3-7  すぐに行く

 サッちゃんの戸籍については、とりあえず、おじいさんに任せることになった。


 おじいさん、なんか、すごい裏技を使える知り合いがいるような感じだから…。

 でも、その人、怪しい類いでないといいんだけれど…。

 うん?でも、こういうことできる人で、怪しくないタイプって、いるのかな?


 そして、おじいさん、続けて、

「で、なあ、その、サッちゃん…、あやかに似ているというんだろう?

 ちょっと、会ってみたいな…」

 だって。


 さらに、それに乗るように、洲子おばあさんまで、

「そうですよね。

 会っていないの、わたし達だけで、どうも、話が、ピンときませんよね…」

 とのこと。


 別に、二人を外しているわけではないんだけれど、でも、どうも、そんなことをされた、というようなニュアンスさえ持っている感じ。

 サッちゃん、寝ているし、さて、どうしたらいいのか…。


 すると、さゆりさん、すぐに対応。

「今、ちょっとみてきますね」

 と言って、立ち上がって、2階に向かった。


 そうなんだよな…。

 どうしたらいいのか、なんて、余計なことを変に考え込むよりも、素直に、こういう風に動けばいいだけの話なんだよな…。



 さゆりさん、すぐに、降りてきた。

 サッちゃんを連れて。

 その後ろから、静川さん。


 階段を降りてくるサッちゃんをみて、洲子さん、息をのんで呟いた。


「本当に…、あやかに…、子どもの時のあやかに、そっくりなのね…」


 洲子さんとおじいさん、驚いた顔でサッちゃんを見つめていた。


「ちょっと寝ただけで、すぐに起きていたみたいなんですよ…」

 と、さゆりさん、おじいさんとおばあさんの前までサッちゃんを連れて行き、二人をサッちゃんに紹介した。


 ちゃんとした名前で。

 だから、おじいさんは、『櫻谷泰蔵さんですよ。みんなは、会長さんとも呼んでいるのよ』と、真面目な顔で。


 おれ、『真面目な顔で』と書いちゃったけれど…、まあ、『会長さん』なんて言うところ、冗談のように受け取っちゃったんで、そうしたんだけれど、でも、さゆりさんとしては、至極、真面目だったのかもしれない、と、あとで気付いた。

 ごめんなさい。


「サッちゃん、疲れたんでしょう?」

 と、玲子さん、脇から優しい顔で声をかけた。


 サッちゃん、玲子さんのこと、じっと見て、言われたこと、わかったのかわからなかったのか、でも、ゆっくりと頷いてから、ニコッとした。

 すごく、かわいらしい、ニコッだった。

 玲子さん、もう、メロメロな感じ。


 挨拶が終わると、さゆりさんに手を引かれ、おれの後ろをぐるっと回ってさゆりさんと並んでソファーに座った。

 さゆりさんの隣りでも、玲子さん側。


 さゆりさん、気を利かしたみたいで、玲子さん、サッちゃんが横に座ったので、すごくうれしそうだった。

 サッちゃんに、小さく、なにか声をかけていた。


 おじいさん夫妻、サッちゃんに会ってからは、今まで以上に本気でいろいろなことを考えてくれた。

 お父さんも含め…、もちろん、玲子さんは主導的な位置で参加して、サッちゃんの、これからのことを話し合った。

 

