み…と言うよりも、これを機会にと、通常よりもかなり長い休みを取って、しばらく前から海外旅行に行っていたのが、直接の原因。


 でも、それを請け負った、ある部門のあるグループ、仕事の期限をちゃんと理解していない人や、相手の勤務状態を確認しない人、さらに連絡を忘れがちな人など、マイナス方面で多才な人たちの集まりだったらしい。

 さらに、似たようなことがいくつか重なってたようで、そこだけが麻痺状態。


 そこの部門の遅れから、連鎖的に、みんなの動きが止まってしまっていたことが、今朝になってわかったんだとか。


「のどかな人たちの集まりなんでしょうね…」

 という、このグループに対してのぼやきに、『のどかな』なんて、ここには出して欲しくない言葉、美枝ちゃん、わざと使ったみたいだけれど、おれ、『うん、うん、大変だったね…』と、最後まで、ちゃんと聞いてあげた。


 美枝ちゃん、ちょっと、ご立腹のようだが、でも、『まあ、お盆休みじゃね…。しょうがないのかな…』なんて言いながら、昼にビールを飲むことで、けりを付けるみたいな感じだ。


 何事にも、きっちりが好きな美枝ちゃんのこと、しかも、遅れている連絡も来ないんじゃ、本当は、『なにがお休みなんじゃい、このアホタレが』と言いたいんだろうと思うんだけれど…。


 でも、美枝ちゃん、どこにも怒りをぶつけないで、お盆明けに、いかに迅速に仕上げるかを、さっきまで、調整していたようだ。

 怒ってなんかいないで、キビキビと動いてカバーする、その方向性がいいな。


 そして、ホク君、そんな美枝ちゃんのご相伴と言うことで、思わぬ昼のビールに、にんまりとしていた。

 吉野さんのなすの揚げ煮、ビールにも合いそうだからね。


 まあ、お盆休みが明けるまで、その方面での動きはできないけれど、美枝ちゃん、仕事はいろいろあるらしく、今ビールを飲んで、昼寝して、あとは次の仕事にかかるんだとか。

 ビールに昼寝が付いているなんて、のどかな感じがするんだけれど…。


 美枝ちゃん、飲みながら、おれに、愚痴のようなことをちょっと言ったあとは、もう、なすを食べながら、美味しそうに飲んでいる。

 この、切り替えの速さは、素晴らしい。


 そんな中で、

「実は、ちょっと話しておきたいんだけれど…」

 と、おれ、今日までのことや、これからの方針について、話し始める。


 そう、この様な、微妙な前置きを入れはしたんだけれど…、場の状態で…、食事中と言うことでね、いつもの通り、ちょっと突然な感じもしないではなかったかも。

 でも、みんな、すぐに、聞く体勢になってくれた。


「一昨日、洞窟で気を失っていたときのことなんだけれどね…」

 

 まずは、今までの経過報告のようなこと。

 ヒトナミ緊張を、洞窟の中で時々して、あの小さな岩の反応を見ていた話。


 そして、一昨日は、洞窟の小さな岩、ほとんど紫色に変わらず、ちょっとした焦りもあって、頑張りすぎて気を失ったことを正直に。

 ご心配をお掛けしました。


 それなのに、今日は快調。

 そして、ふと、妖魔の力は、月齢とともに変わるんじゃないかと思ったこと。

 だから、木戸さんの言っていた『弱すぎもせず、強すぎもせず』は妖魔のヤツのことなんだろうと考えた…そんなことを話した。


 みんな、このことには興味があったので、なるほど、といった感じ。

 それで、あやかさんが消えてしまった日も、サッちゃんが妖魔に捉えられてしまった日も、十六夜、満月の翌日だったことに触れると、美枝ちゃん、飲みかけのビールのグラスをテーブルに置いた。


 だから、妖魔の力は、満月の頃に最も強く、徐々に弱くなって、さくの頃に最も弱くなるんじゃないか。

 そして、朔から満月へと、徐々に強くなるんだと推測したことを話した。


 それで、これから、そのことを明確にしようと考えていると伝えた。

 だから、そのために、明日からは、毎日、洞窟でヒトナミ緊張をして、岩の反応を調べてみるんだと、これからの方針を詳しく説明。

 妖魔に知られないように、こっそりと、うちで、さらなる緊張力アップの訓練をすることまでも。


 それらについて、みんなから、いろいろと話が出た。

 まあ、いいんじゃないの、という、おれの方針を支持してくれる意見だけれど、からかい半分のものもあった。

 もちろん、美枝ちゃんだけれど。


 いずれにせよ、みんなも、妖魔の力、月齢に関係して、強くなったり弱くなったりするものなのかどうか、かなり興味があるようだ。


 そして、浪江君が、

「それじゃ、ぼくが、毎日リュウさんと一緒に行って、その映像、撮っておきますよ。

 いつが、どの程度、紫色になるのかって、はっきり比較できると思いますよ」

 と、思わぬことを言ってくれた。


 確かに、映像があれば、何日前の状態と同じだ、いや違うぞ、と、比較しやすいし、ほかにも、何か活用できるかもしれないので、何かと都合がいいと思う。


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 その次の日、火曜日。

 あやかさんが消えてしまった日から76日後。

 そして、旧暦では4日となる。


 洞窟に入り、まず、あの、独特な形の小さな岩の前で、目の色を変えてみた。

 すると、フワッと岩の7、8割が紫色になって、表面の質も変わり、キラキラしている。


 グッと緊張を強めると…、第2段階というレベルだけれど、小さな岩全体が紫色になった。

 明らかに、昨日よりも、反応がいい。


 砂場に行く。

 浪江君がいるけれど、気にしないで、あやかさんにおはようの挨拶。

 実は、『気にしないで』と書くほど、気になったんだけれどね。


 そして、砂場の手前で、緊張開始。

 向かい側の岩の壁、畳2枚くらいの広さが紫色に変わる。

 もちろん、表面の岩質も変わり、キラキラと輝く。


 よし、これを毎日続けて、様子を見ていけばいい。



 ****  ****  ****  ****  ****


 第5章を終わります。

 次は、最終章になっちゃうのか、あるいは、それに限りなく近い、

  第6章 さあ、やってやろうじゃないの です。

 最後まで、お楽しみいただけたら、幸いです。


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