第322幕 脱走した者たち

 なんとか兵士たちの目を掻い潜った俺とスパルナは、都市にあるホテルの一室で疲れた身体を休めていた。


「はぁ……やっと一息つけたな」

「銃突きつけられて、それからずっと、だもんねぇ……」


 汗を流し、服を着替えてようやく落ち着いた俺たちは、ベッドの上で多少だらけていた。。今日一日で発生した疲れを一気に癒やしながら、ついついぐうたらしてしまう。

 …….本当はもっと色々警戒しないといけないのだろう。ここは敵地で、俺たちはそのど真ん中にいるんだから。だけど、ここに来てからちょっと色々ありすぎた。身体の傷は癒せても、心の疲れは癒せない。やっぱり、あそこで兵士に見つからないように行動したのは成功だろう。


「後は、来京と同じように基地を探して叩けばいいの?」

「そうなるな。ただ……簡単にはいかないだろう」


 地上でもあれだけの警備をしていて、ここに来てすぐに捕まった。今はなんとも無いけど、基地なんかの主要な場所には、当然『索敵』の魔方陣を構築しているはずだ。来京の時のようにすんなり事が運べないのはわかってたはずなんだけど……これは不味い。


「スパルナ、どうすればいいと思う?」

「え、えぇー……そこでぼくに振るの?」

「俺の頭じゃ特攻ぐらいしか思いつかなかった」


 ただ、それは最後の手段だ。力押しで基地を潰すなんて無茶、一つずつしないと無理だ。そうなったらこの地下にいる戦力が地上にあがってくることを考えないといけないけどな。


「うーんと……えっと……爆発が起こせる物があれば良いんだけどね」

「爆発、か」


 そういえば、地下に在住してる兵士たちはどうやって武器を調達してるんだろう? まさか頻繁に行き来してる訳でもないだろうし、どこかに製造している場所があるはずだ。それなら、スパルナの言う爆発する物も見つかるかも知れない。


「……まずは何か武器を見つける方が先、か」


 地下都市にも武器を売っているところがあるかも知れない。それがなければどこかの基地に潜入するしかないだろうな。流石に武器を保管している倉庫の一つくらいはあるだろう。


「なんだか、先が思いやられる話だね」

「……そうだな。でも、今までだって楽だったことなんてほとんどなかっただろう? 今更だ」

「そう、だね」

「とりあえず、今日と明日は身体を休めておこう」


 本当は今すぐにでも動いたほうが良い。ラグズエルの事だって時間が経てば知れ渡るし、そうなれば都市内にも兵士が歩き回って俺たちを探そうと躍起になるだろう。おまけに基地の防衛も厚くなっていくだろうし、潜入も難しくなる。それでも、ラグズエルとの戦いは流石に厳しいものがあった。魔力や体力も限界に近い状態でここまで脱出してきたんだから、なるべく万全な状態で行動を起こしたい。そんな訳で俺たちは二日、身体を休め、ロウェルドの攻略に臨むことにした――


 ――


 行動を開始する前に軽く情報収集をしてみると、予想に反してまだ俺たちを探そうとする動きはなかったようだ。少なくともラグズエルの死体は見つかってるはずだろうにそういう素振りというか……兵士たちが街をうろうろしている様子もない。ここの日常、というのはわからないけど、平和な感じだ。


「まだぼくたちの事に気付いてないのかな?」

「……それはないはずだ。あそこには兵士も寝かせてたし、見回りがあそこに行かないなんて普通考えられないだろう」


 あの駅のところで囲われた事から、イギランスは俺たちがここにいることを知ってたはずだ。ラグズエルに連行されたときの事を知ってる兵士もいるのに、気付いてないなんてありえない、はずなんだけどなぁ……。


「だったら、どうしよう? なにか罠があるかも?」

「……わからないな。だけど、俺たちがするべきことは決まってる」


 戦争……侵略をやめさせる為に、戦車や攻撃機を潰して行くことが目的だ。出来れば各国の王の野望も食い止めたいというのもあるけどな。エンデハルト王を倒す事が出来るかも知れない以上、ここに留まった方が良い。


「まずは武器を売ってるところがあるか調べてみよう。何をするにも、魔方陣は最終手段にしておいた方が良さそうだからな」

「……大丈夫かな? ちょっと不安になってきた」


 スパルナは俺の話を聞いて少し顔に影を落としていた。だけど、ここで帰る訳にもいかない。


「そうだな。だけどどうにかするしかないさ」

「……だね。なんだか弱気になってたかも」

「なら、ちょっと基地の方も調べてみるか。その不安がどういうものかわからない以上、最善を尽くしてた方がいいかもな」

「だったら、お兄ちゃん行ってきて。ぼくは武器の方を調べてみるから」


 まさかスパルナが自分からそんな事を言うなんて思ってもみなかった。これも彼が成長している証拠なのかも知れない。


「わかった。それならスパルナにはそっちの方を任せるよ」

「うん! 任せてね」


 胸を張ってトン、と叩くスパルナは頼られることが嬉しいようだった。

 なら、俺の方も彼の言葉に応えられる事をしないとな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る