15話 精一杯の頑張り 祐奈

観客全員が騒然としていた。


明らかに、足が速すぎる男の子が土壇場而も息切れもせずに走り続けて奪われさ一位をまた奪い返したのだ。


而もその後、三組のある男の子がまたまた二組を抜かして結果白組は負けた。


今年の四組には2年の陸上部の役6割がいるからリレーは四組優勢だった筈。


当然、赤組が勝てるとは思っておらず2位に上がればいい方と思っていたけれどいざ走ってみると一組はとても優勢だった。


ずっと、一位を独占していて抜かされる事なくバトンを繋げていた。


でも、それも11走者の私のせいで無に帰した。


膝が痛くて、転んで周りからの視線も、悔しさも全部苦しかった。


今すぐに立ち止まって大泣きしたい。この場から逃げたい。そう思った。


だけど、12走者の男の子が諦めずに前だけ見て必ずバトンがきてくれると確信していると言いたげに私を待っていた。


それを見た私は、二組に抜かされていきながらも精一杯走った。


周りからは「頑張ってるなぁ」「もう負けだろ」「転んだのは仕方ない」なんて言ってるけどそんな言葉は聞きたくなかった。


だから、バトンが彼の手に渡った時意図してごめんなさいと言おうとしたのに遮られてしまった。


「君の分まで抜かせるかわからないけど、後は任せて」


なんて言ってた気がする。抜かせないだろうなと思いつつも何処かで縋っていた自分がいたのも事実だった。


だから、本当に抜かすなんて思わなかった。そして彼は助けてくれると同時に何かを奪ったのだった。



♦︎



「いや〜はやかったね」「速すぎだろ」「四組の短距離6.9秒のやつが簡単に抜かされてたからビックリ」「お疲れ〜」


労いや、お褒めのの言葉を頂く。


「あー。ありがとう」


軽くお礼をいって保健室の先生がいるところまで走る。


自分の前の走者の女の子を見に行く。痛々しい転び方をしていたし何やら落ち込んでいるようにも見えたから。


「こんにちは〜。心配で様子見に来ました」


「こんにちは。体調悪い方もいるから静かにしてね。それと余り長居はしないように」と忠告を受けてイスに座って休んでいる女の子の所に行った。


「えっと、大丈夫?言ったとおり抜かして、一組は1位になったよ」


「…」


えっと、スルーですか?悲しいなぁ


「そうだよね。転んで痛いから喋る気分じゃないよね。でも思ったより思ったほど重症じゃないことに安心したから戻るよ」


自分が出る競技はまだ少し先だけどそれでも早く戻らないと。


それに、やっぱり一人がいいんだと思う。


だけど、そんな考えも不意に耳に入った言葉で遮断される。


「なんで、何も言わずに、後ろも見ずに、バトンを待ってられたの?」


「ほぇ?」


徐に発せられた言葉にフリーズしちゃった。てへっ。じゃなく告げられたその疑問に安直な回答で返してはいけないと思った。


「…一言で言うと。頑張っていた君が報われずに落ちるのは悲しいと思った。転んで、周りから諦観の言葉を投げかけられ、頑張っていた君が責められるのは筋違いだとそう思った。だから、僕が出来る限りの事で君が握っていた気持ちをバトンに込めて僕は後の走者の人達に渡した。その結果抜かされたけど諦めずに僕にバトンを渡したからこの結果が付いてきた。頑張った君に抜かした分取り戻すなんて言ったけどこんなのは偽善でしかなくて、君自体の鬱憤ははれないかもしれない。でもどうしてもその気持ちを無碍には出来なかった。それが答えだよ」


「なんで頑張ってるなんて…」


「バトンを握っていた手と、走る直前に見た君の悔しそうな表情見れば鈍感でも気づくでしょ。あ、鈍感でも気づくところはやっぱ別に否定してもいいよ〜」


これは僕のポリシーの問題。他人から見たら綺麗事並べてカッコつけてるとか意味がわからないことを言われるかもしれない。でも、頑張った人が認められず失敗したことを駁撃され、陥られるのはふつうに見てられない。


「いや、そんなの」


「結局最終的には勝ったんだし良くない?取り敢えず、足は大丈夫かな〜?って事で来たからまぁ大丈夫そうで良かったよ。じゃあね〜」


そう言ってその場を後にした。


「…意味が、わかんないよ。でも…そっか」


雪島祐奈ゆきしまゆうなはポツリと重い呟きを零した。

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