第247幕 進軍してくる者
建物内部に案内された俺たちは、お茶をごちそうになりながら長い……長い話をすることになった。
まずはヘンリーと俺たちがどこで出会ったかからゴーレムの情報まで様々なことを彼に話した。
アルディは俺たちの話を決して笑わず、真摯な表情で聞いてくれた。おかげで俺たちも話しやすかったんだが、大体説明が終わると、彼は腕を組んで考えだした。
「なるほど……貴方たちの話は大体わかりました。ですが……こちらもはいそうですかと信じる訳にはいかないのですよ」
困ったように笑うアルディは俺たちの顔をゆっくりと見回していた。
「ですが、貴方はグレファさんとお知り合いなのですよね?」
「……まあ、彼を兄貴と呼ぶほどには親しくしてるつもりだよ。他にも彼の近くにいる三人の女の子とも知り合いだ」
「なるほど……そこまで彼と親しくしている方が、わざわざ嘘を教えてこちらを貶める事もないでしょう。そのゴーレム。弱点などは存在するのですか?」
そういえばそこのところはまだ聞いたことなかった。ちらっとヘンリーの方に視線を向けると、彼は眼鏡をくいっと上げて堂々とした笑みを浮かべていた。
「いくら魔力を吸収すると言っても限度があります。高火力の魔方陣を複数一気に叩き込むか、軍一つを全滅させる程の威力の魔方陣なら吸収しきれないでしょうね」
「……ふむ。それでしたら対処のしようがありますね」
「生半可なものでは吸収されるのがオチですから、注意ですね」
「……それほどまでの情報、普通では手に入れることが出来ないはずです。貴方が向こう――ヒュルマの側の者でなければ、ですが」
アルディはジロッとヘンリーの事を警戒するように見られてしまい、観念するように一つため息をついた。
「私はイギランスに召喚された勇者だった男ですからね。最も、用済みだと言わんばかりに剣を向けられ、殺されかけたのですがね。セイルさんが治療してくださらなかったら、今頃はこの世にいなかったでしょう」
確認するようにちらっと今度は俺の方を見てきたから、とりあえず頷いておくことにした。
実際本当のことだし、勇者を助けたからといって、アルディが同行してくるようには思えなかったからだ。
「……わかりました。にわかに信じられないお話ですので、一度斥候を出して様子を見させる……ということでどうでしょうか? 貴方がたも全て信じてもらえるとは思ってないはずですよね?」
「ええ。ぜひ確かめてください。今私たちに必要なのはなによりも信頼出来る関係ですからね」
アルディが最大限の譲歩として提示したであろう案を、ヘンリーは一二もなく頷いていた。
これで俺たちもここに来た甲斐があった……そういう風に思っていた直後、兵士が慌ただしい雰囲気でノックもなしに入ってきた。
「ア、アルディ様……!」
「今は客人の前ですよ? 少しは落ち着いてください」
「は、はい」
息を切らしてやってきた兵士はしばらく呼吸を整えて心を整理すると、真剣味のある表情でぽつりと呟いた。
「敵軍が村一つを滅ぼし、こちらへと侵攻中です。辛うじて生き残った者たちの言葉によると、敵の中には見慣れないゴーレムがいるとのことでした!」
兵士は最初落ち着いていたけど、また徐々に興奮していって、最後には叫ぶ感じで喋っていた。
そんな今の俺たちになんとも都合のいい報告に一瞬黙ってしまう。アルディも予想外だったようで、黙ってしまったままだ。
「今、その敵軍はどこにいますか?」
「はい、まっすぐこちらへと向かっており、早ければ五日で到着するかと……」
「……わかりました。こちらから打って出ましょう。兵士の皆さんには準備をお願いします。それと、アッテルヒアに応援の要請を。間に合うかわかりませんが、やって損することではないですからね」
「わ、わかりました!」
兵士はビシッと敬礼をした後、再び慌てるように駆けていった。
残された俺たちは妙に静まり返り、最初に口を開いたのはヘンリーだった。
「……このタイミングですと、間違いなくイギランスでしょうね。そしてあの方が言っていたゴーレムは――」
「先程貴方が言っていた、魔力を吸収するゴーレムというわけですか」
ここでナッチャイスやシアロルがイギランス側を経由して攻めてきた、なんてことはまず無いだろう。
なにせグランセストは他のヒュルマの国に包囲された国だ。装備を見ただけでどこの国の兵士かわかるほどには戦ってきているだろう。
「アルディ、俺たちにも手伝わせてくれ。どれだけ手助けできるかはわからないが、何もせずにじっとしてるよりはずっとマシだ」
「僕たちだってゴーレムとくらい、戦えるよ!」
これ以上、彼らの好き放題にさせてはいけない。魔力を吸収するゴーレムともなれば、間違いなく戦力が必要なはずだ。
……それに、どこまで吸収出来るかわからない以上、再生能力のおかげでなかなか死なない、俺の方がふさわしいだろう。
「……わかりました。出撃は明日です。それまで、貴方も十分に準備をしてください」
「わかった。ヘンリーはどうする?」
「乗り掛かった船、ですね。私もお供しましょう」
ヘンリーも俺の言葉に頷いて、協力してくれるという答えを示してくれた。
それから俺たちはアルディに集合の日時を聞いて、明日に備えることにした――。
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