第317幕 隠密行動
それから俺たちは、スパルナの魔方陣を一度外で試してからエディウォン城へと向かった。
「それじゃあ行くよ……」
「ああ」
城壁の近くでスパルナは『魔力』『遮断』の
「よし、準備はいいな」
「うん! 静かにね……」
スパルナは口に指を当てて静かにするようにポーズを取るが、これが少し可愛らしい。……なんてことを思ってる場合じゃない。彼が発動させたこの魔方陣。俺が『索敵』の魔方陣を使って目の前のスパルナを調べてみても、全く魔力の反応を感じることが出来なかった。一応俺のやれる限りのことはやったのだけれど、それでも駄目だったからこの魔方陣で潜入する作戦に移る事に決めた。ただ一つ問題もある。スパルナが言っていた通り、他の魔方陣とは完全に相性が悪い。『身体強化』ですら発動させれば解除されてしまう。
一般人と比べれば身体能力の高い俺でも、流石に何の強化もなく銃撃をかわせる訳もないし、見つかったらまず『索敵』に引っかかる覚悟をしないといけないだろう。必然的に敵が押し寄せてくるだろうし、そうなれば城の中から地下都市に行くなんてことが出来るわけもない。迅速な行動こそが鍵になる。
城壁を登って忍び込んだ俺たちは、出来る限り物音を立てないように最小限の動きを取る事を努める。幸い、俺たちがいるところはあまり兵士たちがいないようで、聞き耳を立てても物音一つしない。
「お兄ちゃん、大丈夫みたいだね」
「ああ。でも油断するなよ。今はあまり無理できないんだからな」
「わかってるって。でもあまりぼくから離れないでね。この『遮断』の魔方陣の範囲から出たら――」
「すぐに見つかる……だろう?」
スパルナは頷いて慎重に歩き出した。大体小さな部屋一つ分くらいの距離までって感じだ。時間はかかるが、見つかるよりはマシだ。
「おに――」
「シッ……!」
誰か来るような気がして、スパルナと一緒に暗がりに身を隠す。息を潜めて周囲を伺う。
「どうだ?」
「いや、誰もいない。……というか、誰かいる訳ないだろ? 展望台にある大きな浄化陣が侵入者を見つけてくれる。あれの性能は大したものだ。前の鳥やネズミもすぐに見つけてくれたからな」
「あれ、なんの意味があったんだろうな」
「さあ? わかんねぇけど、とりあえずあの浄化陣に反応がないなら誰もいないってことだろ。早く見回り済ませて一賭けしようぜ」
「またか? 前も散々負けたのに懲りないな」
「当たり前だ! 負けたままで引き下がれるかよ」
警戒心は薄いのか話しながら明かりを片手に歩いてきてたけど……結局俺たちには気付かずに話すだけでどこかに行ってしまった。引き返してくる可能性も考えて、スパルナと一緒に最大限気を張って……それでも誰も来ないのを確認してようやく胸を撫で下ろした。
「なんだか、随分気が緩んでるね」
「それだけその浄化陣を信じてるんだろ。俺たちにからしてみたらありがたいことだ」
完璧に思える防衛装置があれば、それだけで安心してしまう。ある意味そこが弱点なのかもしれないな。侵入者である俺らがこんな風に魔力を断ってくるとは考えもしなかったのだろう。改めてスパルナの成長を感じる。
「俺たちはより一層気を引き締めて行くぞ」
「う……うん」
大きな声を出しかけたスパルナは、慌てて口を抑えて小声で頷いた。
――
それから俺たちはなんとか兵士たちの監視を掻い潜りながら部屋の一つ一つを注意深く探した。シアロルでもジパーニグでもあの魔方陣は机の下に設置されていた。それを当てにしながら兵士に見つからないように明かりをつけて……ようやくそれを見つける事が出来た。
「はぁ……やっと見つけたな」
「そうだね。本当に疲れたよ……」
かなり気を使って作業をしていたからか、大した事をしていないはずなのに想像以上に疲れた。というか……よくよく考えたらこれ、不味いんじゃないか?
「どうしたの?」
「いや、ここ動かすには魔方陣の発動が必須だ。ということは……」
「あ……魔力遮断の魔方陣、解けちゃうね……」
「スパルナ。兵士が来てないか、注意深く見ていてくれ。隙をついてやるぞ」
どう考えてもこれを発動したら気付かれる。なら、ここに兵士たちが来る前にやるしかない。
スパルナは扉を少し開けて、敵が来ないか慎重に見て、こっちに目線だけで指示を出してくれた。ゆっくりと頷いた俺は、床にある魔方陣を起動する。ゆっくりと開いていくそれがこれほど待ち遠しいと思うことはない。早く……早く……と焦る気持ちを抑える。
「……! お兄ちゃん、遠くから足音が聞こえるよ……!」
「わかってる」
スパルナが焦ったようにこっちを見ただけでわかった。逸る気持ちで床を見ると、ようやく完全に開いて、何度も見たあの入り口になっていた。
「スパルナ! 急げ!」
「う、うん!」
だんだん近づいてくる兵士たちの足音を振り切るように床にがっぽり開いた入り口に飛び込んで、魔方陣の発動を止める。ゆっくりと元に戻ろうとする床を横目に、俺はまっすぐ暗闇の中を進んでいく。再び、地の底で戦うために――。
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