第156幕 再戦の女勇者
ソフィアは魔方陣を発動しながら突進してくる。
あれは『炎』『風』『巻』の三つで
なるほど、前のようにただこっちに向かってくるだけじゃない。
だが、ただそれだけだ。
俺はあえてソフィアと同じ魔方陣を構築していく。
一つ……二つとそれを増やしていき、計四つの魔方陣が激しく光り、一斉に同じ魔法を生み出していく。
それは最早炎の嵐とも呼べる大きさとなって、ソフィアの炎を飲み込んで……彼女に到達する寸前に両断されてしまう。
「……驚いた。複数の魔方陣が展開できるなんてね。
あの時、私と戦ったのが全力じゃなかったってこと? 随分と舐めてくれるわね」
「いいや、俺は常に本気で戦ってるさ。ただ……」
何重もの身体強化の魔方陣で身体を強化し、一気にソフィアの間合いに入り込む。
向こうも同じように重ねて強化しているようだけれど、まだまだ甘いな。
俺が詰め寄ってくることはわかっていただろうに、一手遅れるのがその証拠だ。
「適切な力を本気で扱ってるだけだ」
「……! ふふっ、ぞくぞくするわね」
俺は身体を沈め右足を軸にして、後ろ蹴りを放ってやる。
ソフィアはそれに合わせて持っている大槌の柄で受け止めるが……そんな薄い防御で俺の蹴りを止められるわけがない。
吹っ飛ばされた彼女は、なんとか踏みとどまろうと地面を足でこすらせ、かなり後退はしたが、体勢を崩すことはなかった。
……が、そんなものは関係ない。
俺は即座に魔方陣を展開する。
『氷』『矢』『雨』の三つで
ソフィアが攻勢を仕掛けてくる前に魔方陣を発動させ、氷の矢を雨のように放つ。
「……はあっ!」
俺のその氷矢の雨は、ソフィアの大槌で全て薙ぎ払われてしまう。
あれは……なるほど。
武器に魔方陣を展開している。恐らく、纏わせているのは『風』だろう。
それをあの力で振るってるのだから、当然、押し切ることも可能っていうことか。
「ふふっ、どう? いいでしょうこのハンマー。
私の力も相まって、当たると痛いじゃ済まないわよ?」
「……はっ、そうだな。並の戦士なら恐怖で身を竦ませる場面だな」
よほど自分の力に自信があるのだろう。
ソフィアは得意げにそれをアピールして、俺が肯定した事で更に増長していくのが手にとるようにわかる。
だがな、お前は一つ勘違いしてる。
「ソフィア、その程度のそよ風で……俺が止まると思ってるのか?」
「……いいわ、私の一撃、喰らってても同じことが言えたら褒めてあげる」
ソフィアは更に身体強化の魔方陣を身体に纏わせ、あの大槌の頭の部分には風を。
そして……距離があるにも関わらず、思いっきり地面に叩きつけるように大槌を振るう。
地面がひび割れたと同時に衝撃波が風を纏いながら、バキバキと音を鳴らしてこちらに迫ってくる。
なるほど、これは大槌をナイフでも扱ってるかのように軽々と使いこなすことが出来るソフィアにのみ許された攻撃と言える。
並の奴なら一撃放つだけで大きな隙が生まれてしまうのがオチだからな。
俺の方は回避を選択して、そのままソフィアに迫っていくのだけれど……向こうも同じことを考えていたようだ。
ソフィアは笑みを深め、こちらは冷静に……互いに距離を詰める。
「流石ね。私の力を見ても尚、おくせず攻撃してくるのだから」
「いいや、違うな。目の当たりにしたからこそ、怖くないんだよ」
大槌を軽々と振るいながら、俺の頭を砕くために繰り出してきた一撃が迫ってくる。
力、速度申し分なく、実に良い攻撃だ。
ただ能力に振り回されていただけのカーターとは違って、ソフィアには咄嗟の反応や繰り出す一撃の重さがある。
鍛錬を積めば、より強い戦士として育つだろう。
目の前に迫ってくる大槌に合わせて『防御』『力』『衝撃』の三つで
「! まさか……私のハンマーを迎撃するっていうの!?」
「当たり前だ。それくらい……出来て当然だろう?」
『防御』を組み込むことで拳を保護しながら『力』でソフィアの大槌を押し切る。
そして、強い『衝撃』を与えて、吹っ飛ばす!
激しい音が鳴り響き、俺の拳とソフィアの大槌がぶつかり合い、互いに一歩も引かない攻撃の応酬。
だが、すぐにそれは終わりを告げる。
「なっ……!」
ソフィアの驚愕の声が響き渡る。
俺の拳は振り抜かれ、彼女の大槌は遥か後方……重い音をたてながら突き刺さってしまった。
そして……肝心のソフィア自身は尻もちをついたように地面に腰を落としていた。
その顔は完全に放心していて、今の状況に考えが追いついていないようだ。
「ソフィア、お前の負けだ」
「……私の、負け」
ソフィアが魔方陣を展開した瞬間、俺も同じように強力な魔方陣を繰り出す。
大槌を取りに行こうとした場合は、問答無用で骨を折る。
エセルカの情報を得るために殺しはしないだけで、実質積みのようなものだ。
「そう……仕方ないわね。
約束通り、貴方の知りたいこと、教えてあげる」
それを彼女も理解したのか、ゆっくりと飲み込むように何度も小刻みに頷いて……ようやく負けを認めたのだった。
短い戦いだったが……内容の濃い一戦だったな。
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