第142幕 女王の意外な真実
「どうですか? この城の中は」
「はい! とても綺麗ですね!」
アルディが俺たちの様子を見ながら城の内部の感想を求めてきたのだけれど、真っ先に答えたのは俺ではなくシエラ。
こいつ……完全になんでここに来たのか、忘れてるんじゃないだろうな?
そんな不安が胸中に渦巻くのだけれど、普段見ないようなにこにことした笑顔を見ていると、あまりなにか言うのは憚られた。
アルディの方はシエラの言葉にまた爽やかな笑顔を向けてきてる始末だ。
「そうでしょう? この城は魔人にとって国の象徴とも言えるものですからね。
清掃には気を使っているのですよ」
だいたいこんな感じで、玉座の間までの道筋を一通り案内してもらいながら進むことになった。
そして……ようやくこの国の女王の部屋まで辿り着くと、流石のシエラも緊張してきたのか、顔のほうが些か強張っているようだった。
「シエラ、落ち着け。
相手は一国の主とは言え、お前の方にはそんなに話を振らないだろうから。
そこまで緊張するな」
「わ、わかってる!」
緊張した様子のシエラだけれど、こいつ本当に大丈夫か?
俺たちのやり取りを見ていたのか、扉の前でアルディは一度俺たちの方を振り返ってきた。
「二人共、なんの心配もありません。
女王陛ははとてもお優しい御方ですので、少々粗相をされても寛大にお許しになりますから」
「は、はい……」
にこっと女を射止め殺しそうな笑顔を放ってくるアルディからの言葉受けても調子の戻らなかったシエラだけれど、最悪俺がなんとかフォローするしかないだろう。
そういう風に覚悟を決めた俺の姿を見たアルディは、ゆっくりとその扉を開いていって――とうとう玉座の間への扉は開かれた。
俺とシエラは互いに頷き、ゆっくりとその部屋へと入っていく。
それなりに広く、大きな部屋。
縦長の真っ赤なカーペットが入り口からまっすぐに玉座の方まで伸びていて、やけに豪勢さを感じる。
アルディの後ろを歩く俺は、周囲を観察するように視線だけ動かしていた。
まず左右に兵士たちが六人程立っていて、奥には大臣っぽいのまでいて……最後に小さな階段上になっている段差があり、盛り上がっている部分にある玉座の方に目を向けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「……女王陛下。ただいま勇者を討伐せし者を連れてまいりました」
「うむ、ごくろう。
アルディよ、お主は下がって良いぞ」
「はっ!」
恭しく頭を下げたアルディは、俺たちを置いてゆっくりと後ろへと下がっていってしまう。
恐らく、部屋の入り口の方で再び待っていてくれてることだろう。
なんというか、彼という男はそういう人物なんだと思ったからだ。
「さて、此度はヒュルマの勇者討伐……誠にご苦労であった。
本来であれば、わしらがやらなければならない役目を
「い、いいえ、陛下。
この国に災いが起ころうとするのであれば、民として、訓練学校の生徒として……当然の事をしたまでです」
咄嗟に俺は片膝を地面につけて頭を下げて女王に動揺を悟られないようにした。
こういう時、礼儀作法の方を本で勉強していたのは良かった……ような気がする。
頭を下げる前にちらっとシエラの方を見たのだけれど、彼女の方も女王の姿は初めて見たのか……呆然としてどうしたらいいのかわからないような有様で戸惑うように立っていた。
いや、正直これは当然の反応だろう。
現に女王や大臣の方も、シエラの事を別に無礼だとかそういう事は一切思っていないような雰囲気をだしていた。
「ふふっ、面を上げよ。
何もそう堅くなることはない。礼儀を失するな……とまでは言わんがある程度は楽にして良いぞ」
くすくすと愉快そうに鈴のような笑い声を響かせながら、女王は俺に頭を上げろと言ってきたけど……あまり上げたくないというのも本音だろう。
だが、ここで女王の言葉に逆らえば、それこそどうなるかわからない。
俺は意を決して立ち上がり、再びその女王の姿を視界に収めるように顔を上げる。
「ふむ、よう顔を見せておくれ。
ヒュルマの勇者を倒した素晴らしき男の顔をな」
なんて言いながら右手で誘うように『おいでおいで』をしてくるものだから、俺もゆっくりと女王の元へと近づく。
「ほれ、もうちょっと。もう少し」
途中で止まると更に来るように催促されてしまい……結局膝をつかないと女王を見下ろしてしまうのではないかと思ってしまうほどの距離まで近づいてしまった。
いや、相手は座っていてこちらは立っているのだから当然なのだが……なにせこの女王見た目が小さい。
そう、目の前に女王として玉座に君臨しているのは明らかに俺よりも年下と思われる少女で……その子は妙に幼さを残す声音で老獪な女のような話し方をしていた。
背丈は恐らくエセルカよりは高いだろうが……エセルカをリスだと例えるなら、目の前にいるのはウサギくらいと言ってもいい。
その白金と言うに相応しいきらきらと光り輝く長い髪に、透き通るように綺麗な水の青を宿した瞳を持つ少女の姿をした女王が……なんとも嬉しそうな笑顔を咲かせながら俺たちのことを見ていたのだった……。
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