4-4  3日後

 その次の次の日。

 だから、土曜日で、あやかさんが消えた日から数えて4日目。

 消えた日の3日後とも言うのかな?


 朝、食事前に、洞窟まで走って往復3回。

 これは、昨日から始めた。

 最初の1回目は、洞窟の中、砂場まで行って、あやかさんに『おはよう』の挨拶をするので、ライトを洞窟入り口に置いておくことにした。


 そして、今朝も、洞窟の砂場で、十分ぐらいボーッとしていた。

 洞窟に着くたんびに、引き寄せられるように砂場まで行き、そこでたたずむ。

 特に、一人だと、ずっとこのまま、ここにいたい気がする。

 ここから離れるの、なんだか寂しくてしょうがない。


 でも、それじゃ、おれに力が付かない。

 あやかさんを取り戻せない。

 そう思って、そこを離れる。

 ここは、朝の挨拶だけ、と決めて、明日からは、1往復するだけにした。


 それもあって、今日で、山道の整備を終わらせるつもりだ。

 明日からは、走る中心は、別荘の前の山の道。

 道は、思っていたほど荒れていなかったので、昨日までに、2キロくらい…、全体で、たぶん、3キロ前後だと思うから、6、7割は終わらせたと思う。


 だから、今日中に終わらせることができるだろうと考えているわけ。

 山の中をあちらこちらと走る道だけれど、もともと、かなりしっかりと作ってあって、長年、基本的な管理もされていたようで、道そのものが消えているような箇所はなく、道そのものの傷みが酷いところもわずかだった。


 だから、作業の中心は、枝払いと草取り。

 笹藪が道に入り込んでいるところは、面倒だったけれど、二カ所だけだった。

 それに、一昨日、北斗君に言われてから、ヒトナミの力を使うことに気が付き、かなり、楽にできたんだと思う。


 さて、それで、昨日のことになるけれど、島山さんの運転で、デンさんと、静川さんが、東京の家に戻った。

 昼前に、ここを出ていった。


 静川さんは、基本的に、今まで通りに動いて、東京の家を維持してくれる。

 さらに、その時その時に、美枝ちゃんが別荘からお願いする、東京で動かなくてはならない仕事をするらしい。


 はじめ、その手伝いに、美枝ちゃん、沢村さんを考えていたが、おじいさんが『あやかが戻るまで、沢村さん、うちの方に来てもらえないかな…』と言いだして、美枝ちゃん、その申し入れを受け入れた。


 おじいさんと洲子おばあさん、今の家政婦さんにもう少し楽をさせてあげたくて…、吉野さん以上に昔からずっとらしいので…、もう1人の家政婦さんを探していた。

 それで、とりあえず、と言うことで、美枝ちゃんに打診したようだ。


 でも、わざわざ沢村さんにしたのは、…美枝ちゃんが言うにはだけれど…、あやかさんが戻ったときに、すぐに元の人たちで、前と同じような生活ができるようにと、おじいさんなりに、一人一人のこれからの役割を考え、沢村さんのこと、気にかけてくれたようだ。


 だから、美枝ちゃん、すぐに静川さんに相談。

 その話しを聞いて、静川さんも、とにかく、一人でやってみて、できるかどうか様子を見る、と言うことで、こちらの話はまとまった。


 それから、美枝ちゃん、沢村さんに連絡して、了承をとった。

 でも、昨日、美枝ちゃんから、その電話がかかるまで、沢村さん、あやかさんが消えてしまった話を聞いただけで、ずっと、情報不足のままだった。

 かなり心配していたので、美枝ちゃん、またおれに電話を替わる。


 沢村さんへの詳細な報告が遅れたこと、美枝ちゃんもおれも、本当に申し訳ない気持ちになっていたので、当然、おれ、すごく丁寧に説明した。

 そして、最後に、今まで以上に強く、必ず、あやかさんを取り戻すと、おれが宣言したら、沢村さん、電話の向こうで泣き出してしまった。


 そのあと、島山さんやデンさんも、静川さんの仕事を、必要なら手伝ってくれることになり、週に二度ほど、うちの食堂で、昼を食べながら、…食堂も、時々、使わなくてはいけないからね…、3人で打合会をすることになったようだ。


