第292幕 初めての地下都市
ソフィアを倒した俺は、ヘンリーとシエラを率いてそのまま奥へと進んだ。あれ以降、相変わらず続く暗闇の洞窟をひたすら前へと行った。
「……なんで、ここってこんなに長いのよ」
とうとううんざりするような声の弱音が聞こえ始めたぐらいだ。確かに、こんな行き来が不便な長い洞窟を使って…….なんて、ちょっと現実的じゃない。
「他の……イギランスでも同じですよ。ここは『電車』という乗り物が通る道で、人が通るようには作られてないんですよ。あれでしたら魔方陣で身体を強化して走り抜くよりもずっと速いですからね。こんな長い道も苦にならないというわけです」
「へー……」
ヘンリーの説明を聞いたシエラは、感心するように声を上げた。
しかし…….ここがその『電車』が走る為の道というのはいまいちピンと来ない。見たことがないから……というのもあるが、戦車といい空を飛ぶアレといい、どうにも自分の常識の範囲外のものばかり見てきたせいで想像がつかないのだ。
「……鎧馬を使った馬車の三倍は速い乗り物ですよ」
「そんなにか……」
それを悟ってくれたヘンリーが具体的な例えをしてくれたお陰で大体見当がついた。身近なもので説明されるとよくわかる。
「ということは、まだまだ先は長いってわけね……」
改めてうんざりするような声でシエラはため息をついていたが、それは俺とヘンリーも同感することだ。
強いて言うならば、その電車とやらが使われてない現状に感謝すべきなのかもしれない。
下手をしたら、後ろから追いかけられるなんてことになりそうだからな。
「まだ先は長そうですが、頑張っていきましょう」
「……一つ、聞きたいんだけど。これ、帰る時も……?」
「先の事はわかりません。今考えても仕方がないでしょう?」
なんて都合の良い言葉なんだろう。現実から目を背けてるその言葉からは、帰りも同じ道を辿るしかない事を暗に示していた。
シエラから落胆するような気配がしたが、気にしないでおこう。こっちにも伝染したら気が滅入るからな。
――
長い暗闇に光が差した時、ようやく終点についた事を安堵した。どこか気が緩んだ状態のまま、アリッカルにあると言われていた地下都市に侵入した俺たちは、飛び込んできた景色に言葉を失ってしまった。
目に映る物は上では考えられないほど高い建物に、四つの車輪で走る箱のような乗り物。見慣れない服装の数々……そのどれもが初めて見る物で……圧倒されそうになった。
その中で唯一平然としているヘンリーは少し居心地悪そうに周囲を気にしていた。
「どうした?」
「いえ、やはり上と下では服装も大分違いますからね。今のままでは変な意味で目立ってしまいます。早々に着替えた方が良いかもしれません」
「そ、そうだね。結構色んな方向から視線を感じて……ちょっと恥ずかしい、かな」
ヘンリーの言葉に力強く頷くシエラ。俺としてもそれについては賛成だった。
「そうだな。戦車や攻撃機のある基地を叩ければ良いのだけれど……今の俺たちではなにがどうあるのかわからないからな。目立たないようにするのも必要だろう」
もしかしたらいくつも基地があるかも知れない。いくらヘンリーがこういう場所に慣れていると言っても、この地下都市自体に来たことはないだろう。時間が掛かることも視野に入れて行動しないといけない。
「それでも別の意味で目立つでしょうが……こればかりは仕方ありませんね」
「目立たないようにするのに目立つ……?」
「お二人とも中々ですからね」
シエラはそれでも訳がわからないというかのように頭を捻っていたが、ヘンリーの視線を見ていると、俺の方はなんとなく予想がついた。なるほど、そう考えたら奇妙な者を見る以外の視線にも気がつくな。
「ヘンリーも十分だろう? 三人で固まって動く方がむしろ目立つんじゃないか?」
「そうですね……しかし、今離れても良いことなんてありませんよ。服を整え、地図を買って……拠点を決めてから分かれても遅くはない。でしょう?」
今悪目立ちするのも問題だが、何も決めないまま分かれて行動する方がよっぽど悪い方向に転がる、か。
確かに、こんなところで迷子になられても困るし、俺やシエラは異世界と言っても良いこの場所には不慣れだ。
せめてヘンリーの言う通りの事をしてから分かれた方がいいだろう。
「わかった。とりあえず……服についてはヘンリーに任せていいか? 俺もシエラも、ここに合った物を選ぼうとすれば時間が掛かるだろう。他に必要な物があれば各々買い足せばいい」
「……そうね。そのほうが今は良いかも」
「わかりました。出来る限り善処しましょう。お金については地上のものが使えますが……人の国の金銭は?」
「問題ない。ジパーニグにいた頃のものが残ってる。シエラには俺から後で渡すようにする」
「そうですか。恐らく魔人の国で使われていた物も換金所があると思いますので、後で調べてみましょう」
……ヘンリーを先頭に、俺たちはこの地下都市を探索することになった。ちらほらと気になる視線を向けられはするが、敵意がある訳でもないし、自然と慣れるだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます