34話 訪問
学校からの帰り道。杏菜の家に寄ることに決めた。
ピンポーン。
「はーい」
「葱佐川です」
「柚和君?」
「はい。柚和君です」
インターホン越しに返事が聞こえてくる。
「あ、ちょっとまってて。今、開けるから」
そう言って、声がしなくなったと思えばドアの内鍵を解錠する音が聞こえて玄関がオープンになった。
「どうしたの?」
「今日休んでたから、気になってきたのと勉強を教えにと思ったけど家庭教師がいるんだったよね。すまん、それだけ。んじゃ、また」
「あ、待って。家庭教師の人ね。実はやめちゃったの」
「あ、そうなの?んじゃ、上がらせてもらうわ」
「え?まぁ、元からあげるつもりだったけど…」
杏菜の顔は少し赤みがさしてるように見える。
「お邪魔します」
「どうぞ、上がって。私の部屋行こ」
「別にどこでもいいよ。それより、なんで休んだの?」
少しストレート過ぎたと言った後に思った。
「夏風邪だよ。少々咳が出るのと、頭痛が少し。熱なんて38.9度だよ?高いよね」
「大変だな。勉強の方は大丈夫?」
「それくらいの体力はあるから大丈夫だよ」
それが無理しての言葉じゃないとわかったから何も言わなかった。
「はい、ここ。私の部屋。入って」
「失礼します」
誘導されて入った杏菜の部屋はシンプルorコンプリケーションだった。長方形のローテーブルが中央に置いてあって、シングルベッドにはクマのプーさんがねっ転がっている。60cmほどの本棚が二つ置いてあって、右側の本棚は全部の棚が埋まっていた。
「取り敢えず、適当なとこ座っていいよ」
「んじゃ、ベッドだな」
「やっぱ訂正。そこに座って」
「…はーい」
真面目に、いつも杏菜が寝ているベッドを堪能したかった。もっと欲を言うなら、小学生のベッドか布団に入り込みたいけどね。
「よし。えっと何勉強するの?」
「理科か社会」
「んじゃ!両方やろう」
「いや、無理。理科やりながら社会って僕でもできないよ」
「あ、いや。そんな意味で言ったわけじゃ…えっと、理科やった後に社会やろって意味で言ったの」
「あ、なるほどね。了解。それならできるわ」
僕の言葉の認識が狭かったみたいだ。取り敢えず、学校のワークを進めると同時に僕が補足すると言う形でやっていこうと思った。
「理科のワーク出して」
「えっと、はい。出したよ」
「今、物理やってるから静電気からやっていこうか」
「はーい!」
地学が出そうな予感もするけど授業でまだそこまで進んでないので一先ずテスト範囲確定の物理を責めることにした。
「まず、差し詰めに当たって全ての物質には何があって何個ある?」
「陽子と電子があって、確か同数じゃなかったけ?」
「合ってる。それを電気的に中性と言うんだよ」
「あー。授業で先生が言ってた」
これが基本的な電気系統に足を踏み入れるに当たっての入門知識。所謂、常識だ。
➕電気➖電気と出てくるけど原子構造とイオンをやるときだからまだ一年も先だ。
「お、話ちゃんと聞いてるね。2種類の物質をこすり合せると片方の物質に電子が流れるんだ。そしてもう一方に陽子の電気が流れる。これを➕の電気を帯びている。➖の電気を帯びているって言うんだ。ちなみに、陽子は➕で電子は➖だからね」
「マイナスは電子で、プラスは陽子っと」
そう言いながら杏菜はノートにすらすらっと書き込んでいく。横顔から表情を少し盗み見るけど調子悪そうという以外、なんともないという表情だった。
(嫌がらせの類とかは、受けてないね…良かった〜)
嫌がらせの類を受けてないことを知った僕は安堵した。だけど念のためと言って、少し遠回しにに聞いてみることにした。
「学校どう?授業ついていけてる?」
「なんとか、かな。柚和君のノートのお陰が10割だけどね」
「まぁ、簡単にまとめたのを渡してるだけだから。言うて先生が書いてる黒板そのまま写したのを少し僕風にアレンジした感じだよ」
あんなノートで為になればと思い渡したけど、随分為になっていたらしい。それは僕個人としても嬉しかった。まぁ、でもやっぱり自分でノートをまとめて身につけられる能力は追々とつけていくべきだろう。
「やっぱり!なんか私からしたら柚和君のまとめたノートの方が好きだよ。先生は書く量が多すぎて大変」
「まぁ、そこは目を瞑ってあげよう。さて、退けあう力、引き合う力はわかる?」
「それはわかるよ。➖同士は退けあう、➕同士でも退けあう、➕と➖だと引き合うだよね。磁石で覚えたよ」
「完璧。静電気は2種類の異なる物質。うーん…例えばドアノブ触る時パチってなる時あるけどあれは人間に溜まった➖の電気が一気に放電するからああなるんだ」
「へぇ〜金属類とかプラスチックは電気を帯びやすいってこと?」
「そうだね。空気が湿ってると尚更静電気は起きやすいよ」
火花放電なんかで、大変なことになりやすい。火薬がある場所で火花放電が起こるともう大爆発だ。ガソリンスタンドで可燃性蒸気が突然引火したりするのが良い例だと僕は思う。
「次は回路だ、と行きたいんだけれど回路図は大変だからなぁ…後でまとめて渡しとくよ。取り敢えず、今日は電流と電圧についての確認をしようか」
コクコクと頷いたのを見てから、僕は説明を始めた。
「まず、電流はA(アンペア)と教わったよね。1000mA=1Aって覚えといて。電圧の単位がV(ボルト)。オーケー?」
「うん。授業でやったから覚えてるよ。ボルトは並列だと等しくて、直列だと和になるんだっけ?アンペアは別れなければ変わらないって教わった気がする」
「なんだ。覚えてんじゃん」
「え?合ってた?」
「合ってる合ってる。自信持ちな。んじゃあ、枝分かれした電流の大きさは?」
「変わる。確か…別れた後の大きさと別れる前の大きさって同じなんだよね」
「そ。だから、えっと、1.4Aが別れたとする。片方に0.8A、もう片方は?」
「0.6A!」
「正解。大丈夫そうだね。Vは上が常に一定だから並列でどこかが6Vってわかってれば後は全部?」
「6Vだよね」
電圧と電流の規則性は理解しているらしい。ここにΩ(抵抗)が入ってきても大丈夫そうだなと僕は思った。
それから、オームの法則の復習をしたり、社会で歴史のルネサンスあたりを復習して雑談を交わしていたら6:00になっていたので僕は変えることにした。
「さて、と。疲れたぁ〜。大丈夫そうじゃん。ま、明日は学校こいよ〜」
「うん。気をつけてね。バイバイ」
「ほーい。じゃ、また」
杏菜の家の玄関で杏菜に見送られて僕は家を出た。
「さっさと家に帰って、僕も勉強だ」
そう言って、家への帰り道の歩みを進めていった。
透明のアリスブルー タコさん @takosama
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