第237幕 平野での戦い
ジパーニグの吉田を降し、俺はそのまま身体強化の魔方陣を限界近くまで重ね、全力で走りながらまっすぐ首都の方まで向かっていたのだけれど……やがて兵士たちの死体をちらほらと見かけるようになった。
人も魔人も……色んな死体が存在して、少し前までここが戦場になっていたことを伝えてくれているようだった。
「エセルカ、シエラ、くずは……三人とも、無事でいろよ」
戦争となれば、戦える能力のあるくずはも戦闘に出る可能性がある。彼女自身はあまり戦うのを得意とはしてないけれど……何かあれば戦いには出てくるだろう。
エセルカもシエラも昔とは違って実力が付いてきているけれど……くずははどうしても二人と比べると劣っている。
出来ればセイルに託された彼女が傷つかないでいてほしいのだが、こればっかりはどうしようもないだろう。
死体の後を追うように走り続けていると、少しずつ遠くからなにかの音が聞こえてくるような気がした。
それを頼りに先に進むと――やがてぶつかったのは大きな戦場。
アリッカル側の陣営はジパーニグの軍とはまた違った軽装の装備をしていて、やはり例の道具を使いながら応戦している。グランセストの魔人たちはその飛び道具に苦戦しているようだが、しっかりと鎧と兜を着込んでる兵士の方はある程度防いでいるようだった。
吉田が使っていたのとは違う高火力の詠唱魔法がアリッカル側から放たれ、それをグランセスト側は回せるだけの魔人を回し、魔方陣で対応しているようだった。
ちょうど両陣営の真横を取った形の俺は、すぐさま『神』『炎』の魔方陣を構築していく。
ここで他の『雷』や『焔』を使った場合、下手をすれば現在戦闘中のグランセストの陣営にも当たってしまう可能性があったからだ。
そのまま構築した魔方陣を発動して、出現した巨大な火の玉をアリッカル陣営の後方に向けて発射する。流石の俺も両軍が激突している場所に向けて魔方陣を解き放つのは、ちょっと度胸がいる……というか絶対に犠牲が出るから無理だった。
爆発音とアリッカル陣営の敵兵が吹き飛ばされるのを見ながら、もう一つ同じ魔方陣を発動して放り投げてやる。
いきなり起こった爆発に全く状況が掴めていない両軍は戸惑っているような空気を出していたけど、先に動いたのはグランセストの陣営だった。
俺の方からは少し遠くて轟音のような雄叫びぐらいしか聞こえなかったが、どうやら戦況が自分たちの方に向いていることがわかり、戦意が高まってきたようだった。
対するアリッカル陣営は自分たちがどこから攻撃されたのかようやくわかったようで、こっち側にも兵士を差し向けてきたけど……それは誤った判断だとしか言いようがない。
こういう場合、同じ様な火力か、防げるような手立てが無いときはおとなしく撤退するのがベストだ。
敵軍の行動を把握した俺は、すぐさま『神』『氷』の
高威力の魔方陣を二つ同時に展開するのは少々時間が掛かるが、こちらに向かって来た兵士たちの射程範囲に入るまでには終わる。
何度も見た魔方陣に恐怖に駆られたのか、こちらに走りながら射撃を仕掛ける者、立ち止まってその場で狙いを定めている者と分かれているようだった。あくまで逃げないのは逃げ道などないと思っているからか……はたまたどうせ死ぬんだと腹を括ったのかはわからないがな。
発動と同時に俺の周辺には凄まじい冷気が襲い、次々にそこにあるものを凍らせていく。
アリッカル陣営側に投げた巨大な炎の槍は、ちょうど軍の横に当たり、爆音と兵士が吹き飛んでいく様がよくわかる。
「くそ……化物かよ……!」
ここまで到達した兵士の一人が忌々しげに呟いたのが聞こえたが、気にすることはない。
むしろこれくらい、昔は普通だったさ。
魔力を高め、技術を磨き、身体を鍛える……基本的なことを道具に任せてしまっているからいざと言う時に力を発揮できずにいるのだ。
武器だけが凍りついた者は、全身氷漬けになった兵士の姿を見て、怯えながら逃げてしまう。
結局、俺の攻撃を止めることが出来ずに高火力の詠唱魔法が打ち止めになってしまい、アリッカル側は徐々に撤退。殿に盾を構えた一団がグランセストの軍を睨むように後ろに下がっていった。
敵が余力を残してる中、こちらの軍がどう動くか見定めるようにこちらも様子を伺ったが……追撃はしない判断を取ったようだった。
それは正しい判断だ。恐らく、追撃したら【バーンブラスター】が飛んでくるだろう。
使った奴は倒れるだろうが、最悪盾さえ手元に有ればまた同じ事が出来るからな。
わざわざボロボロな敵を追い立て、余計な損害を出す必要もないだろう。
さて、どうにか間に合った俺の方も軍に合流して少し休ませて貰おう。
ここ連日走り続け、吉田との戦いに加えて今の戦闘……。
正直かなり魔力を持っていかれた。底知らずの俺でも『神』の
久しぶりに感じる魔力消費による軽い疲労を抱えながら、グランセストの陣営が留まっている場所へと進むのだった。
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