リヴァイヴ・ヒーロー ～異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる～

第１６２幕 激化する戦いの中で

　魔方陣から出現して以降、ヘルガは先程のテンションの低さが嘘のように嬉々として攻撃が徐々に苛烈さを増してきた。

　先程のような複数の魔方陣を次々と展開していくのは変わらないが……呼び寄せてくる玩具の種類が相当増えてきた。

　無数の小さな光の粒を高速で撃ち出してきたり、一体どこから飛んでくるのかわからないが、様々な角度から地面に当たった瞬間、そこを抉り取るような一撃が恐ろしい速度で飛んでくる。

　そうかと思えばヘルガ自身が俺の目の前に現れ、小型のナックルのような物を構えてくる。

　あれも杖と同じ武器らしく、いきなり眼前に突き出されたそれで小さな穴から光の玉が撃ち出してきた。

　とっさに顔を横に傾けて回避し、そのまま思いっきり蹴りを喰らわせてやる。

「くはっ……！」

　身体を強化された俺の一撃を受けたヘルガは、吹き飛ばされながら魔方陣を展開して、そのままその中に入る。

　そして少々離れた何もない場所に魔方陣が展開され、ヘルガが現れた。

　ヘルガの攻撃を物ともせずに果敢に攻撃していく俺に対し、先程の大筒が魔方陣から出現する。

　そちらの方は地面に当たると、小規模な爆発を引き起こされた。

　……あれは少し厄介だな。

　回避する場所を選ばなければ、追い詰められてしまうだろう。

　ならば――こっちも魔方陣を展開する。

　起動式（マジックコード）は『神』『氷』の二つ。

　発動したその瞬間、周囲の温度が一気に下がり、ヘルガの魔方陣で出現した玩具を含め、エセルカたちには届かない範囲内でここら一帯を全て凍りつかせる。

　次々に撃ち出されていた魔力の玉は全て凍りついて、粉々に砕け散ってしまった。

　……のだが、肝心のヘルガは姿が見えない。

　恐らく、またあの魔方陣に逃げてしまったのだろう。

　しばらくして、先程と同じように別の場所からヘルガは姿を表した。

「は、ははっ、私の魔方陣がこうも通じないなんて……本当にゾクゾクする」

「随分と厄介な能力だな……」

　戦いの最中に何度か剣での攻撃を試みたのだけれど、ただ普通に振るっただけではヘルガの持っているナイフに防がれるか、魔方陣によって逃げられてしまう。

　かといってそれすらも切り裂く『神』『斬』の魔方陣を剣に纏わせて使ったところで、彼女の命に届く前に粉々に砕けてしまうのだ。

　剣の方も既に三本を無駄に消耗してしまい、残ってるのは背中に二本、左腰に一本というどうにも頼りにならない状態だ。

　ここで『グラムレーヴァ』があればこの戦いももう少し楽になるのだろうが、無い物ねだりをしてもしょうがない。

　この状況で彼女に致命打を与えるのであれば……拳による一撃しかないだろう。

　それ以外はなにかやる前に逃げられてしまってきりがないし、俺は周囲に張り巡らされた氷を先程展開した魔方陣を操作して、粉々に砕いて元の地面を出現させる。

　それと同時にヘルガは再び先程と同じように魔方陣で数々の道具を出現させてる間にこちらも『神』

『速』を展開し、道具たちが再び放たれる前に一気にヘルガに詰め寄る。

　いくら彼女の動きが素早くても、より速く動くことが出来れば何の問題もない。

　向こうもこちらの考えは読めているというかのように、背後の魔方陣が展開するような気配がしたが、少し位置取りを気をつけてヘルガに詰め寄っていく。

　そのままの流れで次に俺が発動するのは『神』『撃』の二つを起動式（マジックコード）として展開して、拳に纏わせる。

「――喰らえっ！」

　至近距離まで詰め寄った俺に対し、ナイフによる迎撃で応戦してきたヘルガだが、それは愚策というものだ。

　一切の躊躇無く拳を振り切る。

　ナイフの刃が俺の拳を受け止め、斬り裂こうとしているが、何の意味もない。

　魔方陣を纏っている拳に触れた瞬間、その刃は砕け、まっすぐヘルガの顔面を捉え――たと思ったのだが、とっさに防御の魔方陣を両腕に纏わせ、俺の攻撃に割り込ませてきた。

　鈍い音ともに彼女は一撃を受け止めきれずに吹き飛んで地面に転がってしまう。

　先程の魔方陣……普通の防御系のソレとは違った。

　だが、確かな手応えは感じている。

　その証拠に、終始笑みを浮かべていたヘルガの表情には苦悶の色が見え、起き上がるその姿は先程とは違い、どうにも頼りない。

「く、くぅ……これほど、とはね。

　どうやら、戦力差を見誤ったみたい」

「どうする？　このままするなら……次は仕留める」

　ヘルガは一瞬だけ憎々しげに笑った後、両腕をだらんと下げて苦々しげに首を振る。

「今回は退いてあげる。

　だけど……次は必ず、倒す」

「はっ、上等だ。

　そっくりそのまま、返してやるよ」

「ヘンリー」

　これ以上は戦う気のないヘルガは、ヘンリーの方に軽く目を向けて、そのまま視線をエセルカの方に移す。

　彼はそれだけでどうすればいいかわかったようで、エセルカを置いて自分だけヘルガのところに行く。

「……随分素直じゃないか」

「強者には最大の敬意を。あの子一人渡すだけで満足なら、どうでもいい」

「……そうそう、一つだけ。これだけ言わせてください。

　彼女は、司と一緒にアリッカルからここに来たんですよ。

　貴方でしたらこの意味、おわかりになると思います」

　にやり、とヘンリーはそれだけ告げて、ヘルガと一緒に魔方陣でどこかに消えてしまった。

　……あの野郎、とんでもない置き土産を残して行きやがった。

「ね、グレリアくん、助けてくれてありがとう！」

　とことことやってきて、嬉しそう俺の事を見上げているエセルカだったが……彼女をそう簡単に戻す訳には行かなくなった俺は、深い溜め息をつくしか出来なかった。