第328幕 騎士の帰還
道中、町を救い、兵士に現状を聞いたりと時間は掛かったが、俺たちはようやくリッテルヒアへと帰り着いた。
「やっと帰ってきたね。ちょっと休みたいかな……」
「少し我慢しろ。ミルティナ女王への報告が先だ」
シエラの顔には少し疲労の色が見えているが、今はそれを気にしてやれる状況じゃない。まずは女王に話を聞かないといけないと判断した俺は、そのまままっすぐ城へと戻る。
地下都市にいた時の服は全てジパーニグに置いて、銀狼騎士団の鎧を身に纏っていたおかげで門兵から止められる事もなく、普通に城の中へと入る事が出来た。
シエラはかなり悲しそうにしていたが、あれを持ったまま戦うのも面倒だからな。
それでも一応例外はある。この国の為に情報を持って帰らなければいけない立場上、本などの知識を与えてくれるものは戦利品として持ち帰っている。あの魔方陣の効果でどんな環境でも着心地の良い服は少し惜しいけどな。
「グレリア殿、シエラ殿。ミルティナ女王陛下の御準備が整いました。玉座の間までお越し下さい」
城の中の部屋に待機していたおれたちは、女王への謁見を伝えられ、玉座の間まで向かった。
相変わらず広い部屋で、奥の立派な玉座には不似合いな小さい身体のミルティナ女王に、隣に見守るように佇むゼネルジア大臣。子どもを見守る親みたいな様子だけど、それもいつも通りだ。
俺たちは大体半分ほど歩み寄った後、床に片膝をつけてひざまづいて頭を下げる。
「グレファ、シエラの両騎士。ただいま戻ってまいりました」
「うむ、ご苦労であった。まずは面を上げよ」
女王に言われ、顔を上げた俺の視界に飛び込んできたのは、明らかに疲れた様子の女王だった。目の下に少し隈が出来てるようにも見えて、よく眠れていないようだった。
それをあまり感じないのは、彼女の自信に満ちた表情をしているからだろう。余裕すら感じるそれは、人前だからとしている化粧の効果も相まっていつも通りの振る舞いをしているように感じる。
「これ、そんなにまじまじと見るでないわ」
「……申し訳ございません」
「わしの顔に見惚れるのはわかるがな。そういうのはもう少し落ち着いた時にしてもらいたいものだ」
少し頬を赤らめる素振りを見せてからかってくるが、こちらが慌てずに冷静な顔をしていると、面白くなさそうにため息をついて真面目な顔をした。
「本当にそなたはつまらん男だな」
「ありがたいお言葉として受け取らせてもらいます」
「はぁ……どうでもいい話はそれくらいにしておこうか。そなたらが帰ってきてくれて嬉しく思うぞ」
心底安堵した様子のミルティナ女王の言葉が嬉しく思う。それだけ頼りにされている証拠だからな。
「ジパーニグでの活動も一段落付きました。それと……ナッチャイスの件ですが……」
「うむ。それはわしの耳にも届いておる。どうにもあの男の考えが読めん。ゼネルジアよ、どう考える?」
「……そうですね。ナッチャイスを消滅させた罪を全て私たちに擦り付けるか。こちらに繋がってるという罪をでっちあげて見せしめに滅ぼしたか……。どちらにせよ、イギランスとシアロルの兵士の士気をあげることに使われたことは確かでしょうね」
「たかだかその為だけにあそこまでする必要はあったか? あの地に再び人が住めるようになるには、それこそ何年もかかるだろう」
ゼネルジアの言葉にも頷かず、深く考え込むような素振りを見せるミルティナ女王の言葉には俺も同意だ。
兵士の士気をあげる方法なんていくらでもある。ナッチャイスがグランセストと不可侵の条約を結ぼうとしているからといって、ここまでするような事はないはずだ。
どうにもロンギルス皇帝の考えが読めず、その不可解さに恐怖を感じる。
「どちらにせよ、残りの二国……これをなんとかすれば、新しき道が拓ける。その為には――」
「今の苦境を乗り越え、イギランス・シアロルの二国の長を仕留める必要がある。そういうことですね」
「うむ。二人にも引き続き苦労をかけるが、やってもらえるな?」
「はい」
「私たちに出来る事は何でもいたします」
ロンギルス皇帝が何をしようとしているか、それは全くわからない。だが、だからといってここで止まるわけには行かない。
「シエラはこの首都の護りを頼む。グレファは……」
「私は、シアロルへ向かおうと思います。あそこさえ潰せば、イギランスもその振り上げた矛を収めなければならないでしょう」
「……大丈夫か?」
「はい」
ミルティナ女王のその言葉の意味はよくわかっている。俺は……例え、一人になっても戦い続ける。それが誰かの為になるのなら、立ち止まることなんてしない。
「……どうやら決意は固いようだな。わかった。シアロルとの件はそなたに一任しよう。あまり多くの人材を割くことは出来ないが、出来る限りそなたの言葉を聞き入れよう」
「ありがとうございます」
こうして、俺たちとミルティナ女王の謁見は終わった。出来れば次に会うときは平和な時であれば……そう願いながら、最後の戦争に向けて準備するのだった。
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