第246幕 居合わせた騎士
俺たちは今すぐゴーレムの情報をこの国の兵士の誰かに伝える為、軍が駐留できそうな場所を訪れることにした。
「僕がやればすぐなのに……」
スパルナは自分が空の上から探せば手っ取り早いと言いたいのだろうけど、なんというか……それをする気は起きなかった。
多分、俺はヘンリーの事を完全に信用できなかったからだろう。今まで色んな勇者に会ってきたけど、暴力的なカーターに圧倒的強さを持つヘルガ。それにグレリアから一緒に魔方陣を教えてもらっていたはずのルーシーですら敵に回っていた。
今更裏切られたからアンヒュルの側につくなんて言われても、完全に信用出来るわけがない。それでもヘンリーと一緒に行動することを決めたのは、少なくとも彼の言葉だけは本当だと思うことができたからだ。
後、ついでにこの男を野放しにしたら何をするかわからない気もした。
時間がない中、なんとか辿り着いたことができたのはそれなりに大きな町だった。空気からしてすでに物々しさを醸し出していて、ピリピリとしている。
スパルナはそれを察知しているのか、どうにも落ち着かない様子だった。
「さて、それではどうしますか? まさか正直に話をしに行くわけではないですよね?」
「……そのつもりだったんだけど、なにかまずいか?」
俺の答えを想像してなかったのか、一瞬ぽかんと口を開けて、すぐさま正気を疑うような目をこっちに向けてきた。
「軍の者が一般民の言葉をそう簡単に信じると思いますか? 世迷言だと切り捨てられるのが目に見えてます」
確かに、普通だったらそうだろう。だけど、この国にはグレリアがいる。確かグレファって名乗ってたっけか。
あの目立つ気はなくても目につく男であるグレファは、確実に何かしら味方を作ってるはずだし、わざわざ彼の名前を出して軍に訴えかける一般市民なんている訳がない。
俺だってただ馬鹿正直に話をしに行くわけじゃない。ちゃんと考えてると言うわけだ。
「大丈夫だろう。任せてくれ」
「なんとも頼らない言葉ですね」
「お兄ちゃんはちゃんとやってくれるよ! ホットケーキ食べたいって言ったら作ってくれるし、夜怖いから一緒に寝たいって言ったら寝てくれるもん!」
あからさまに信用していないヘンリーにスパルナは猛抗議してくれているが、大分見当違いな事を言ってくれている。
というか、ヘンリーの俺を見る目が痛い。
「……まさか君にそんな趣味があったとはね」
「スパルナはいも――弟のようなものだ。それ以上の感情なんてあるわけないだろ」
少しは常識というものを考えて欲しいものだ。嘆息しながらも話しながら歩き、俺たちはようやく駐留所へと辿り着いた。
「どうした? なんのようだ?」
俺たちが近寄ってくるのを見つけた門兵の一人がこっちに剣の柄を握り、警戒するように歩み寄ってきた。普通の奴はそもそも近づきもしないところだからな。そうなるのも仕方ないだろう。
「俺はセイルという者だ。今、ここにグレファという男がいないか聞き込みしてる最中なんだ。そいつは俺の友人でね。あいつにとって重要な話があるからこうして探し回ってるんだ」
「……ここにはそんな者はいない」
「なら、ちょっと聞いてもらいたいんだけど――」
「駄目だ駄目だ! 今何が起きているのかお前だって知らないわけがないだろう!? 今は警戒中だ。余計な手間を取らせるな」
取り付くシマもない。こうなったらどうしようもないな。一度日を改めるべきか……。
「良いじゃないですか。通してあげてください」
「アルディ様」
そこにちょうどやってきたのは白銀の鎧を纏った男だった。顔を見ただけでかなり女にモテるだろうなと思えるほど端正な顔立ちをしていて、その様子は全く嫌味じゃない。動きの一つ一つが洗練されているといった方が良いのかも知れない。
ヘンリーの方もから「ほう……」と感心しているようだった。
「あなたはだれ?」
「私はグランセストの銀狼騎士団に所属しているアルディと申します。グレファさんの同僚と言えばいいですかね」
「グレファの……」
やっぱり知り合いくらいはいると思った。同僚ということはグレファもその銀狼騎士団とやらに入ってるということだろう。
それならエセルカやシエラも一緒だろうし、くずはも彼の側にいるはずだ。
「はい。グレファさんは今ここにはいませんが、話を聞かせてくれれば力になりますよ」
アルディは優しげな表情を浮かべているけど……どうしようか? というようにヘンリーとスパルナの方を振り返る。
「……良いのではないですか? 元々、軍の方に話をするのが目的でしたし、銀狼騎士団といえば女王自らが設立したらしいですし、信用出来ると思います」
「お兄ちゃんの好きにするといいと思うよ」
相変わらずのスパルナだったけど、ヘンリーの方は建設的な意見をくれた。
「……わかりました。出来れば落ち着いて話しがしたいのですが」
「それでしたらこちらへどうぞ。ちゃんと人数分お茶と椅子を用意させますよ」
そう言って俺たちを駐留所の建物の中へと案内してくれた。紳士的な対応をしてくれている彼は、果たしてどこまで俺たちの話を信じてくれるだろう?
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