第323幕 無くなった物
スパルナに武器の調達は任せて、俺は一人で基地を訪れていた。ここも四箇所に分かれるように基地が存在して、ここはその一つ……なんだけど、なんだか違和感があるような気がする。なんというか……静かすぎる。元々基地がある場所はあまり人気がなくて、基本的には静かだ。だけど、今のここは……不気味なほど静まり返ってるって言っても不思議じゃない気がした。
「一体どうなってるんだ……?」
ジパーニグの基地には、目につくところにも兵士――というか軍兵がいて、基地の外にも目を向けていたりなんかしたんだけど、ここにはそれがない。というか、かなり近づいて内部の様子を窺ってるのに、誰かが来るような気配さえしない。こうなると、いっそのこと中に入ってみたらどうか? という興味に駆られるけど……それを理性が押さえつけるように否定する。しばらくの間その二つの間で思考が揺れ動いていたけど、結局、他の基地の様子を見てから……という事で考えが纏まった。そしてそれを――俺はほどなくして後悔した。
――基地には、誰もいなかったからだ。
――
「な、なんだこれ……?」
俺はあの後他の三つの基地にも訪れ、人気がないことを確認して内部へと侵入した。すると、そこには何もなかった。兵士もそうだが、武器庫みたいな場所にも、戦車が格納されてる車庫の方にも何もなかった。猛烈に嫌な予感がした俺は、それからすぐに、時間の許す限り他の三つも覗いてみた。限界まで『身体強化』の魔方陣を使って調べに行った。流石にこんな状況でなりふり構ってる場合じゃなかったからな。
そして……結果は俺が思っていたとおりのことだった。
「誰もいない……捨てられた、なんてことあるわけ無いだろうし、ここにあったの物を移動させたというのか?」
こんな事が出来る者はそう多くない。これだけの規模一人でやらなければならないということは、その分時間もかかるということだ。ということは、かなり前からヘルガの魔方陣を使って、移動させてないと説明が……。
「なるほど、そういうことか」
独り言を呟きながら、必死に頭の中を回転させて、ようやくその答えに辿り着いた。要はヘルガの空間を移動する魔方陣を使って、基地の中身をそっくりそのまま別の場所に移したという訳だ。彼女の魔力でも一日や二日でそんなことは出来ないだろう。どれだけの規模の移動が出来るかはわからないけど、基地を丸ごと移動できるならアリッカルとジパーニグの二国を落とされる事はなかったはずだ。
恐らく、結構前から……それこそ俺がクリムホルン王との戦いで受けた疲労を癒してる間から少しずつやっていたと考えたほうが良い。四つの基地が何もないということがその証拠だ。普通ならこんな風に戦力を全て別の場所に移したりなんてしない……んだけど、それはここが地下都市だから、という事もあると思う。
ここに攻め込むには、上の国から魔方陣を使って道を開かないといけない。グランセストの魔人たちならそれが出来るけれど……ここに攻め込めるくらいの戦力があるなら、防衛に回した方が利口だと判断したのだろう。なんにせよ、誰も――というか何もない以上、俺たちがここに留まる理由はない。
それにしても、一体どこに行ったのだろう? ナッチャイスかシアロルの地下都市のどちらかなんだろうけど……いや、そういう事を考えるのは後回しにしよう。とりあえず、スパルナと合流しよう。
――
「えー、それじゃあ、どうするの?」
自分たちの拠点になっているホテルで帰ってきたスパルナに基地の事を説明すると、がっかりしたような顔で肩を落としていた。
「このまま引き上げるしかない……んだろうけど、そう簡単にはいかないんだろうなぁ……」
スパルナの話だと、あの『電車』が通る駅には兵士たちが厳重に警戒していて、全く入り込む余地がないのだとか。俺たちは何度も地下都市に行ったけど、出入り口と言えばあの駅しか使ったことがない。
「……まずは駅以外の出口を探すのが先か」
「でも、見つからないかも知れないよ? ジパーニグでも見つからなかったし……」
「その時は――」
まず間違いなく強行突破しかないだろう。俺もこの歳を騒がせたいわけじゃない。だけど、どうしても地上に戻る方法がそれしかないなら……。
「大丈夫かな? 結構数が多いから、抜けるのは一苦労するかも」
「それでも……やるしかないだろう。俺たちは、もう引き返せないところまで来てるんだからな」
「……わかった。もしなにかあったら、ぼくがお兄ちゃんを守るからね!」
「ははっ、逆だよ。俺がお前を守ってやるさ」
「うん!」
これで頷いてくれるところがスパルナらしい。話し合いが終わってからスパルナは一人先に風呂へと入った。その間、俺はこの先のことを考えてることにした。
多分……他の出口はある。ジパーニグで基地に襲撃した時も、クリムホルン王の動きは素早かったからな。だけど、それを見つけるにはより警戒が厳重なところに行かないといけないだろうな。
「二つに一つ。どっちも茨、か」
他に道はないか探してみるけど、もし……本当に危険な選択肢を迫られたなら、必ずスパルナは守ってやろうと思う。それが、兄貴分としての俺の役目だからな。
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