第八節 ヒュルマの国・動乱編

第140幕 久しぶりの学校長室へ

 カーターを倒し、それを訓練学校に報告してどれくらいの日々が経っただろうか?

 俺たちは学校長に呼び出され、再び部屋に集結することになった。


 ルルリナとはたまに会っては軽口を叩く程度には戻っていたけど相変わらずレグルとシャルランとは……あの日以来でしばらくぶりだった。


「……これ、あたしたち必要? 正直、グレファ一人だけで良いと思うんだけど」

「そう言うな。事実を知ってるのは俺たちだけなんだから」

「わ、わたしはその……」


 俺とルルリナが軽口を聞いてるのを横に、シャルランが少しまごまごとしながら……結局何も言えずに苦笑いだけをしていた。


「考えてもしょうがねぇし……行きましょうよ、師匠」

「……ああ」


 レグルは結局、今までの関係であり続けることを選択してくれたようだった。

 それは、恐らく彼にとって重大な決断だっただろう。


 しばらく俺たちは戸惑うようにその場に立ち尽くしていたが……意を決してノックの後、学校長室に入ることにした。


「……失礼します」

「やあ、待っていましたよ」


 部屋ではゆったりとした椅子に腰を下ろした学校長が……どこか困ったような笑顔をなぜか俺に向けていた。

 その様子はとんでもない拾い物をしたかのようにも思える。


「学校長……先生。呼んだ用事って……」

「ええ、勇者を倒した事を陛下にご報告いたしたところ……その者に会いたい、と仰られました」

「すごいすごい! おにいちゃん、王様に呼び出されたんだ!」


 シエラとミシェラ以外は動揺しているような雰囲気を纏っていたけど、俺自身はやけに冷静だった。

 というか『やっぱりな……』と思う節すらあった。


 あれだけのことをやったんだ。

 カーターが弱すぎたとはいえ、奴も一応は勇者と呼ばれた男。

 この国の王に呼ばれるには十分な理由にもなるだろう。


「……それで、あたしたちはなんで呼ばれたんですか?」

「ル、ルルリナちゃん! そんな態度取っちゃ……」


 俺のことがわかった。

 だけど、それが自分たちになんの関係があるんだ? と言うかのような顔をルルリナはしている。

 そのせいでシャルランがおろおろと学校長とルルリナを交互に見て、彼女を嗜めるような事を言おうとしていた。。


「……君たちにはある意味当事者と言ってもいいでしょう。

 この事を知る権利があると同時に、黙秘してもらう義務があります」

「黙秘? それは師匠があのカーターとか言う気狂きちがい勇者を倒したってことを黙ってろって……そういうんですか?」


 学校長が肯定するように頷くと、レグルはどこか納得できないような顔で不満そうにしている。

 それはルルリナやシエラも同じで、シャルランも『信じられない……』と思っているのがはっきりと分かるほど表情に出ていた。


「勘違いしないでもらいたいのですが、何もうやむやにしよう……などと考えているわけではないのですよ。

 君たちが彼の戦果を喋ってしまえば、否が応でも彼は勇者を葬った者として噂になるでしょう。

 結果、陛下や大臣殿たちの業務に支障を来すほどの影響が及ぶかも知れない。

 国の頂点に立つ者には、それ相応の準備が必要なんですよ」


 柔らかい笑顔を浮かべ、不満そうな顔をしている仲間たちに優しく説得するような口調で言い聞かせていた。


「……わかりました。それなら」


 レグルは少し間を置いた後、うんうん頷いていた。

 学校長は他の三人の様子も見ていたようだけれど、こちらも納得しているような感じだったからか、軽く頷いて改めて俺の方を向き直った。


「それで、どうでしょう?

 君が良ければ……だが、今すぐにでも首都に向けて出発してもらいたいのです。

 学校の方は出席扱いの特別欠席にするように取り計らいますから」

「それは良いんですが……」


 行くのは仕方ないにしても、首都では結局城の方面までは行かなかった。

 それから一騒動起きてそれどころじゃなくなってしまったからだ。

 別に方向音痴……というわけではないのだけれど、案内があった方がいいのは確かだ。


「……どうしました?」

「……学校長先生、グレファは首都には一回しか行ったことないんです。

 出来れば私が彼を案内したいと思うんですけど……」


 ここでシエラは気を利かせて案内役を申し出てくれたのはありがたかった。


 ……いつもの調子が出てこなかったから、具合でも悪いんじゃないかと一瞬でも思ったのは秘密にしておこう。


「グレファくんはそれでいいですか?」

「……むしろ願ってもないことです」


 俺の返答に満足気に頷いた学校長は座ったまま、俺たちを今一度見回す。

 以前の観察するような視線はすっかり消え失せていて、俺たちを認めてくれているような……そんな気がした。


「それでは、シエラくんも特別欠席扱いにしよう。

 馬車も用意してあるからちゃんと準備をしていくように、お願いしますね。

 それでは二人共、よろしくおねがいしますよ」

「はい!」


 ……学校長の言葉に意気揚々と返事をしているシエラを横目に俺たちは一度その場で解散することにした。

 そのままシエラと一緒に寮へと帰った俺は、一度きちんと準備をしてから出発することにした。


 本当は馬車を使うよりは、身体強化の魔方陣で一気に駆け抜けるほうが早いのだけれど……シエラに負担をかけることになるだろうし、学校長の厚意を無視するわけにはいかないだろう。


 というわけで、結局それに甘えることにした俺は、準備を終え次第シエラと二人で馬車に乗り込み……首都アッテルヒアへ向かうのだった。

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