第10話

「走ってッ!!」


 その声が響き渡る前に、もう足は動いていた。梟がもう既に武器を構えていたからだ。月明かりに照らされ、刃が煌めく。二つの短刀。その加速は、もちろん人の足の速さを遥かに凌駕する。空間を縮めるような加速。まさに鳥たちの低空飛行にそっくりだ。


 俺の背後を走っていたはずのその女はいつのまにか前を走っていた。そして振り向くと銃口を俺に向ける。


「伏せてッ!!」


 一発は命中。二発目は、大きく逸れる。しかしそれによって勢いが削がれることはない。そもそも命中した銃弾は、コートによって弾かれてしまった。


「くそッ!! 後継機型の梟かッ!!」


 女が叫ぶ。


「──こうなったら」


 女が立ち止まった。


「おいおいおいおい、なにをしようってんだッ!?」


 聞いちゃいねえ。女にしては逞しい背が俺の前で、梟を睨む。右足を少し退げ、半身の姿勢。


 ──まさか。

 それはそのまさかだった。迫り来る先頭の梟が構える刃の隙間。ちょうど切り刻まれることのないその隙間。長い脚が右から左へ弧を描き、梟の懐に吸い込まれていく。まるで彼女の周りに流れる時間が緩慢になったようだった。そしてそのままその脚は梟を地面に叩きつける。煉瓦で舗装された地面は、見事に砕け散っていた。

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