4-5  1週間後

 あやかさんが消えてしまってから、もう、1週間が経ってしまった。


 一日いちにち、すごく長い時間が過ぎたようでいて、いざ、今日になってみると、あっと言う間に過ぎてしまったように感じる。

そして、この間、おれ、いったい何をやっていたんだろうか、という思いになる。


 いや、一生懸命に、やってはいたんだけれど…。

 山道を走るようになって今日で4日目だ。

 地道に、体力をつけることはやっている。


 それに、集中力を高める試みもしている。

 あの、目の奥に力を入れるような、あの感覚をマスターしようと、また、力を高めようと、何度も何度も練習していた。


 でも、逆に言うと、そのくらいのことしかやっていない。

 これで、どのくらいの力が付いていくのか、妖魔を呼び出すことができるだけの力になるのか、ちょっと不安な気持ちもあるにはあるのが、つらいところ…。

 まだ、始まったばかりなんだけれど…。


 それで、集中力を高めるトレーニングだけれど、この4日間で理解し、改善したことは、気分が悪くなるまでやってはダメだと言うこと。

 回復に時間がかかって、何回もできない。


 クラクラし始めて、ちょっと気分が悪くなってきたかな?というときが限度。

 ここで止めて、休息を入れた方が良い。


 これに気が付いたのは一昨日。

 翌日からの訓練のし方が決まり、ちょっとうれしくなって、夕方、食堂にいた美枝ちゃんにこのことを話す。


 すると、美枝ちゃん、ちょっと眉をしかめて、

「やっぱり、リュウさんは、いつも、のどかな感じですね…」

 と、言って、ニッと笑う。


 それから、今度は、くりっとした目でニッコリと笑って、

「そういうのって、頼もしく感じますよ」

 だってさ。


 おれ、ちょっと、顔が赤くなった感じ。

 恥ずかしいような、照れくさいような…。


 それで、部屋でやると、どうも、あやかさんのことを思い出してしまい、そこからしばらくはボーッとしてしまうので、雰囲気の違う、しかも、人が来ないような場所が、別荘の中にないのか聞いてみた。

