第149幕 魔法が解けた時間
首都アッテルヒアで二日間過ごした俺たちは、馬車を使って副首都ファロルリアへと帰ることにした。
ゆっくりと観光することが出来たからか、シエラの方は何処と無くご機嫌だが、俺の方は色々と考えさせられる二日になってしまった。
俺やシエラがなにかしらの精神的攻撃を受けていることは確定だとして……一体誰が、どこで、という疑問が湧き出てくる。
シエラは恐らく、俺と二度目に出会った時には既に何かしらの処置が施された後だろう。
あの時、すぐに学園で会った事を話していれば、もっと早くにボロが出ていたに違いない。
対する俺は……真っ先に司のことを思い出したが、すぐにそれは違うことを結論づけた。
あいつならば、もっと雑な誘導をする。
今回俺がわかったのは、溜まっていった疑念、違和感がここで限界に達したようなものだ。
少なくとも長い期間干渉できるような力は持ってないだろう。
――可能性があるとすれば。
それはヘルガ・ヘンリー・イギランスの国王とジパーニグの学園長の四人と、ナッチャイスで遭遇した雇われ暗殺者くらい……なのだが、暗殺者に遭遇したのは俺だけだ。
他にも可能性はあるかもしれないが……少なくともこの四人の誰かと考えておいた方が良いだろう。
と、なれば……次に必要なのはセイルたちと接触することなのだが、今彼らがどこにいるのかわからない以上、迂闊な行動をするわけにはいかない。
意識を誘導されていようとされていまいと、ソフィアがあの場面であんなことを言う理由がない。
全幅を信頼を寄せることは出来ないが七割程度は真実だと考えた方がいいだろう。
なにより今俺がすべきことは……セイルたちと早急に合流して、情報交換をすることなのかもしれない。
――
リアラルト訓練学校に戻ってからは、学校長から普通に授業に出てもいいと許可が出て、また前のような日々に少しずつ戻っていくことになった。
相変わらずミシェラは笑いながら俺に遊ぼうとせがんでくるし、放課後の稽古のような訓練は続行中だ。
いつの間にやら一人、また一人と……レグルの影響を受けたように『師匠』呼びが流行っていき、苦笑しながらもそれに応える毎日。
そんなどこか緩い日々を当たり前のように過ごしていったのだけれど、休みの日などの時間が出来たら率先して国境付近の町々に向かって情報収集を
希望的観測をするつもりもないが、ソフィアにセイルとくずはが捕まっていない以上、こちら側に逃げ延びていることは十分に考えられたからだ。
しかし、実際は大した情報も得られなくて、ただ無作為に時間だけが過ぎていく日々が続いていった……そんなある日の放課後のことだ。
「グレファくん、君にお客様が見えてましたよ」
「客……ですか」
アウラン先生が訓練に向かう俺に対してそんな事を言っていた。
話を聞くと、寮母さんが掃除をしていたときに外部から誰かが訪ねてきて、俺の名前が出たのだそうだ。
俺を訪ねてくる……ということは、少なくともここに俺がいることを知っている奴じゃなければ無理だろう。
セイルやくずはにはここを教えていない上、分かれてから一度も連絡を取り合っていない。
検討をつけるとしたらジェスくらいなものなんだが……彼がわざわざ副首都にやってきてまで俺に訪ねてくる理由がわからない。
詳しい話を聞こうにも、アウラン先生は男が訪ねてきたということぐらいしか聞いてなかった。
一応、次の休みの日にもう一度訪れるそうで、その時には出来る限り居て欲しい旨を伝えてくれということだった。
だったら、特徴くらいアウラン先生にしっかり教えておいてほしいのだが……それを言っても仕方ないだろう。
「わかりました。次の休みの日ですね」
「確かに伝えましたよ」
そのまま笑顔でアウラン先生が去っていくのを黙って見送りながら、名前もわからない訪問者について色々と考えながら、俺は自分を『師匠』と呼んでくれている奴らの為に訓練場に向かっていった。
――
アウラン先生に訪問者があると言われた休みの日……俺は部屋で、というより、寮の出入り口の方でその男を待つことにした。
俺を知ってるってことはシエラを知ってると考えたほうがいい。
それでわざわざ俺を呼び出してきたということは、俺だけに伝えたいことがあるのかもしれない……という考えで出てきたというわけだ。
適当な店で買ったパンを片手に、ベンチで座ってのんびりとそれを食べて待つ。
あんまり色々考えていてもキリがないから、なるべく空でも見ながらぼんやりとしていてどれくらい時間が経っただろうか。
「久しぶり、グレ……ファ」
随分聞いてなかった声がして、ふと右からやってきた人物に顔を向ける。
赤い髪に黄色の目が少し不安そうに俺の方を見ている。
相変わらず体を鍛えているようで、細いその体は筋肉質でしなやかなさを感じる。
「ああ、久しぶりだな。セイル」
俺を探してここまで来たのは……可能性的には少ないだろうと考えていたセイル・シルドニアだった。
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