第233幕 孤独な戦争

 発動した魔方陣によって俺の周辺一体に雷が降り注ぎ、周囲にその波動を撒き散らす。

 なんの準備もなく、いきなりその攻撃に晒された彼らは、なんの防御もすることなく消えていく。


「て、敵襲ーー!」


 生き残った者の一人が大きな声で叫んで、他の者たちに襲撃を告げる。

 それによって周囲から殺気のこもった視線がこちらの方に向けられてきた。


 しかし、甘い。魔方陣による攻撃をされたとわかったのなら、その時すぐに逃げるか戦うか決めなければならない。


 ――判断の甘さが命になる……!


 俺は瞬時に魔方陣を構築する。起動式マジックコードは『炎』『爆発』の二文字。展開したそれにいつも以上に魔力を注ぎ、現れた敵兵が飛び道具を使う前に彼らに向けてそれを解き放った。


 大きな爆発とそれに見合う炸裂音が響き、現れた敵を火の海へと包んでいく。

 ……が、ここまでしても向こうの有利は覆らない。


 声が届かなかった兵士たちもこの騒動を聞きつけて続々と集まってくる。

 流石の俺でも全ての兵士が武器を構える前に攻撃出来る訳もなく、あっという間に包囲された。


「動くなっ!!」

「だったら撃て。俺は動くぞ」


 これだけの人数。たった一人で倒せるものじゃないと思っているのだろう。

 そんな降伏勧告なんて今の俺には無意味だってことを思い知らせてやる。


 その武器で攻撃する暇も与えず、俺は『神』『氷』の魔方陣で周囲の全てを凍りつかせる。


「な、なんだこれは……!?」


 突如として出現した氷に驚いたのか、兵士たちは慌ててその脇に抱えてある武器を構えて……攻撃出来ないことに戸惑っているようだった。


「な……!? なぜ……!」

「いくらそれが優秀だからといって、過信しすぎだ」


 あれが魔方陣で撃ち出されるものかどうか知らないが、その全てを凍らせてしまえばなんの問題もない。

 上手く作動しない道具を見て動揺している兵士も、氷漬けにされた他の兵士たちを見て驚愕の表情を浮かべている。


 何でも同じ攻撃方法に頼っているからそうなる。俺が次々と兵士たちを殴り、蹴り倒している間にようやく自分たちの状況を察知したのか、剣を抜いて応戦してきた。


 中には詠唱魔法を唱えてくる者もいるが、それは遅い。こちらの魔方陣の方が数段早い……!


 次々と魔方陣を展開していって、詠唱魔法を唱えてる兵士たちを狙って潰していく。

 それに気づいた兵士たちは魔法兵たちを下がらせようとしているけど、こっちが魔方陣で攻撃していることを忘れているのか?


「ちっ……たった一人でここまで……!?」

「怯むな! 押し切るんだ!」


 既にかなりの戦力を失っているはずなのに相変わらず気力が衰えないのは、よほど訓練された者たちなのだろうけど、これならばいっそのこと俺に恐れて逃げた方がまだ救いがあっただろう。

 いつか? もうそろそろか? とこっちが疲れているのを待っているのだろうけど……あいにく、疲れ知らずなものでな。


「悪いが、お前たちにこれ以上の暴虐を許す訳にはいかないからな。例え疲労で身体が倒れても、お前たちだけは倒す」


 あくまでも添えるように剣を抜き放ち、向かってくる兵士たちを斬り伏せる。

 魔方陣を剣に展開して使っていく戦闘スタイルは使えないが、それ以外であれば今持っている剣でも十分に対応出来る。


「ちっ、ここまでアンヒュルにやられっぱなしになるなんて……!」

「もう少ししっかりと研鑽を積むんだな」


 無意味なことを言いながら、魔方陣による広範囲の攻撃と剣捌きで次々と兵士たちを斬り伏せ、倒していく中で奇妙な感覚を覚えていく。

 たった一人で敵を倒していく……それはまるでこの世界中の人を敵に回した気分だ。

 実際はそうではないのだけれど、現実の孤独な戦いの中で少しずつ身体が疲弊していくのがわかる。いくら俺でも長時間の移動に延々と打ち続ける魔方陣。

 絶えず浴びる敵の殺気と剣撃に、精神的に疲れを覚えるのも無理からぬ話だ。


 だけれど諦める訳には行かない。ここで彼らを食い止めることが出来なければ、村は焼かれ、町は崩壊するだろう。それだけは防がなければならないのだから。


「貴様ら! 一体何をやっているか!?」


 そんな決意を抱いて戦い合っていた俺は、突如響き渡る声と共に動きを止めた兵士たちの様子を見て、注意深くそちらの方向に視線を向けた。

 歳は大体俺と同じくらいのようだけれど、彼がこの軍勢を率いるリーダーのようだ。今まで諦めずに戦ってきた彼らが瞬時に止まってしまったのだから。


 兵士たちの動きを一通り確認した後、ゆっくりとその視線を俺へと向けてくる。


「久しぶりだなぁ、グレリア」

「……なに?」


 俺のことを知っているだと? 兵士たちの鎧や服装からしてジパーニグの連中なのは間違いないだろうが……どうにも記憶にない。


「……その様子だと覚えていないようだな。俺だ。アルフォンス・吉田だ」


 その名前を聞いた瞬間、頭の中をかすかな記憶がよぎる――

 かつてジパーニグで初めて出会い度々ちょっかいを掛けてきたのが彼だったが、まさかこんなところで出会うとはな。

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