第232幕 遠い戦火を目指して
一夜明けて出た結論は俺が先行し、二人は力を温存しながらグランセストに向かう……ということだった。
「……必ず生き延びろ」
「私たちも出来る限り早く駆けつけます。ですから……無茶はしないようにしてください」
二人といくつか言葉を交わし合い、激励の言葉を貰った俺は、町から出て街道を外れた辺りで身体強化の魔方陣を使って一気に加速した。
どんどん流れるように視界に入っては消えていく景色を見ながら、慣らすように少しずつ身体強化を重ねていく。
こういう長時間移動する場合は一気に展開するんじゃなくて少しずつ重ねる方が身体に負担が少ない。
ましてやイギランス首都近辺からグランセストの首都アッテルヒアまでの距離を走り抜けたことなんて俺にだってないからな。
こっちも無理を重ねすぎないように移動しなければ戦うのも一苦労するだろう。
勇者は……もちろんいるだろうが、他になにか隠し玉があってもおかしくはない。
……ここで『神』の
『神』を用いた魔方陣を使うくらいなら、身体強化を二十くらい重ねて展開したほうがまだマシだ。
それに身体強化の魔方陣は全体的に強化されるが、『神』の場合、『速』なら足の速さ。『力』なら力の強さに作用する。
全身の能力を底上げするような魔方陣は『身体』『強化』の
だからこそこうやって重ねながらどんどん身体の能力を上げていくしか方法がない。
途中で何度か休憩を挟みながらイギランスからグランセストの領土に足を踏み入れたのは次の日の昼ごろだった。
自分でも想像以上の速度が出てると思う。
それだけ自分の中でもグランセストが――いや、あそこにいる仲間たちが重要だったというわけだ。
そしてその気持ちは…….グランセストに入ってしばらく進んだ村で改めて感じた。
――
「なんだ……? これは……」
思わず呆然と呟いた俺の目に飛び込んだのは、無残に焼かれた村の姿だった。
生きてる者を探しても誰もいない。
男も女も年寄りも子どもも……全員撃ち抜かれるか、斬られて死んでいる。
中には大きな木の棒に括り付けられ、恐怖に歪んだ顔のまま命を絶たれている者もいた。
あまりの光景に言葉も出ない。
これが……これが知性があるもののやる事なのか?
これほど残忍な所業が?
周囲の魔人の中には、逃げようとして後ろから斬られた者もいる。
子どもを守るように死んでいる母の隣で、頭のない小さな遺体が横たわっている。
それを見た瞬間――頭の中が沸騰しそうになったのを感じた。
怒りのまま、今すぐ敵を探し出して殲滅したい……! そういう思いが心の中から湧いて出るほど、村は凄惨な有様だった。
息が乱れ、暗い感情に流されないように頭を抑える。
ほんの少し、冷静さを取り戻して考えれば、この惨状は三日以上前に起こった出来事だろうと思えるようになった。
辺りには人の気配など全くないし、それなりに臭いがする。
……結局、この村で生きている者は一人も見つけることが出来なかった。
よくも、よくもここまでの事をやってくれた。
正直なところ、俺は彼らを侮っていた。戦争と言っても全て仕組まれた事をしていただけに過ぎない。
勇者にだけ頼った戦いをしている彼らが直接攻め入り、陵辱の限りを尽くすなんて思っていなかった。
可能性は十分にあったはずだ。五つの敵国に囲まれたグランセストはいつどこに攻め込まれてもおかしくはなかった。考えられたはずなのに、この結果を招いたのは……そこまで及びもつかなかったのは俺たちの失態だ。
なら……それを払うのはミルティナ女王の側に仕えると決断した――剣となると決めた俺の仕事だ。
身体強化の魔方陣を一気に展開して、探索の魔方陣を更に発動する。これだけの事をやらかしたのだ。少人数で動くわけがない。
周囲に生き物が密集していれば、そこに彼らはいる。
「これ以上、何も奪わせはしない……!」
町や村に彼らがたどり着けば、再び同じことをするだろう。
それだけは絶対にさせない。これ以上無慈悲に何かを奪うというのならば……俺が彼らの命を奪おう。
村のみんなには可哀想だが、これが終われば全員きちんと埋葬する。それまでは野ざらしになることをどうか許してほしい。すぐに……終わらせるから。
一気に駆け出した俺は、絶えず探索の魔方陣で表示されたものを確認しながら野を駆ける。
やがて……複数に分かれた集団を見つけた。はっきりと捉えた瞬間、探索の魔方陣に魔力を注ぐのをやめて、ただ風となる。
まっすぐ敵陣と思われる集団の一つに向かって走りながら、片手で魔方陣を構築する。
『神』『雷』の二つの
準備をしている間に敵の――軽鎧の集団を見つける。その全てがカーターとの戦いで見た武器を装備し、帯剣している。
はっきりと敵を視認したその瞬間、俺は迷わず魔方陣を発動させた。
卑怯だとは言うまい? お前たちがやってきたことのツケ、払ってもらうぞ……!
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