 おじいさん夫妻とお父さん夫妻、どちらも6時半頃に迎えの車が来て、ホテルの方に向かった。

 まあ、2台の車が、同時に来た、ということ。


 帰りがけに、お父さんが、

「リュウ君の説明があったので、あやかのこと、なんとか乗り切れそうだよ」

 と、言ってくれた。


 とは言え、みんな、直接、表には出さないけれど、大きな不安と心配を持っていることに変わりはない。

 あやかさんは、お父さんやお母さんにとって、最愛の一人娘だ。


 その、あやかさんが、突然消えてしまって、なにがどうなったのか、肝心なことは、なにもわかっていない。

 本当に、無事なのかどうか、どうしても、その心配は付きまとう。


 おれの考えている通りだったとしても、どうやったら、おれが、あやかさんと合流できるのか、まだわからない。

 そして、その方法がわかっても、おれの力で、うまくできるのかどうか、という、次の問題も出てくる。


 でも、お父さん達、みな、その辺は、おれに託してくれているようだ。

 ほかに手段が考えつかないということもあるのだろうが、おれが考えていた以上に、おれ、信頼されているということになる。


 そう、大丈夫です。

 おれ、なにがなんでも、あやかさんと合流しますから。

 おれ、もう、それだけを目的に動きますから。


 でも、そういう中で、サッちゃんが来てくれたことは、ありがたいことだった。

 おかげで、みんなの気が紛れたことは確かだ。

 サッちゃんが、たまたま、いなくなったあやかさんに似ていたことも、大きな力を持っていたんだろう。


 また、あやかさんの、今の状態を、いい方向で考えることができる。

 それは、サッちゃんと同じ状況と考えられるからだ。

 それなら、必ず取り戻せるはずだ。


 さらに、それまでの間も、あやかさんは、止まったままで…、だから、今とは何ら変わらないままで、無事でいてくれるはずだ。


 サッちゃんのおかげで、みんなの心配までもが、少し、和らいだように思う。

 ただ、同時に、それは、表面的なものだということを、おれ、忘れてはいけない。


 おれ、しっかりと、みんなの心の底にある心配を背負い込んで進んでいくつもりだ。

 そして、必ず、必ず、あやかさんと、合流する。



 玄関の外で、お父さん達を見送ってから、ロビーに戻ってきたとき、さゆりさんが、大きな声を出した。


「あっ、有田だ…。

 わたし、お嬢様のこと、有田に連絡するの、忘れていたわ。

 ごめん、ちょっと連絡するね」

 と、ソファーの脇へ。


 それを聞いた美枝ちゃん、

「あっ、わたしも、デンさんやシマさんに、連絡していなかった。

 ねえ、ホクは…」


 それから、すぐに、さゆりさんは、有田さんに電話。

 美枝ちゃんは、まず、デンさんに電話。

 北斗君は、美枝ちゃんに頼まれて、吉野さんに電話。

 3人の電話で、ロビーが急ににぎやかになった感じだ。


 サッちゃんは、ロビーのまん中、静川さんの横で、物珍しそうに、それを見ていた。

 まあ、それはそうだろう。

 大人が三人、小さな箱に向かって、一生懸命に話をしているんだから。


 さて、おれは、何をしていようかな、と、思って、とりあえず、ソファーに座った。

 座ってすぐに、さゆりさんに呼ばれた。


 さゆりさん、

「お嬢様のこと、リュウさんから、直接、有田に説明して下さらない?」

 と、言われ、電話を替わった。


 簡単な挨拶のあと、有田さんに、あの洞窟で、おれが見たことと、考えたことを丁寧に説明した。


 有田さん、

「なるほど…、わかったことはわかったけれど…。

 今から、映像を見に、そっちに行くよ」

 とのこと。


 映像を、ネットで転送しましょうか?と、おれ、言ったんだけれど、有田さん、とにかく、すぐに来るとのこと。

 それで、おれ、今、美枝ちゃんが、デンさんたちにも連絡していること伝えた。

 たぶん、デンさんたちの中でも、だれか、すぐにこっちに来る人、いるかもしれないから。


 有田さんとの話が終わると、待ってましたと、美枝ちゃんに呼ばれ、今度は、同じことを、デンさんに説明。

 デンさん、家にいたが、やっぱり、すぐにこっちに来るというので、おれ、有田さんも、今から来ることを伝えておく。


 デンさんが終わると、北斗君が待っていた。

 電話を替わって、今度は、吉野さんに説明。

 最後に、また、美枝ちゃんと変わって、島山さんにも説明。


 そう言う感じで、おれ、続けて、同じこと、4人に説明した。

 そして、全員、最後に、『すぐに行く』と言っていた。


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