第281幕 生み出した力
それから俺たちは入念に準備を重ねて、いよいよ侵入当日。俺たちは深夜、誰もが寝静まる頃合いを見計らって城の近くまでやって来ていた。
「なんだか悪い事してるみたいでドキドキするね」
「そりゃあ、今から悪い事するんだからな」
悪戯を思いついたように笑うスパルナを尻目に、今日の為に用意した大量の土に向かい合う。スパルナが宿から出て、一生懸命集めてくれたのはこれだった。怪しまれないように事前にいくつかの人目が付かない場所にばらして置いて、決行当日にこうして回収したから特に誰かにバレる事もなかった。
俺は『命』『土』『自』『複製』と『撹乱』『魔力』の二つの
最初の魔方陣で土は少し小さいが、顔を隠したローブ姿の俺とスパルナを模した土人形が完成した。その精巧さは腰に携えてる土の『グラムレーヴァ』だって抜くことが可能な程だ。おまけにゴーレムとは違ってこちらの命令を聞ける程度には知能がある。わざわざ操る必要がない上に、その場で出来る限り最適な行動を取ってくれる優れものだ。
持ち込んだ分と、この場にある土を使って出来た人形は全部合わせて十体程度。あんまり使いすぎたら危ないからな。
「よし、これで準備は整った」
「それにしてもすごいよねー。よく出来てる」
スパルナは土のスパルナたちと手を合わせたり、頭を動かしたりして遊んでいる。声は出せる作りじゃないし、フードで顔を隠してるから表情は読み取れないんだけど、全員嬉しそうにしている。
「ほら、いつまでも遊んでないで、作戦を開始するぞ」
「はーい」
俺たちは地面にざっと地図を描きながら、侵入ルートを説明する。これも土を使って作った鳥で調べ上げた成果の一つだ。最初はどんな事が出来るか試してみるつもりだったんだけど……まさか土の鳥がくちばしを使って丁寧に見取り図を描いてくれるとは思ってもみなかった。しかも結構上手だったからな。正直なところ、どうにも『隠蔽』の魔方陣が得意じゃない俺からしてみたら有難い誤算だった。
おかげでこうして楽に調べ上げる事が出来た訳だ。鳥くらいなら纏ってる魔力を調整する事が出来たし、色もそれっぽいから気付かれる事もなかったしな。
「……よし、それじゃあ各自の判断で行動を開始してくれ」
一通り説明して、確認を取った後、土人形たちはそれぞれが侵入する場所へと散らばって行った。残ったのは俺とスパルナだけ。
スパルナの方は『隠蔽』の魔方陣を展開しているようだったけど、これはまあ、気休め程度だろう。
彼は攻撃関連の魔方陣以外はあまり熱心じゃない。特に『索敵』や『隠蔽』などといった、魔力の込め方で効果が変わる支援や妨害に関連したものは特に、だ。最低限の効果しか発揮しなくても、何もしないよりはマシって感じだな。
「それじゃ、行こう!」
「ああ。くれぐれも俺から離れるなよ」
「わかってるってばー」
嬉しそうに微笑んだスパルナの前を行って、俺は門の壁を登って城へと侵入した。『索敵』『地図』の魔方陣で様子を見てみると、既に土人形たちは侵入していたようで、城のなかったの反応が慌ただしく動いていた。
予定通り、この近辺には兵士たちの反応は一切ない。それがわかった俺は、すぐさま魔方陣を解除して、スパルナと一緒に目的の部屋へと向かう。地下への道があるとしたら……恐らく一階の隅――じゃなくて、中途半端な部屋にそういう仕掛けがあるはずだ。以前行ったクワドリス城もそんな場所だった。後は半ば賭けだ。
「手分けして探した方がいい?」
「いや、土人形たちは出来るだけまとまって動いてるはずだ。俺たちだけが手分けして探したら本物だとバレてしまう。ここは、少し時間が掛かっても一緒に調べるぞ」
「うん!」
適当な部屋に一つ入って、机やベッドなんかの家具をどかして魔方陣がないか一つずつ確かめて、ないとわかったらそれを元に戻す。無駄だとは思うが、敵がこちらの目的を把握するのを少しでも遅らせる為だ。
時折『索敵』の魔方陣で兵士たちの位置を確認しながら慎重に事を進めていると――
「お兄ちゃん! 見つけたよ!」
三つ目の部屋の机の下に刻んである魔方陣をスパルナが見事に見つけてくれた。やっぱりこういうところにあったか。
「よし、よくやったぞスパルナ! 時間がないさっさと開けて中に入ろう」
「うん!」
スパルナが床に描かれた魔方陣と全く同じものを構築して展開すると、床は音を立てて地下へと続く階段を出現させる。兵士たちが部屋に来る前にさっさとそこに入り込んで、『身体強化』を使って半ば強引に机を出来る限り元に戻した。これも一応保険、というやつだ。
「はぁ……これで一安心だね」
「あまり気を抜くなよ。これからが山場なんだからな」
スパルナが床の魔方陣を再び発動させて入り口を閉めて、俺が魔方陣で明かりを灯す。一息ついて階段を降りていく。金属の音が響かせながら、夜よりも深い闇の底へと進んでいく。昔、本で読んだ地獄にでも行っているかのように――。
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