 暗に、自由に使える地下室でも、ないのかなって感じで。


 そうしたら、

「屋根裏部屋はどうなんですか?」

 と、聞かれた。


「えっ?屋根裏…部屋?」

 おれ、まったく知らなかったけれど、『西の部屋』と、『東の部屋』には、屋根裏に、まあ、だから3階になるんだろうけれど、部屋が付いているんだそうだ。


「別荘、外から見たときに、わからなかったんですか?」

 と、美枝ちゃんに言われてしまった。


 確かに、門のあたりから別荘を見ると、正面に大きな屋根の斜面があり、その左と右に、斜面にせり出すように、三角の屋根が付いている。

 その三角形の正面の壁には窓まである。


 あれは、確かに、左側にある三角屋根は、『西の部屋』の上だ。

 でも、どこからそこに上がるんだろう。


 それを聞いたら、美枝ちゃん、大笑いしながら。

「北側についている部屋の、外壁に沿ってありますよ」

 と、教えてくれた。


 外壁って?と聞こうとしたが、まあ、行けばわかるだろうし、あんまり聞いてばかりも恥ずかしいので、お礼を言って、すぐに部屋に戻ってみる。

 そして北の部屋へ。


 ロッカーの右側の空間が、へこんでいる。

 その先は、壁だとばかり思っていたけれど…、ちゃんと見たことはなかったけれど、それ、壁のようにも見えるものの、引き戸だった。


 ガラガラガラと、ロッカーの裏に、その戸を横に滑らせて押し入れると…。

 おお、階段があるではないの。

 左に上がっていく階段。


 まあ、右側は、家としての北側の壁だから、階段が付いているわけはないし…。

 ついでに言うと、正面は、西側の壁、だから、階段は左に上がるしかない構造。

 南の部屋の隅っこにある物入れ、この階段の下の空間を使っていることを理解した。


 うん?そうか、それで、あそこの天井、屋根がへこんだようなかたちで斜めになっているんだ…。

 階段の底が、少し、天井から下に出ていたとわかった。


 階段には、埃などないから、おれたちが来る前に、美枝ちゃんたちが掃除してくれたとき、ここも、きれいにしてくれていたことがわかる。

 ひょっとすると、吉野さん、週2回、『西の部屋』を掃除してくれるとき、ここもきれいにしてくれているのかも。


 上がってみると、畳1畳分くらいのスペース。

 床は、板だけれど…。

 正面に小さなドアーがあり、左側には、入り口と同じ様な引き戸。


 こっちだろうな、と、左の引き戸を開けると、南北に細長い部屋。

 でも、想像していたよりも、かなり広い。

 この部屋の広さ、アパートの時の感覚だと、6畳間を縦に二つ繋げて…、それより、まだまだ長さのある部屋、といった感じだ。


 天井は低く、特に両側は、斜めになっていて、外側ほど低くなっている。

 そして、南北に窓があり、これも、外からうける印象よりも、大きな感じ。

 窓にカーテンが掛かっているので部屋は薄暗い。


 中に入ってみる。

 板の間で、何も置いていない。

 手を上に上げると、簡単に天井に届く。

 でも、低いとは言っても、そのくらい…2メートルくらいの高さはある。


 確かに、ここは、集中力を高めるために、じっと籠もっているには、いいところかもしれない。


 ということで、集中力を高める訓練をする場所も見つかった。

 ヨガマットを借りて、昨日から、そこでやっている。


 そのヨガマットだけれど、サッちゃんが寝るときに使ったものとは別のもの。

 あれは、サッちゃん、とても気に入ったようで、すでに、サッちゃんの部屋の備え付けとなっているので、手出しはできない。


 でも、実は、どういうわけか、この別荘の倉庫には、色違いなども含め、いろいろなヨガマット、クルクル丸めたのが十数本(枚?)あった。

 しかも、このあと、しばらく経ってから見つけたんだけれど、『西の部屋』の階段下の物入れにも、あやかさん専用のものと思われるヨガマットが、二枚あった。


 まあ、ヨガマットがいっぱいある謎も、この別荘の七不思議に入れておこう。


 それと、妖魔に関しての情報を集め、整理していこうと思ったときのこと。

 このあいだ、電話で木戸さんと話をする時に、有田さん、確か、木戸さんは妖魔を探しているようなことを言っていたので、特に、聞きたいことの的を絞ったわけでなく、雑談的に話し始めてみた。


 これ、昨日の、夕食の時のこと。

 というのも、今度の金曜日、だから明後日だけれど、木戸さんが、ここに来る話が、有田さんから出たから。


 そして、木戸さんは、ここに1泊するとのこと。

 あの映像を見て、おれの話をしっかりと聞くために。

 その翌日、土曜日には、木戸さん、東京に発つが、その時、有田さんも一緒に東京に行くことにした、というような話だった。


 そんな話の時に、おれ、聞いてみたわけだ。

 そうしたら、思いほかの収穫があった。

 木戸さん、妖魔の文献、興味を持って、いろいろと調べたことがあるんだとか。


 櫻谷家に伝わる『妖魔降霜陣』も読んでいるそうで、今度、それについて、『講義をしてもらえばいいよ』と言うことで、それが決まった。

 決まった、とまでいうのは、有田さん、すぐに、その旨、木戸さんに連絡してくれて、了承をもらったから。


 有田さん、電話でそのような話をしたあと、スマホに向かって、

「えっ?直接話したいの?」

 と、木戸さんに確認。


「ケンちゃんが、リュウ君と、直接、話したいんだってさ」

 と、ホイとおれにスマホをよこした。


 木戸さんと簡単な挨拶をしたあとに、どうして、今、『妖魔降霜陣』なのかを聞かれた。

 それで、おれ、妖魔に関する情報を集め、整理したい旨、話した。

 あやかさんを奪還するために。

 そうしたら、木戸さん、いろいろな話をしてくれた。


 その『妖魔降霜陣』は、かなり古い本なので、普通の人が読むのには、かなり難しいものであること。

 木戸さんは、昔からの趣味が、古文書を読むことなんだそうだ。

 それでも、これは、特殊な文献で、理解するには、やや時間がかかったんだとか。


 準備もあるので、『一度、東京に戻って、仕事を済ませたあとになるけれど、なるべく早く、別荘に戻るから』と、約束してくれた。


 その講義の時だけれど、しっかりしたコピーがあるから、原本はいらないよ、ということまで言ってくれた。

 そうなんだよな…、あやかさんから、まだ、それらのありかを聞いていないから、あの地下室だとは推測できるんだけれど、探すの大変だな、と思っていた。

 あやかさん好みの隠し棚のような物、ありそうだから。


 そのほか、今まで、調べたこともいろいろとあるので、それら、すべてを教えてくれるとのこと。

「数日から1週間くらい、覚悟してよね」

 と、なった。

 ね、すごい、大収穫だったでしょう?

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