第293幕 作戦会議

 地下都市――シンゼルスの街は、予想以上に広かった。工業区や商業区と言った感じで各区ごとに何が主体なのか分かれており、整然としている印象を与えてくれる。

 食べ物、衣服、乗り物……どれを取っても地上の物とは比べ物にならない程の進歩を遂げていて、遠くの未来の物を見ているような気分にさせられる。


 ヘンリーたちがこんな世界に住んでいたのかと思うと、なんだか遠くの存在に感じてしまう。異世界から召喚されたんだから当たり前なんだけどな。


 しかし……この未来の光景を見て、シエラの方は完全に舞い上がってしまって、当初の目的を見失ってしまっていた。


「アイスクリームって美味しいんだよねー」


 なんて言いながら、呑気に食べてる始末。少し気が緩むのは仕方ない……が、物事には限度があると俺は思う。一応言語や料理など、各分野について書かれている本を手に入れて、魔人の国に持って帰るようにはしているようで、全く貢献していないとは言いづらい。


 ……そんな出来事を抱えながら、俺たちは順調にこの地下都市の調査を進めていった――


 ――


 ホテルで合流し、一日の疲れを洗い流したところで今後について話し合うことにした。


 二人が調べてきた情報と、俺が手に入れた情報を合わせて浮き彫りになった事実に、思わず唸り声を上げてしまう。


「ふむ……これがある程度正確だとすると、シンゼルスは四つの軍基地に守られていることになるな」

「はい。しかも互いにかなり離れていて……普通に攻略するのは難しいと思います」

「一つずつ潰して行っても、こっちの事が知られたらどんどん守備が固められるものね」


 拠点が複数ある事は大体見当がついていた。あの手の制圧兵器を一か所にまとめるなんて愚行も良いところだ。一つが落とされても、その間に策を講じることが出来るようにするのは当然だろう。


「問題はどうやって攻めるか、ですね。私やシエラさんが戦車や攻撃機の相手を出来れば良いのですが……」

「実際、直接戦った事あるのってグレリア以外いないものね。兵士の相手ぐらいなら私にでも出来るだろうけど」


 ヘンリーは戦車を沼に沈めた事はあっても、真っ向から勝負を挑んだ事はない。事前に霧を発生させて視界不良に陥れる作戦も功を奏した結果だ。この地下でいきなり霧を作り出したとしても、余計に警戒されるオチが見えている。沼だってすぐに作り出せる訳じゃない以上、実質初めて戦うと考えた方が良い。

 シエラに至ってはそもそも見たことすら無いのだから、どれほどの脅威か具体的にはわかっていない。


 …….つまり、あの殺戮兵器共は俺一人で相手をしなくてはならないという訳だ。やれるかやれないかで考えれば、十分可能な範囲内だろう。基地には別に守らないといけない弱者なんて存在しないし、こっちも二人を最低限見ておけば普通に動ける。


 ただ……それだと時間が掛かりすぎる上、最悪、残った三つの拠点から戦力が地上に向かってしまう危険だって十分に考えられる。それは一つ壊滅させる毎に上がっていくだろうし、リスクが大きい戦いになるだろう。


 かと言って、この地下都市を一気に焼き払えるような魔方陣を発動するとなると……一つずつ殲滅するよりはるかに効率的ではあるけれど、何も知らない民にまで影響が及ぶ。それに最悪地下に生き埋めになる可能性だってある。これもまた却下だ。


 どうしたものだと考えていると、ヘンリーが妙案を思いついたような、得意げな顔をしてきた。


「グレリアさんは確か複数の魔方陣を同時に展開出来るほどの技術は持っていますよね?」

「…….そうだな。簡単な『身体強化』以外のものも、しようと思えば出来るぞ」

「四つの基地に同時――いえ、時間差でも大丈夫です。強力な魔方陣を発動させる…….というのはどうでしょう? そうすれば向こうも準備をする時間はないはずです」

「簡単に言うけど、それって結構無茶なこと言ってるよね。簡単なのなら出来るだろうけど……あそこを破壊するほどの威力の魔方陣なんてそんなにぽんぽんだせる訳ないよ」


 ヘンリーの言ってることもある意味正しい。だけど、シエラの言葉もまた事実だ。複雑で威力の高い魔方陣ほど、消費する魔力は多い。それを四つ同時にとなると、更に魔力が奪われる事になるだろう。いくら俺でもそんなことやってみたことがない。


 だが――


「試してみても良いかもしれないな」

「グレリア!?」


 正気を疑うように声を張り上げるシエラには悪いが、俺も真面目に考えている。要は魔力さえなんとかなれば問題ないってことだ。上空――と言えば違和感があるが、遠くから見ても上を気にしている様子はない。『隠蔽』の魔方陣で忍び込むのも、監視するような機械のせいで難しい。ならば……ヘンリーの案は決して悪い案じゃない。


「試してみて、駄目だったら他のことを考えよう。最悪、上空に警戒が向くようにだけにしておけばなんとでもなる。直接拠点に突入するのは最終手段として考えておこうと思う」

「……わかった。グレリアがそう言うなら」


 シエラが渋々と納得してくれたのを見て、俺たちは更に具体的に計画を煮詰める事にした。


 そして――決行は五日後の夜。周囲が静まった頃に行う事となった……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る