3-6  サッちゃんのこと

 美枝ちゃんに電話があって、さほど時間が経たないうちに、泰蔵おじいさんと洲子くにこおばあさんが、お父さん達と同じ様な感じでここに着いて、おれ、すぐに、会議室に連れて行き、先ほどと同じように説明した。


 お父さんとお母さんも、もう一度聞きたいと同席。

 静川さんを除く、美枝ちゃんたちも。


 静川さんは、さゆりさんの様子を見に行き、サッちゃんが寝ていたので、さゆりさんと交換した。

 で、今回は、さゆりさんが同席。


 ロビーで、おじいさんたちと挨拶が終わって、すぐに、会議室に移動するとなったとき、静川さんが2階に様子を見に行く話が出た。


「サッちゃん?」

 と、おじいさんがおれに聞いた。


 それで、おじいさん夫妻に、

「ええ、実は…」

 と、おれ、サッちゃんの話を簡単にした。


 簡単な話でも、反応は、やっぱり、ものすごい驚き。

 詳しくは後ほどに、ということで、会議室に移動した。



 そして、会議室で、同じように、映像を見てもらいながら、丁寧に説明した。

 説明が終わったあと、今回のこと、あやかさんが消えてしまったことを、おれがどう捉えているのか、それについてどう考えているのか、そして、何よりも、これから、何をしたいのかといいうことを今まで以上に詳しく話した。


 そういうことを、ここにいる人たちには知っておいて欲しかったから。

 絶対に、あやかさんを取り戻す。

 あの妖魔を、叩き潰す、という決意。


 でも、最後に、『あやかさんと合流し、一緒になって、あいつをでっかい妖結晶に変えてやるつもりです』と言ったら、あとで、美枝ちゃんに、また、『最後の締めが、のどかでしたね』と、言われてしまった。


 一瞬、『どこが、のどかなんじゃい!』と、言い返してみたいな、と思ったけれど、まあ、そんなこと、思うことが精一杯で、決して言えるわけないのが、このおれなんだよな。

 おれらしい、ということが、『のどか』になっているような感じだ。

 これに関しては、諦めた方が、良さそうだ。



 説明が終わったあと、また、先ほどのように西側のソファーのところに移った。

 お父さんとお母さんが、さっきと同じところに座ると、泰蔵おじいさんと洲子おばあさん、南の窓のところのソファーに並んで座った。


 それが、すごく、自然な感じで座ったので、このときになって気が付いたんだけれど、この席にこの様に座るのが、この4人の、昔からの習慣なんじゃないだろうか。

 だから、指定席、といったような感じで…。


 ということで、おれと美枝ちゃんはさっきのままの場所。

 ただ、北斗君と浪江君が、コーヒーを淹れるために台所に行ったので…、静川さんは2階にいるので、二人がコーヒーを淹れてくれることになった…、さゆりさんが、玲子さんの隣に座った。


 そこで、まず、おれが、あやかさんを取り戻すまで、ここで暮らしたいことを、まあ、お願いするような感じでおじいさんに話すと、おじいさん、

「ここはあやかにあげたものだから、それは、リュウ君の自由にしていいんじゃないのかな…」

 ということで、なんとも簡単に決まってしまった。


 でも、美枝ちゃん、すでに、もっと具体的に詰めてあった。

「それで…、わたしもお嬢様の近くにいたいので、ホクと…、それに浪江君もですが、お嬢様を取り戻すまで、ここで、一緒に暮らすことにしました…」

 とのことで、今日、洞窟に行ったメンバーは、そのまま残ることになった。


 そして、おそらく、吉野さんも、彼女の性格から考えると、こっちに来て、われわれと一緒に暮らすことになるだろうとのことだった。

 まあ、台湾に行ってまで、あやかさんのことが気にかかり、すぐに戻ってくるほどだから、たぶんそうなるんだろう。


 そのほかの人…特にさゆりさんと静川さん、それにお手伝いの沢村さんのことだろうけれど…、その人達の動きは、サッちゃんが来たことで、新しい動きが加わり、さすがの美枝ちゃんでも、まだ、調整できていないということだった。


