2-2 砂場
「ここの色が変わっていったんだよ…」
と、あやかさん、美枝ちゃん達に、この間、紫色に変わっていった順に、ライトで岩を照らして、説明。
明かりが、天井にまで到達。
ここで、おれ、新たな情報を得た。
それは、一昨日、天井の岩が、かなりの広い範囲で紫色になっていたということ。
あやかさん、天井をライトで示しながら、
「この辺から…、この辺まで、紫色に変わってね、キラキラと輝いていたんだよ。
それは、本当に、すごく、きれいだったんだけれどね…」
と、説明。
きれいだったんだけれど、ふと、危険な何かを感じた。
それで、急いで、自分の『神宿る目』を解除して、おれに、目の色を戻すように声をかけながら、強く揺すったんだそうだ。
おれの記憶では、紫色のところが、天井に届いて、広がりだしたところまで。
あやかさんが指した範囲とは、大きな差がある。
これじゃ、やっぱり、ちょっとの間、おれ、気を失っていたと考えるのが妥当なんだろうな。
やれやれ…。
また、知らないあいだに、気を失っていた。
こう、簡単に気を失ってたんじゃ、そのことに不安を感じてしまうよな…。
一昨日は、この場所で、緊張を高めて目の色を変えたので、とんでもないことになったわけだ。
だから、今日は、そんなことしないで、このまま奥へと進むことにした。
あやかさんの話にあった、下が砂地になっているところ、是非、見てみたいから。
一昨日、紫色に変わったところを過ぎると、洞窟は、少しずつ右に曲がっていて、少し進むと、もう、後ろを見ても、洞窟の口は見えなくなっている。
時々、浪江君、前に出て、先を撮影。
浪江君の撮影用のライト、わりと広範囲を明るくしてくれるので、周りの状態がよくわかってありがたい。
しばらく奥に進むと、なんだか、前に通った場所を、また通ったように感じた。
「うん?」
と、つい、立ち止まってしまった。
あやかさん、すぐに気付いて止まり、振り返って、
「どうしたの?」
「うん、ここ…、なんか、一度、見たことがあるような気がして…」
と、おれが言うと、
「あっ」
と、後ろの方で。北斗君の声。
「リュウさん、それでしょう?」
と、おれの右下にある岩にライトを当てる。
さっきの、ねじれたような歪みがある形の岩があった。
独特の形ではあるのに、さっきの岩とまるで同じもののような感じ。
それが、同じ様な位置にある。
ザワッとしたものが、体を走った。
浪江君、すぐに、さっきの映像を見せてくれる。
その小さな岩のかたちは差がわからないほど似ていて、さらに、周りの岩の感じまで、そっくりだ。
「違いを見つけるのに、苦労しそうですね…。
ちょっと、鳥肌が立ってしまいました…」
と、浪江君。
「そうですね…。
ちょっと、気味が悪いですね…」
と言う美枝ちゃん、北斗君の腕に、しがみついている。
「確かに、気味が悪いわね…。
でも、わたし、今まで、気が付かなかったな…」
「見たことがあるような感じだと言われなければ、気付かずに、何気なく通ってしまったと思いますよ」
と、北斗君。
「そうですよね…。
リュウさん、よく、こんなところにまで気が付きましたね」
と、美枝ちゃん。
なんだか、気が付いたの、悪いことをしたみたいな、おれのこと、攻めるような言い方だ。
美枝ちゃん、よっぽど気味が悪かったんだろう。
「その、小さな岩のかたちがね…。
さっき見たときの印象が強く残っていたためかもしれないね…」
と、おれ、ちょっと、弁解しているような感じの返事になってしまった。
「でも、こんなに似ているのって…、
どういうことなんでしょうね」
と、落ち着きを取り戻した美枝ちゃん、おれを飛び越して、あやかさんに聞いた。
「わからないけれど…、でも、本当に、気味が悪いよね…。
とにかく、注意して、進んでみようか?」
と、あやかさん、はじめ、美枝ちゃんへの答えだけれど、後半は、おれに向かって言った感じ。
「そうだね。
とにかく、砂場になっているというところ、見てみたいから、間違い探しはあとにして、先に進もうよ」
「うん?間違い探し…って?」
と、あやかさん。
「うん、ほら、さっきの景色とここの景色、どこがどう違うかなっていうこと。
帰ったら、浪江君の映像で、やってみるんだろう?」
と、おれ、あやかさんに言ったのに、
「リュウさん、怒りますよ。
こっちが、すごく気味悪い思いをしているのに、そんなに、のどかで…」
と、後ろから、美枝ちゃんに怒られた。
「いや、のどかって言われても…。
おれだって、すごく、気味が悪いんだよ」
「そんなふうには見えませんよ」
と、言う美枝ちゃんを、北斗君が、『まあまあまあ』と、抑えてくれた。
おれだって、気味は悪いんだけれど…、そう、すごく無気味なんだけれど、でも、どこまで同じで、どこが違っているのかってことには、興味がある。
そして、どうして、こんなに似てるんだろうと、まあ、答えは出るわけないのかもしれないけれど、そんなことを考えてはみたい。
でも、そういうことはあとにして、砂場になっているところを見るために、先に進んでみようよ、と言ったつもりなんだけれど、
どうしてこれが、『のどか』に繋がるのか、おれ、ちょっとわからない。
あやかさん、おれに、意味ありげな目配せをして、ニッと笑ってから、前を向いて、先に進み始めた。
すみませんねぇ。
のどかな亭主なもんで、ご迷惑をおかけします。
少し進むと、右下の流れが中ほどに寄ってきて、道が狭まってきた。
ちょっと歩きにくくなってきたな、と思うと、すぐに、洞窟が左に曲がった。
そこがさらに左に広がるようになり、天井も高くなって、思いもよらないほど大きな、ぽっかりとあいた、広い場所に出る。
奥行き、20メートルは、優にあるんだろう。
「ここに砂場があるんだよ」
と、あやかさん。
おれも、美枝ちゃん達も、キョロキョロとしながら、だから、ライトがあちらこちらを照らしながら、その広場に入っていった。
浪江君のカメラのライトが、洞窟空間全体を照らしてはいるが、奥の方は、薄暗く、よくわからない。
その、広くなったところの、中ほどより、やや奥に行ったところに、直径3メートルほどの、ほぼ円形の砂場があった。
あやかさん、真っ直ぐに砂場まで進む。
残り4人も、ぞろぞろと、砂場の周りに。
あやかさん、そこに屈み込んで、その砂に手を入れて上に持ち上げる。
「ほら、こんな感じなんだよ」
と、あやかさん。
ザラザラと落ちる砂。
砂としては、粗い感じだ。
そう、ちょうど、ザラメ状の妖結晶と同じくらいの粒子だ。
でも、砂利などとは決して言えず、まあ、砂には違いないんだろう。
流れの縁、岩場の中に、そんな砂場がある。
「本当に、ここだけが砂なんだね」
と、おれ、あやかさんに言った。
「そうなんだよ。
洞窟の中で、ここだけ…」
ここより奥に進んでも、もうないんだよ、ということ。
前に、あやかさんが言ったように、確かに、岩場がお皿のように窪んでいて、そこに砂がたまったような感じだ。
でも、あやかさんが手を入れた状態を見ると、砂が深い感じがする。
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