第十一節 生まれ変わる力・セイル編

第195幕 秘境探索

 俺がくずはと別れてからずっと、ラグズエルの足取りを追う為に、以前彼の下にいた時に本で知ることのできた場所を点々とあるき回ることにした。


 彼は基本的に誰の目にもつかない奥地に住居を構え、グランセストから追われた者たちを匿っていると言っていた。

 今となってはその言動もどこまでが本当なのかはわからないが、行ってみる価値はある。


 その間にも日頃の鍛錬と魔方陣の研究を欠かさず行い、自分の力を着実に高めていく。

 いずれはあの龍を自在に操れるようになるために。


 初めての一人旅で少し寂しい気持ちもあったけど……改めてくずはと離れて良かったと思う場面も多かった。

 険しい山を登って様々な魔物と戦い渡り歩く旅は、女の子には結構きつい面が多い。


 時には絶壁を登っている時、獲物の隙を突くように狩りを行う『ハンターコンドル』という大きい黒と白の鳥の魔物に出会ったのには本当に参った。


 こっちは手が離せないのに、向こうは背中を攻撃し放題だからな。

 あれは俺じゃなければ死んでも無理だろうと思ったくらいだ。

 ……いや、グレリアやヘルガ辺りならなんとかしそうな気がするけど。


 そんなこんなでラグズエルの手がかりを追って行ったのはいいんだが……外れが多すぎる。

 結界に干渉する魔方陣の構築に何十日と時間がかかったのもそうだけど、苦労して破った割には何にも無かったり、魔物の大群が押し寄せて来たり……。


 あの男は最初から嘘の場所を教えてたんだと思うと段々とムカついてきたほどだ。

 気づけば人よりも獣や魔物と接してる時間の方が多くなるわ、次第に町に行くこともなくなるわ……。


 やはりあの男は害悪以外の何者でもなかった。

 いや、お陰で普通に訓練しているのでは得られない強さを手に入れたのだからなんとも言えないか。


 こっちはいつも命懸けだけだったし、何度か死にそうになったりしたけど、乗り越えた時は自分が強くなっていくのを実感できた。


 最初は数えていた日数も今では忘れ……幾度かの秘境探索を超えた時。

 最後の一つに当たりはあった。


 秘境の奥地に張られていた結界を『探索』の魔方陣で見つけ出し、『破』『結界』の二つで構成された破ることに特化した魔方陣を使ったその時の事だ。


 今までにない強く練り込まれた結界を苦労して打ち破ると、そこにあったのは俺とくずはがいた場所よりは比較的小さいが、確かに誰かが住んでいる気配のする建物だった。


 だけど……なんだろうかこの感じ。

 すごく不気味なものが待ち構えているような、そんな予感がする程、薄気味悪いところ。


「だからって、尻込みするわけにはいかないよな」


 小声で呟いて気合を入れた俺は、建物の中に入った。

 明かりは一切付いておらず、薄暗い。


 俺は『灯火』の魔方陣を展開して周囲が見渡せるように明かりを灯す。

 最低限の光量を得られた俺は、ゆっくりと警戒しながら見回すのだが…….ここは一体、どういうところなんだろうか?


 誰かいることは間違いないと思うのだけれど、全く見かけない。

 建物の中は静寂に包まれている。


 気配はあるのに誰もいない……そんな奇妙な状況が、どこまで行っても薄暗いこの場所を不気味に思わせる。

 しばらく周囲を探索しても見つかったのは下に降りる階段だけで……そこからほのかに嫌な匂いがする。


 汗・血が蒸されて混ざったかのような悪臭。

 鼻がよく効くという訳じゃない。

 それだけ、地下の臭いが強いのだ。


 正直、あまり降りたくないのだが……もう調べていないところはここしかない。


 何があったって行くしかない。

 意を決して地下に降りていく事を決めた俺は慎重に歩みを進める。

 何が起きても大丈夫なように常に警戒を怠らないように動いていくと……半開きになった扉が一つ。


 明らかに嫌な想像をさせてくれるそれをゆっくりと開くと、徐々に悪臭が漏れ出してきて、思わず顔をしかめてしまう。


「なんだ? ここは……?」


 床や壁に血がこびりつくように塗られていて、部屋の隅には何かが積み上がっている。

 一体なんだろうか? と灯りをそちらの方に向けると、かなり後悔してしまった。


 それは悪臭を放つ原因の一つでもある――人のようなものだった。


 焼け焦げていたり、手足が異様に短かったり……そのどれもが普通の死に方をしていない。

 その中にかろうじて息のあるものもいたけど、虚な目で何もない空間を見つめ、うめいているだけだ。


 すぐに目を逸らし、こみ上げてくるものを抑えながら改めて部屋を見回すと奥に続く扉を見つけた。

 こんな地獄のような場所のさらに先があることに戦慄を覚える。


 魔人だか人だかわからないが、彼らは一様に酷い有様だった。

 この奥には、さらなる惨状が広がってるかもしれない。


「……ここまで来たんだ。

 今更引けるわけがないよな」


 小声で自分に言い聞かせるように呟き、気合を入れて、俺は勇気を出してその扉を開けた。


 奥の部屋からはどこかカビ臭く、血とは全く違う、嫌な臭いが立ち込めている。

 見た感じ地下牢で、檻の方は若干錆びているようだ。


「……だれ?」


 怪しいものはないかと辺りを見ていると、どこからかか細い声が聞こえてきた。

 その方向へ灯りを向けると……そこには辛うじて息のある子どもがいたのだった。

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