 そうしたら、さゆりさん、

「わたしは、ここで、サッちゃんの面倒を見ていこうと思っています。

 リュウさんに協力しながら…とは、考えていますが…」

 と、話し始めた。


「ただ、お嬢様がこの様な状態では、とりあえずはボディーガードは必要ないと思いますので…」

 と、まず、完全に自由に動けるようになるために、おじいさんに、あやかさんのボディーガードの仕事を辞任する旨、伝えた。


 でも、おじいさん、あっさりと拒否。

 それは、『どんなかたちで、何をしていてもいいから』と始まり、とにかく『リュウ君を補助してあげながら、動くように頼みますよ』とのことだった。


 どんなかたちで…というのは、サッちゃんの面倒を見ていながらでもいいよ、という意味に、ここのみんなは捉えた。

 さゆりさんが、どのような動きをしようとも、給料は、今まで通りに払うんだよ、ということのようだ。


 そして、話は、ここから、サッちゃんのことになった。

 サッちゃんをどうするか。

 おれの考えていた、あやかさん奪回本部をここの会議室に置く話などは、もう、言い出す余裕はなかった。


 そして、サッちゃんのこと。

 驚いたことに、まず、玲子さんが口火を切った。


「実はね…、サッちゃんのことは…、わたしが、あやかの妹として引き取ろうかとも思っていたんだけれどね…。

 まあ、サーちゃんの方が、先に言い出したし…、親子としてみても、サーちゃんの方が、歳があっているから、それは譲るにしてね…」


 と言うことで、さゆりさんが先に言い出していなかったら、サッちゃん、玲子さんに連れて行かれるところだったのかもしれない。

 まあ、あやかさんの妹なら、おれの妹にもなるんで…、それはそれで悪くもないんだけれど、今は、そんなこと、考えているときではないな。


 それで、玲子さん、自分も参加させて欲しいと言い出した。

 もちろん、誰も反対などしない。

 多くの問題を抱えているので、みんなの手が必要なのは、明らかだから。

 玲子さん、続けて、まず最初の提案。


「それで、サッちゃんは、文化2年…江戸時代なんでしょう?そこから、いきなり、今のここに移って来た、ということで…。

 今は、まだ、ここだから、さほどではないのかもしれないけれど…、でも、東京の家などだと、現代の病気に対しての基本的な処置をしてからじゃないと、うっかりと、外にも出せないのじゃないかしら…」


 確かに、今の人間なら免疫を持っているけれど、昔の人にはないような危険な病気があるのかもしれない。

 そして、もう、玲子さん、その対策案を持っていた。


「それで、わたしの親友に、女医さんがいるんだけれど…。

 病院勤めの内科医で…、まあ、ちょっと変わったところもあるんだけれどね。

 でも、逆に、こういう、荒唐無稽にみえる状況にも、何ら変わることなく対応してくれると思うのよ。

 それで、まず、彼女をここに呼ぼうと思うのだけれど、いいかしら?」

 と、話は、いきなり、女医さんを呼ぶところまで進んでしまった。


 話が進んだというのは、『いいかしら?』もなにも、どう考えても、次の動きとして、必要なことのような感じで、誰も異論はなかったから。

 おれとしては、そんなことまでは、考えが及ばなかった。

 でも、本当に、こんなところまで、女医さんが、わざわざ来てくれるのかな。


 それで、玲子さん、いくら何でも、文化2年の江戸時代から来たとは言えないから、なにか、ほかの理由は考えておくので、あとで、口裏合わせをよろしく、とのことだった。


 その女医さんの泊まりは、玲子さんと同じホテルを用意するので、別荘の方では『何の心配もいらないのよ』と、美枝ちゃんに言った。


 で、次には、お父さんから。

 これも、とんでもなく重要なこと。

 国籍をどうするのか、という問題があること。

 学校に行くにも、なにをするにも、まず、なくては動けないものだ。


 それで、どうするのか、とは、どうやって、日本国籍を取ったら良いのか、ということなんだろう。

 サッちゃんは、日本人だけれど、そう、間違いなく日本人なんだけれど、国籍を持っていない。


 しかも、いつ生まれて、今まで、どうやって過ごしていたか、なんてこと、誰にも説明できない。

 まあ、説明したって、信じてもらえないだろうし…。


 仮に…、仮に信じてくれるお役人さんがいたとしても、ちゃんとした事務処理に乗せるような動きまで、してくれるわけがない。

『ちょっと、おれの立場にもなってみてよ』と言われてしまうと思う。

 戸籍に、江戸時代の年号を書いて出す、なんてこと、できるわけはない。


 そうしたら、おじいさん、

「それ、おれの方で当たってみるよ…。

 海外で、どうのこうのと…。

 まあ、とにかく、ちょっと、そいつに相談してからだな。

 あとで連絡するよ。

 連絡先は、サーちゃんでいいのかな?

 それとも、美枝ちゃんの方がいいのかい?」

 だってさ。


 さゆりさん、

「わたしでかまいませんが、もちろん、美枝ちゃんでもすぐに通じます。

 申し訳ございませんが、よろしくお願いします」

 ということで、おじいさんが、何とかしてくれそうな感じだ。

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