第321幕 決着の日
「はあ……はあ……」
俺は傷ついた身体を魔方陣で癒やしながら崩れ落ちたラグズエルを見下ろしていた。
「は、はは……貴様の勝ち、だな」
「ラグズエル……」
やっと掴んだ勝利。魔方陣がなければ、倒れていたのは俺の方かも知れない。そう考えると、今の俺があるのはこの『生命』の
「くく、なんて顔、してやがる。待ち望んだ決着が……ようやくついたんだぞ? 喜べ、よ」
「……ああ、俺の勝ちだ」
改めて勝利を宣言した俺は、短いけれど濃かった、ラグズエルとの関係を思い出していた。最初はラグナスとして接してきた彼はどこかの王族でもあるかのような立ち居振る舞いをしていた。くずはもすぐに馴染んでいて……それが全部偽物だったってことを考えたら腹立たしくも思うけど、何故かこいつを憎めなかった。それが顔に出てるんだろうな。
「ラグズエル。死ぬ前に聞かせてくれ。お前は……お前たちは本当に何なんだ? 一体、何者なんだ?」
「くく、俺が言って、お前は信じるか? 俺の、言葉に……真実なんて、ないさ」
荒い息を吐きながら、ラグズエルはぼんやり天井を見ているようだった。ふと気配がして後ろを見ると、いつの間にかスパルナがこっちに来ていて……俺の雰囲気を見て気まずそうにしていた。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だ」
そのままラグズエルの方に向き直って、彼が少しずつ消えていくのを感じる。止めをさせば楽になるだろう。だけど、俺は――
「……俺は、500年前の、この世界に現れた。それ以前から、ずっと……皇帝の忠実、な、しもべだ」
「500年……!?」
しかも『それ以前ずっと』という事はラグズエルは少なくともそれ以上生きているということになる。でも、見た目は俺よりも少し大人っぽい外見をしてるくらいだ。とてもそんな風には見えない。
「な、がかった。それも……ようやく、終わる。くく、しんじ、つは……あの、御方に聞け」
それだけ言って、ラグズエルは話すことをやめた。まだ生きているようだけど、もういつ死んでもおかしくない。俺は彼をそのまま寝かせ……この広い場所から出ることにした。
「……良かったの? あの人、お兄ちゃんなら――」
「あいつはずっと他人の記憶を操って生きてきた。奴がいなければ、どれだけの人が犠牲にならずに済んだか……。もし、今ここで助ければ、奴は同じことを必ず繰り返す。俺はラグズエルを治すつもりはない」
それに……奴は『ようやく』と言っていた。もしかしたら、どこか死に場所を求めていたのかも知れない。勿論、これは俺の糧な想像なんだけどな。
この広い部屋を抜ける前に魔方陣で炎の鳥を作って、それを入り口に飛ばして周囲の様子を見よう……とした瞬間に撃ち落とされてしまった。
「何事だ!」
やっぱり入り口に見張りを置いていたようで、異常に気づいた兵士が部屋の中に入ってきた。だけど、スパルナが既にその付近で待機している。
「これは……貴様ぁ! よくもラグズエル様を――」
「えいっ!」
俺と倒れているラグズエルを見つけた兵士がこっちに近寄りながら銃を構えてる間に、スパルナが思いっきり頭をぶん殴っていた。身体強化を掛けて殴ったおかげか、ものすごい音を立てて兵士は倒れてしまった。その後の何度か痛めつけて、気絶した辺りで止めてやる。
「よし、よくやったぞ!」
「うん! お兄ちゃん、行こう!」
それから、スパルナに『魔力遮断』の魔方陣を掛けてもらい、慎重に進む事にした。幸い見張りになっていた兵士は彼一人だったらしく、拘束して声が出ないように口に布を噛ませてるから、多分しばらくは大丈夫だろう。
そこからゆっくりと外に進むと、やっぱり兵士が何人もうろうろしていて、中々先に進めない。じれったいが、ここで見つかったらあっという間に人が押し寄せてくるのは間違いない。
「お兄ちゃん……どうする? 全員倒しちゃう?」
「そんな事したらいつまで経っても先に進めないだろう。出来る限り見つからないように進むしかない。スパルナは今の魔方陣を保っててくれ」
「わかったよ」
ここで地上なら日が暮れるまで待って、夜闇に紛れて行動するということも可能だろうけど……ここはあまり変わらない。どういう原理か、朝や昼を再現しているようだけど、夜でも強い明かりを放つ照明器具がつけられていて、地上よりもむしろ明るく照らされている。
少ない暗がりや、建物の影をうまく使って忍び込むしかないだろう。
「スパルナ。ジパーニグでも見た動く筒には注意しろよ。多分、『索敵』の魔方陣と似たようなものだろうから」
「壊したら駄目?」
「ああ。例えばさっき俺が使った鳥だって、壊せばすぐにわかるだろ? それと同じだ」
いや、正確なことはわからないけど、多分そうだろうと思って動いた方が良い気がする。あんなふうに何かを監視してるような物を見ると、な。
とりあえず、慎重になるに越したことはない。今はまだ、基地すら叩いてないんだからな。
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