第141幕 アッテルヒアの城
一緒についていけない事を残念そうにしていたミシェラや、仕方ないと言わんばかりの顔のルルリナ。
レグルやシャルランを合わせた四人に見送られて、俺たちは副都ファロルリアから首都アッテルヒアへと馬車で向かった。
「まさかまた首都に向かうなんてね……」
「勇者を倒した時から予想していたことだろ?
遅いか早いかの違いだ」
「よくそう言い切れるわね……まあいいけど」
馬車の中で思いっきり伸びをしてのんびり景色を見てるシエラも色々言いながらも随分とリラックスしてるように見える。
その順応力、俺も少しは見習うべきなのかもしれないな。
――
それから数日の時間を掛けて、俺たちは首都のアッテルヒアへと到着した。
久しぶりの馬車の旅は思いの外快適……というわけもなく、野宿での手間も別にいつも通りだった。
辿り着いた首都は……一度か二度くらいしか来たことはないからほとんど印象に残ってなかったが、シエラの方はそうでもないらしく、どこか嬉しそうにしていた。
首都の入り口の方で馬車を降りた俺たちは、しばらくのんびりと観光するかのように一番目立つ……大きな城の方へと目指す。
――本当はそんな事をしている場合ではないことはわかっている。
エセルカの事が気にならないと言えば嘘になるだろう。
セイルとくずはも……今どこにいるだろうか?
「グレファ、どうしたの?」
「ん、いや、なんでもない。
それよりも城に入ったらくれぐれも俺のことを『グレリア』と呼ばないでくれよ?」
「それくらいわかってるわよ」
どうやら少し表情に出ていたようで、何のこともないと誤魔化しながらシエラにボロを出さないように言い含める。
シエラは前も俺の本名をポロッと言ってしまいそうになった時があった。
確か訓練学校の試験のときだ。
あの時は何も突っ込まれずに済んだけど、この国の王の手前でそれをやったら……確実に追求され、面倒事に発展することになるだろう。
そうはならないように……と思って言ったのだが、肝心のシエラが『お説教好きの母親』からうんざりするほど聞いたと言わんばかりの表情をしていたから、深く追求はしないでおこう。
そう結論づけた俺は、再び周囲を軽く見回しながら、この国の王のいる城――エテルジナ城へと向かっていった……。
――
エテルジナ城はグランセストで『最も美しい城』と呼ばれているらしく、白亜の城は確かに美しい。
ファロウリアにも小規模ながらにたようなものはあるが、そんなものは足元にも及ばないとでも言ってるかのような大きさだ。
……陽の光の辺り具合では、町に大きな影を作りそうだな。
「うわぁー……やっぱり間近で見るとすごく綺麗……」
俺が光の心配をしているのをよそに、シエラの方は感嘆のため息をもらしていた。
まあ、俺の心の中の感想よりはよっぽどマシだろう。
二人してこのエテルジナ城に別々の事を思いながら、城の門まで辿り着くと、二人の門兵がいた。
彼らにこの国の王に呼び出されたこと。
勇者であるカーターを倒したことを説明すると、最初は信じられないものを見るような目で見られたが、学校長からファロウリアを出る前に渡された書状があった事を思い出し、それを見せた。
そうすると門兵は血相を変えて一人は大きな門の隣に取り付けられた兵士用の出入り口を使い奥へと入り……もう一人は疑ったことを思いっきり謝罪していた。
「先程は彼らが申し訳ございません。
リアラルト学校長から話は聞き及んでいたのですが……兵士たちまで話が回っていなかったらしく……」
「いや、構いませんよ。
知らなかったらああいう態度を取るのも仕方ないでしょう。
私もまだ若輩の身。口頭で言われて信じろ、という方が無理な話でしょう」
学校長の名前にこんな効果があるとは思っても見なかったが、その後は少し地位の高そうな輝くように艷やかな金髪と金色の目をした男が出てきて……頭を下げてきてしまった。
思わず俺もかしこまった口調で気にしないように伝えると……信じられないものを見るように大きく目を見開かせて、まじまじ俺を見つめるシエラがいた。
「グレファ……大丈夫? 変なものでも食べた?」
「……馬鹿」
何を言うかと思ったら……先生と話す時以上に口調に気を使うのは当然だろうが。
こっちは勇者を倒して呼ばれているとはいえ、まだまだ若造。
そういう事がわからないシエラに対して、深い溜め息が出てしまった。
そして……案の定、男の方も苦笑いを浮かべて……と思ったのだけれど、どうやら微笑ましいものを見るような目でシエラを見ているようだった。
「……まずは自己紹介いたしましょう。
私の名はアルディ・セイティネル。
このエテルジナ城にて我らが女王陛下に剣を捧げし騎士でございます。
以降お見知りおきを」
すっとおじぎをするその仕草は流れるようで……その振る舞いはとても美しい。
男の俺でも見ていてそう思うほどだ。
女性への受けは大層良いに違いない。
現にシエラは視線が釘付けになってるからな。
「ご丁寧にありがとうございます。
私はグレファ・エルデ。
こちらは――」
「わ、私はシエラ・アルトラです! 今回は、グレファくんを案内するために一緒にやってきました!」
……一人だけ先生に報告するような話し方をしているのは気のせいじゃないだろう。
でもまあ、俺たちのように子供と言っても差し支えない年齢だと、それくらいが限界かもしれない。
アルディの方もそれをわかっているようで、特に気にすることもなく門を開け、場内に導いてくれた。
「それではグレファさんとシエラさん……こちらの方から中にお入りください。
ようこそ、首都にて最も輝き光る場所――エテルジナ城へ」
いよいよこの国を治める王との対面……。
そこまで考えがよぎった時に、アルディの『女王様に剣を捧げし――』という言葉が頭の中をよぎった。
今まで男だと思っていたけど……どうやらこの国の王は、女性のようだ。
だからどうした、というわけでもないが、その事を知らなかったら変な間を生んでしまうかもしれない。
アルディが言ってくれて良かった――そう思いながら、俺たちは彼の案内で城を歩くことになった。
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