「飲み仲間だからね」

 と、うれしそうに島山さん。

 聞くと、先日、夜中、あやかさんのことを心配して、3人で飲んだことを言ってるようだ。

 3人で、あやかさんのことを話し、気持ちが、今まで以上に通じ合ったようだ。


 それと、これも昨日のことなんだけれど、島山さんたちが帰ったあと、昼過ぎに、有田さん、なんと、浪江君を連れて、買い物に行った。

 おれと北斗君、山道整備で忙しそうだからと言うのが、その理由。


 さゆりさんが言うには、浪江君、有田さんに誘われて、キョトンとしたまま付いていったんだとか。

 まさか、買い物に誘われるなんて…、浪江君にしてみれば、想定外もいいところで、嫌だとも言えず、何の反応もできなかったようだ。


 それで、なんと、なんと、有田さん、ベッドを買ってきた。

 しっかりした枠に、ただ単に、檜でできた簀の子を乗せるだけの構造。

 たまたま、量販店で、予約用に展示されていたのを、頼み込んで買ってきたらしい。

 そこに、あまり厚くない羊毛布団を敷く。


 サッちゃん、普通のベッドでは、フカフカで、ぐっすりと眠れないらしい。

 一昨日の夜は、床に、ヨガマットを敷いて寝た。

 それで、有田さん、クッションのないベッドを探しに行ったと言うこと。


 そうなって、『このベッド、どこに置こうか?』から始まって、サッちゃんの部屋をどうするか、の話になった。

 さゆりさんが、ゆっくりとサッちゃんに聞いたところ、1人でも大丈夫だと言う。


 それで、島山さんとデンさんが泊まっていた『楓』の部屋、さゆりさんの部屋の隣だが、そこをサッちゃんの部屋にすることなった。


 二つ置いてあるセミダブルのベッド、とりあえず、部屋の隅に押しつけて、新しいベッドを入れた。

 そうやっても、もともと広い部屋だから、余裕がある。


 セミダブルのベッド、近いうちに片付けること、さゆりさんが話したら、どうも、サッちゃん、そのままにしておいた方がいいような感じなんだとか。

 ガランとするのが嫌なのか、あるいは、遊び場と考えているのかもしれない。


 で、昨夜は、サッちゃん、楓の部屋で一人で寝た。

 寂しくなかったんだろうかと気になったが、朝ご飯の時に食堂で会ったら、特に、何でもない感じ。


 椅子に座って、テーブルで食べるのも、なんとなく慣れてきた。

 サッちゃん、ものすごい、適応力を持っているようだ。


 しかも、サッちゃん、今朝は、パンを食べている。

 昨夜、吉野さんとさゆりさんから、パンのことを聞いて、どうも、とても楽しみにしていたようなんだとか。


 バターをつけたり、ジャムをつけたりと、さゆりさんや吉野さん、いろいろと教えながら、楽しそうだ。

 ちなみに、さゆりさんの横にサッちゃん、その隣に吉野さんが座っている。

 これからは、この様に座るのだそうだ。


 そう、テーブルの座り方だけれど、まず、そのテーブルについて。

 この食堂には、ゆったりと4人分のスペースを持ったテーブルが6脚ある。

 東西に2脚並び、それが、南北に3列ある。


 それが基本だが、普段は、台所寄りの列に一つ足して、三つ並べてくっつけて、細長い大きなテーブルにしてある。

 これ、あやかさん好みなので、これは変えない。


 だから、片側に、ゆったりと6人ずつ座れる。

 でも、おれの方の側、窓側の一番端の席を空けてある。

 これは、あやかさんの分。


 そして、その空席の隣りにおれ、続けて、美枝ちゃん、北斗君、浪江君と座る。

 あやかさんが戻れば、おれ、あやかさんと替わる予定。


 そして、その向かい側に、窓側から、有田さん、さゆりさん、サッちゃん、吉野さんの順。

 有田さんの前が空いていて、さゆりさんの前におれ、という感じ。


 みんなでの朝食は、楽しいんだけれど、どうも、おれから、寂しさが離れない。

 そんな気持ちを紛らわそうと、有田さんに、木戸さんのこと聞いてみた。

 そうしたら、学生時代からの親友なんだそうだ。


 有田さん、30歳の頃に、おじいさんに誘われて、警察を辞め、ここでの仕事についた。

 おじいさんに言われたことをやる仕事。


 断ることも認められ、興味があれば受けるということでいいらしいんだけれど、そこはおじいさん、上手だから、だいたい人が興味を持つように話す。

 その、興味を持った…持たされた、かな?…ことを、時間、方法、すべて好きなように調べていくという、けっこう自由のきく楽しい仕事。


 そのような有田さん、情報が欲しいという仕事がらみのことも多かったが、昔から気の合う木戸さんに、ちょくちょく接触した。

 そんな、有田さんとの話が楽しくて、もともと、心の奥にあった木戸さんの、こんな生き方でいいんだろうか、の爆発スイッチを押してしまったらしい。


 木戸さん、本来、人に言われたことを、そのままやるのが大嫌いだったんだとか。

 ただ、そのような自分の性格に気が付いたのは、勤めだして、10年目の時。

 有田さんが、仕事を辞めて、少し経った頃。


 それでも、真面目な性格。

 自分を抑えて、周囲に迷惑がかからないように、一生懸命に仕事をしていた。

 もうダメだ、と、爆発したのは、『もうじき40歳なんだな…』と、思ったとき。


 木戸さん、すぐに、有田さんに相談。

 有田さん、おじいさんに相談。

 すぐに、有田さんと同じ様な条件で、ここでの仕事が決まった。

 ただし、おじいさん付でなく、あやかさん付。

 このシステム、今回は聞けなかったので、おれは、まだよくわかっていない。


 そんな木戸さん、あと数日で、ここに来るそうだ。


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