第9話

 女。別にそいつは暗闇に隠れているわけではない。どんな顔か、どんな服装をしているのか。ばっちり見えている。あくまで知り合いかのように話しかけられたが、俺はこんな良い女見たことがない。


「そうなのね? ちょっと散歩に付き合ってくれない?」


「……ああ」


 チューブトップにショートパンツ。ランニングスタイルだ。薄っすらと割れた腹筋やその無駄の無い肉付き。下級市民である可能性は限りなく低い。俺と同じ肉体労働者……いや、中級市民とも言い難い。なによりもその纏う雰囲気は、市民であることを否定している。


 そして俺たちは歩き始めた。


「いい? あの車まで歩いて?」


 手を回し、まるで恋人のように寄り添う女。彼女の囁きに、俺は無言で頷いた。

 彼女の視線が向けられていたのは、旧型の車。四輪車だ。……幸いまだ気が付かれていないが、あれに乗ったところで逃げ切れるだろうか。古臭い見た目。車には詳しくないが、かなりの年代物だろう。


「お、おい、気が付いたぞ」


 群が動き出す。黒のコートで全身を覆っているそれは、より梟にしか見えない。地面を滑るように動く。飛んでいる……わけではない。あれは、ホバリング移動。どれだけ未来になってもその機能を持った靴となるとなかなかな値段になるわけだが、あれほど揃えるとなるといくらになるんだろうな?

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