第240幕 対魔人用兵器
『総員! 抜剣!』
シグゼスの指示で、兵士たちが全員剣を抜き、盾を持っている重装兵を先頭に立たせてこちらに向かってくるシアロル軍との距離を縮めていく。
流石にカッシェも戦闘直前というわけで引き締まった顔をしていた。
俺の方は空中に魔方陣を構築していき、シグゼスの指示が出た瞬間に敵軍に無差別攻撃を仕掛けようと準備していく。
様々な
「それがあのヒュルマの奴らをぶっ飛ばした魔方陣なのか?」
「今回はちょっと違いますね。カッシェさんもやろうと思えば出来ると思いますよ?」
「ははっ、カッシェでいいさ。俺にも出来るってよくそんな事言いきれるよな」
無理無理と笑って済ませているカッシェだけど、今の俺が構築している魔方陣の数々は、本気で修行を重ねた者なら扱うことが出来るものしかない。ただ、同時展開をするのはまた違った技術が必要になるんだけどな。
「二人共、そろそろだぞ」
前方に注意を向けていたロンドがこっちにそう呼びかけると同時に『拡声』の魔方陣で声を大きく響かせたシグゼスの声が聞こえてきた。
『魔方兵、前へ! 魔方陣による攻撃後、敵の銃による遠距離攻撃を警戒しつつ突撃を開始せよ!』
その指示を受けて、俺の方も自分に身体強化の魔方陣を重ねながら、いつでも飛び出せるようにする。
俺以外の兵士たちも魔方陣を次々と展開していって、ちょっとした壮観な光景が現れる。
『発射!』
シグゼスの掛け声と同時に展開されていた魔方陣が次々と発動していき、炎の玉が次々と飛んでいく。
俺の方も魔方陣を発動して、他の兵士たちよりも二回りほど大きな炎の槍や、雨のような小さな粒のような雷が一斉に出現して続々と打ち込まれていくのは圧巻としかいいようがなかった。
本来だったらこれほどの魔方陣を防ぐには相応の力を要求する。だからこそ俺たちは疑ってなかった。自分たちの魔方陣による強烈な一撃が被害尾を多く与える事を確信していたからだ。
しかし――
「な、なに……?」
周囲の空気が冷え込むように下る。当然だ。かなりの損害を初手で味あわせてやろうという思惑があったそれらを受けても平気な顔でこちらに進軍してくる敵の姿に逆にこちらに動揺が走ってしまう。
「ど、どういうことだ?」
「俺の魔方陣が効かないってわけか?」
『怯むな! 総員、敵の動きに注意して突撃せよ!』
本当に効いてるのかいないのかわからないシグゼスは、魔方兵を後ろに遠ざけ、重装兵の盾を全面に出して、守りながら攻めに行くという戦い方をするように決めたようで、一瞬動揺していた兵士たちはすぐに与えられた命令をこなしていき、激突の瞬間に備えた。
対する俺は、気になることがあってこっそり軍から抜けてどれか一人でシアロル軍のところに走っていった。
両軍が迫ってきている地域から一旦大きく外れ、『姿』『消失』の
これによってある程度近くに来なければ俺の事を見つけることも出来ないというわけだ。
『索敵』など、何かを探す系統の魔方陣とは相性が悪いが、向こうがそれをしていないことは大体わかっている。
だからこそ、今のうちにこちらの魔方陣が効かなかったという事実を正確に把握しなければ、不利な戦いを強いられるような予感があったからだ。
この状態では他の魔方陣を構築するわけにもいかない為、先程のように念入りに構築するなんて出来ないが……それでもすぐさま展開出来るものでも十分だ。
潜伏して機会を伺っている間にシアロル軍の兵士たちが銃を取り出し、お返しだと言わんばかりにこちらの前線に向かって射撃を行っているけど、分厚い盾に阻まれて上手くいっていないようだ。
もうすぐゴーレムを含めたシアロル軍の最前線とぶつかる……という前にそちらの方に近づき、改めてゴーレムの方はしっかりと姿を確認する。
全体的に薄水色の丸いフォルムをしていて、見るからに機動性よりも防御性を重視しているようだった。だけど、動きは普通に早い。恐らく、鍛えられた兵士と同じように戦えるんじゃないかと思う。
これだけの近距離まで近づいて魔方陣を叩き込めば、なぜ効果がなかったのかがわかるはずだ。
すぐに離脱できるように常に周囲を警戒しながら、俺はゴーレムに向かって『炎』『球』の二つと『土』『槌』の二つの
どちらかが効けばそれで良い。そう思って発動したのだが……ゴーレムが淡い緑色の光を放ったかと思うと、俺が生み出した炎の球も土のハンマーもゴーレムの中心に吸い取られていく。
「なに…….?」
一瞬頭が追いつかなかったが、敵兵の叫び声で放たれた銃撃を避けている内に一つの結論に辿り着いた。
あれは『魔力を吸収する』ゴーレムなのだということだ。
そしてその事実は、魔人を圧倒的に不利に追いやるには十分なものだった――
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