第十六節・一つの決着 セイル編
第280幕 乗り込んだ故郷
兄貴と別れた俺は、スパルナの背に乗って、真っ直ぐジパーニグへの道を進んだ。途中、国境に入る前に降りて、後は足で首都のウキョウを目指す。
顔が割れてるだろうから顔を隠すようにローブを纏って出来る限りわからないようにした。
……これだけしても、まだ不安は残るけどな。
だけど、久しぶりに訪れた故郷の国に懐かしさが込み上げてきて……そういう不安をすぐに消し去ってしまう。
あれから、どれだけの時間が過ぎたんだろう。昔は勇者になりたかった。英雄になってアンヒュルを倒して……人の世界に平和をもたらす人物になりたかった。そんな自分を嘲笑うように世界は回っていて……いつからか勇者と戦うようになった。人の歴史的に、俺は悪い魔人なんだろう。
「人生ってのは、こうも思い通りにならないものなんだな」
「何言ってるの? お兄ちゃん」
「ここ――っていうかこの国が俺の故郷だからな。つい、懐かしくてさ」
「へー……故郷……」
スパルナはどうもピンと来てない表情でぐるりと景色を見回していた。
……そういえば、スパルナは俺がグランセストの秘境にある研究所で見つけたんだっけな。今もそうだけど、あんな子供の頃から閉じ込められてたら、自分が産まれた場所の事なんて覚えてる訳がない。この子の居場所は故郷には既にないのだろう。
そう考えたら俺とスパルナは似ている気がした。ほんの少し、だけどな。
「さ、早く行くぞ。ウキョウまでまだ先は長い」
「うん!」
スパルナの手を引いて、全てに幕を下ろすために俺は再び故郷の大地を踏みしめた。あの日とはもう全然違う。
魔人を倒して、人の国に平和をもたらせる為じゃなくて……人の国を壊す為に今から俺は行くんだ。そう思うと、心がざわめきだつ。直接関係ない人に手を出すわけじゃない。でも、間接的には似たようなもんだ。
拳が、足が、いつ震えてもおかしくない。だけど、スパルナの手を握っていたら、それは次第に収まっていった。この子は俺を兄だと慕ってくれている。この子の目の前で、格好悪いところは見せられない。
俺は……お兄ちゃんだからな。
――
ウキョウに入るまでの間、俺たちは寄り道をせずに必要最低限の町や村を通ってここまできた。道中に襲われる可能性あったけど、流石にグランセストを攻めている最中だけあってそんなことは全然無かった。
問題はむしろここからだ。城の中に潜入について、少し考えなければならない。幸い、ここに来るまでの間に色々と魔方陣の研究をしていたお陰で、色々と楽が出来そうだけど……それでも上手くいくかはわからない。
ひとまず宿を取って、一日を休足に費やしてから、今後の事をスパルナと話し合う。
「それで、ぼくは材料を集めてくればいいの?」
「ああ、まずはそれで行ってみようと思う。流石に城には『索敵』の魔方陣が展開してあるだろうしな」
いくら今までが不用心だったとはいえ、城の内部まで警戒されてない訳がない。
どうやったって見つかる。俺もスパルナも、普通の人や魔人よりずっと魔力が高いから、侵入した時点でバレると思って動いた方がいい。
だからと言って、向かってくる城の兵士を片っ端からなぎ倒して侵入するなんてことが出来るはずもない。俺は兄貴のように底が見えない程強い訳じゃないし、今は速やかに終える事の方が重要だ。
「あまり怪しまれないように遠くに行って集めてきてくれ。袋はそれとわからないようにな」
「わかってるよ。お兄ちゃんは心配性なんだから」
「お前が楽観視しすぎなんだよ……」
少しは信用してよっ! とでも言いたげに頰を膨らませているけど、ここは既に敵地。
何が起こるかわからないんだ。それこそヘルガがやってきて奇襲を掛けてくる……なんて事も十分に考えられる。
「大丈夫だって。何かあったらすぐに逃げるし、ぼくが集めてる物見たってお兄ちゃんが何考えてるか、わかるわけないよ」
「……わかったよ。それじゃあ、気をつけて行ってこい」
「うん!」
スパルナは元気よく返事をすると、そのまま勢いよく部屋から飛び出して行った。相変わらず元気だな。俺が子どもの頃でもあんなにはなかった気がする。
どこか暖かい気持ちを感じながら、俺も自分に出来ることをする事にした。魔方陣の
逆に初めて扱う
最初は城下町にまで索敵範囲を広げてる可能性も考えたけど……一日経っても何も来ないってことはそこまで広げられる程じゃないってことだろう。
「さて、それじゃあやるとするか」
スパルナにだけ働かせてはいられない。あの子が材料を取ってくるまでの間にやれるだけやろう。俺たちを待ち構えてる奴らに、刃を交えるだけが戦いじゃないって教えてやる。
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