第316幕 潜入、イギランス
身体の傷や心の疲れを癒やした俺たちは、イギランスの首都であるドンウェルまでやってきていた。
やはり……ジパーニグの時と同じように特に目立った警戒もなかった。やっぱり、グランセストに侵攻していることは周知させていても、各国の中央が攻撃されている事については伏せられているようだった。
それも当然か。下手なことが知られれば余計な混乱を招きかねない。それがどんな事になるのか……彼らにも容易く想像がつくだろう。それに、彼は地上よりも地下都市の事を心配しているようだった。上の国がどうなっても関係ないとか思ってるようだったしな。
「相変わらずあまり騒ぎになってないね」
「だけどそれが絶好のチャンスになる。ドンウェルの城にも地下都市へ続く道はあるだろうし、今のうちに行くぞ」
「うん。だけど、今回はどうするの? また土集める?」
「あー……」
そうだった。上辺は確かに平穏というか、騒ぎにはなってない。だけど城の方はかなり厳重に見張られてる。『索敵』の魔方陣――いや、浄化陣、だったか。何かに魔方陣を刻んで、適当に聖水と偽った水をふりかけて清めたつもりの物を扱っているらしい。それは常備されてるだろうし、何かしらの手段を考えないといけない。
「そう毎回上手くいくとも限らないし、試しながらやったほうがいいかもな。今はそんなに大掛かりにしなくていいぞ」
「だったら、またしばらく宿泊まりだね!」
ま、そうなるだろう。万が一っていうのを考えておいたほうがいいし、一度潜入に失敗したら、二度目はリスクが跳ね上がる。なるべくなら一度で済ませたい。
「まずは拠点になる宿を探すぞ」
「はーい!」
――
ドンウェルの宿に泊まって数日。俺は城の攻略に行き詰っていた。なんだか前もこんな事があったような気がする。
「まいったなぁ……」
ため息をこぼしながら天井を見上げる。あれからすぐに土で小鳥を作って潜入させたのだけれど、すぐに見つかって破壊されてしまった。入ってすぐに反応が消された事を考えると『索敵』の魔方陣よりももっと魔力に特化した
「はぁ……」
「お兄ちゃん。そんな風に落ち込んでたら余計に暗くなっちゃうよ?」
「スパルナがその分明るくしてくれ」
「え? う、うーん……」
軽く冗談を言ったつもりなんだけど、本気に受け取ったスパルナは頭を悩ませていた。それがなんだか微笑ましくて少し和んだけど、事態は解決しない。
「鳥で駄目なら人型だと余計に駄目だろうなぁ……」
ジパーニグで療養している間に『命』を組んで生み出した獣は、別の魔方陣で視界を共有出来る事に気づいた……のは良かったが、ここでも問題がある。ドンウェルのエディウォン城には銃を装備した兵士が常駐している。おまけに魔方陣で常に警戒されていて、魔力の反応があるだけで見つかってしまう。土で作った鳥もすぐに気付かれて撃ち抜かれた。ネズミで試してみたけど、こっちもやっぱり駄目。生き物が持ってる程度の魔力に抑えてもこれなんだから、何らかの方法で見抜いているのだろう。残された手段は、生身一つで潜入するしかない。それはかなり危険を伴うだろうけど……やるしかないのかもな。
「やっぱり直接行くしかないか……」
「『隠蔽』で魔力隠して?」
「そうなる……んだけど、ちょっと不安なんだよなぁ……」
魔力を抑える種類の
なんて考えてたら、スパルナが「ふっふっふっ」となにやら意味ありげな笑いを浮かべていた。なにか悪いものでも食べたのか? と思ったけど、どうやら違うようだ。
「どうしたんだ?」
「ぼくもね、ただ遊んでるわけじゃないってこと。魔方陣の書をジパーニグの来京に行ったときに買ってたんだー」
いつの間にそんな事をしてたのかとも思ったけど、この嬉しそうな表情……多分、今の状況をなんとか出来るような事が書かれているのだろう。
「それで、どうだったんだ?」
「『隠蔽』よりも魔力を隠せるようになったし、
「それはすごいな……」
「ただ、他の魔方陣を使った瞬間解けるんだけどね……」
あはは、と苦笑いを浮かべて頬をかいてるスパルナだけど、それでも十分凄い。どれだけ隠せるのかはわからないというのはかなりリスクが大きいけど、完全に消せるとなったら『索敵』の魔方陣を欺ける。そうなれば残すところは俺たちの潜入技術次第ということになる。
「よし、そうなれば一度試してみよう。それ次第で今回の潜入はスパルナに頼ることにするぞ」
「任せて!」
スパルナは嬉しそうに身体をそわそわさせている。多分、体全体で嬉しさを表現しようとしているのだろうが、自重しているということだろう。
……よし、希望が湧いてきたらなんだか腹が減ってきた。
「まずは飯でも食べるか」
「うん!」
俺の知らないところでスパルナも頑張ってるみたいで、なんだかこみ上げてくるものがある。やはり、子供の成長っていうのは嬉しいものがあるな。
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