第155幕 アリッカルの秘密の場所
索敵者のせいで少し時間がかかったが、一度撒いてしまえばもはやこちらのもの。
適度に幻をばらまいて敵の索敵を妨害しつつ、エセルカがいそうな部屋を探すのだけれど、見つからない。
こういう時、探索の魔方陣を使えればいいのだけれど……敵がこちらの魔力の流れを読み取るように探してくる以上、常時発動型は分が悪い。
いくら『魔力隠蔽』でこちらの魔力を隠してるとはいえ、魔方陣を展開し続ければ気付かれてしまう。
探索の魔方陣は一瞬だけ使えばすぐに効果を発揮するものじゃない。
痕跡を探さなければならないのだから、どうしても時間がかかってしまうのだ。
そんな事をちんたらして見つかる可能性を考えたら、足で稼いだほうが早い。
……のだけれど、中々見つからない。
部屋を開ける時はどうしても音がするから慎重に行動しなければならない……というのに、見つからないものだから焦りが募ってしまう一方だ。
だけど……ここで落ち着かなければいけない。
戦いの時は熱い感情に身を任せるのも悪くはないだろう。
しかし今は冷静に物事を勧めていかなければならないときだ。
静かに深呼吸をしながら、俺は自分の心に生じた焦りを落ち着かせていく。
……よし。大丈夫だ。
たった一人の戦いである以上、自分の命を守れるのは自分しかいない。
後ろでサポートしてくれるような仲間もいない以上、信じられるのは己の実力のみ……。
こういうのも懐かしい気分にさせてくれる。
段々と昔の自分を取り戻していくような、そんな感覚を与えてくれるような気がするほどだ。
……あまりそんな事を思わなかったが、不思議と悪くない。
今の俺がぬるま湯に浸っていたかのように思える程、それは……心地よかった。
――
焦りを覚えて以降、より慎重になった俺は、結局エセルカに出会えないまま、ただ時間だけを浪費していった。
このままだと、いずれ朝を迎えてしまう……一度戻って体勢を整えた方が良いのでは? という考えが頭によぎった時……ふとあることに気づいた。
今入っている部屋になにか奇妙な違和感がしたのだ。
ここは城の一階部分の右奥の部屋なんだが、なぜかここだけ家具の配置がおかしい。
他の部屋は大体似たような構図だったはずだ。
だが、この部屋だけは机が反対の位置に設置されている。
それと……入った瞬間に魔方陣が発動した気配を感じた。
以前、魔力によって意識を操作されていた事があるからな。
それに注意しながら物理・精神を守る魔方陣を展開していたから特に何事もなかったが……あの魔方陣は恐らく意識を惑わせるタイプのものだろう。
他にはない、この部屋にだけ設置された魔方陣。
位置が反対の机……なにか隠してある。
最初は他の部屋にある机と同じ位置を調べてみたのだけれど、特になんともない。
後は……色んな所を探してみたが、やはり残ったのは他とは違う位置に設置されている机。
机自体にはなんともなかったのだけれど、それをどかせた先――机の下に奇妙な感覚がある。
どうやら、これは……俺が『グラムレーヴァ』を保管していたのと違う形式だけれど、魔力に反応する魔方陣が構築されている。
ただ、裏側に刻んでいた俺の時とは違って、こっちは堂々と表に刻まれているってことだ。
「なんでこんなところに……」
こんなもの、人の城にあるなんて明らかに怪しい。
いや、それよりもこういう技術は現在、グランセストでも使われていないはずだ。
それがなんでこんなところに……?
本当はエセルカを探すつもりで忍び込んだのだが、他の階にも彼女の姿はなく、残ったのがこのどこかに続く魔方陣のみだ。
こういうのは……全く同じ魔方陣を構築して、それを重ねて鍵として開く系統と、一定量の魔力を注ぎ込む系統の二種類だ。
そして、こうして表側に刻んであるタイプは大概後者というわけだ。
早速魔方陣に魔力を流し込むと……ある程度注いだ時点で魔方陣が起動して、床が音を立てて開いていく。
下には新しい道が出来ていて、そこは今までのアリッカルの城と明らかに様相が変わっている。
まず、グランセストの魔石による灯りよりも明るい光を感じる。
まるでそこだけ極小の太陽でもあるのかと思う程だ。
金属の階段が必要以上に足音を強く響かせていく。
カツン、カツンという音を聞きながら、どんどん下へと降りていくのだけれど……いつまで続くのだろうか。
やがて広い場所に出た俺は、奥から歩いてくる女性の姿があった。
「あは、やっぱり貴方だったんだね。
ここの魔方陣が開いたみたいだから様子を見に来たんだけど……ふふ、甲斐があったわ」
「……ソフィア」
アリッカルに存在する最後の勇者……ソフィア・ホワイトが再び俺の前に立ちふさがってきた。
あのヒッポグリフの平原以来か……。
「あら、前は『ソフィアさん』って呼んでくれてたのに……呼び捨てにするなんてね」
「そんなことはどうでもいい。エセルカはどこだ?」
「くす……くすくす」
俺の質問に小さく笑い続けていたかと思うと、ソフィアは背負っていた槌を取り出して両手で握りしめる。
以前の彼女と違い、今回は篭手のようなものを装備しているようだ。
戦闘体勢を取るソフィアは、右手の指をくいくいと挑発してきた。
「私を倒すことが出来たら教えてあげるわ」
「……いいだろう」
俺の方も静かに身構える。
向こうがその気なら、こっちもやってやろうじゃないか。
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