第102幕 昼休みでの出来事
「……はい、今日の授業はここまででーす。お昼からは訓練なので、休憩後は訓練場に集まってねー」
アウラン先生は独特な伸びのある声を出しながら笑顔で片手を振って、そのまま教室を後にした。
授業も一心地付いて、今からは昼休み。その後は訓練場でまた訓練ってやつだ。
「おにいちゃーん、一緒にご飯食べよー」
そして間髪入れずにやってきたのは妙に少女のように思えてしまう声を出すミシェラ。
姿を見てもボーイッシュな女の子に見えてしまう彼は、純粋な好意を俺に向けてきてくれている。
……が、今日はちょっと遠慮してもらわなくてはならない。
「悪い。ちょっとシエラに用事があるから今日はやめておくよ。
その代わり、放課後はなにか奢ってやるから」
「えー……絶対だよ?」
ちょっとふてくされたような声を上げてはいたが、俺の謝罪とお詫びで納得してくれたのか、仕方ないというかのようにさっさと一人で外に出ていってしまった。
――さて、俺も行こうか。
こっちが用事があったとしても、向こうがさっさと他の奴と食事にいったら元も子もないしな。
――
そうして訪れたのはA級の1の1の教室。
……そういえば他の教室に行くのは向こうの学園を含めても初めてだと思う。
少々緊張してきたが、ま、いいだろう。
出来るだけ普通に教室の中に入ると一斉にこっちを向いてきた。
「おいあれ……」
「うん、シエラちゃんの……」
こちらを見ながらひそひそと話す声が聞こえるが、なんというか『やっぱりな』というのが最初の感想だった。
別に俺とシエラは同室だからって互いに気を使ってるわけではないし、自然と周囲の連中にバレる。
そしてそのままそれは他の連中に拡散し、学校全体に知れ渡る。
おまけに俺はG級の生徒が着ている白い制服で、シエラはA級が着ている青い制服だ。余計に目立つんだろうなぁ……。
ちなみに、B級は緑色の制服だ。知り合いはいないから直接絡んでくることはないだろうが。
「あれ、なんでグレファがここにいるのよ?」
周囲が騒いでるのに気付いたのか、シエラがとことことこちらの方に歩み寄ってきた。
こいつもこいつで騒がれていることになんの頓着もしてないな。
……いや、妙に意識されて話しにくいのとか困るからその方がありがたいがな。
「お前にちょっと聞きたい事がある。一緒に食事でもしないか?」
それを聞いたA級の連中が更に騒がしくなってきた。
……もうちょっと言い方があったかもしれないが、もうなんでもいいだろう。
こっちの誤解はシエラ自身の解かせればいい。
「ん、わかった。それじゃいきましょうか」
俺がシエラを連れ立っていくのが見えたからなのか、他のクラスの奴らのちらちらと見てくる視線が気になるが、今は先に聞きたいことがあるからな。
これも女の子――シエラと同室になった宿命と考えるしかないだろう。
――
そのままシエラを引き連れて訪れたのは適当なカフェで、一応人気の少なそうな奥の方に陣取ることにした。
木材造りの家のような雰囲気の店で、魔石と呼ばれる石の中でも濃縮した魔力を内包している物を光源に使っていて、非常に明るい。
700年前は天然の魔石しかなかった上、数もそれほど多くはなかったが、今では魔方陣を経由して魔力を圧縮して中に封入する技術が確立したらしく、人工的に作られた魔石が流通している。
天然の魔石よりは魔力の貯蔵量は少ないが、何度でも使いまわしが出来ることが最大の特徴で、兵士じゃない一般的な魔人でも使えるので重宝されてるのだとか。
「で、はなひってはによ?」
「とりあえずその口の中身を片付けてから喋れ」
シエラが食べているのは白いパンと濃厚そうなクリーム色をしたシチュー。
そのパンをシチューの中に浸して食べる事が彼女の中の最近の流行りらしく、スプーンで具材を口の中に運びながらもごもご喋っていた。
「ん……で、話ってなによ?」
「実は今日ルット・クインスって男に絡まれてな」
その瞬間、渋い顔をしてシエラは嫌そうに舌を出していた。
「あの人ね……まさかグレファのところにもいくなんて……」
「いきなり決闘なんか挑んで来られたんだが……どういった関係だ?」
「あの人が言い寄ってきたのよ。『この僕と付き合えることは光栄なんだよ』って」
疲れた顔をしながらスプーンで人参をつついてるが、そんな風に言い寄ってきたのか……。
シエラがそこまでの顔をするってことは、相当言われたんだろうな。
「いくら『グレリア様の申し子』でもあんなキザっぽいの絶対無理。死んでも無理ね」
そこまで言われるルットも多少哀れに思えてきたが、その反動が俺の方に向かってるんだからな。
「その『グレリア様の申し子』ってのはよく聞くが……」
「G級の方はそこら辺教えてくれないの?」
「こっちはまだそこらへんは教わってないなぁ……」
魔石関連や他の事は教えてもらったが、そこのところは一切触れられてないな。
「仕方ないわね。それじゃ私がきっちり教えてあげるわ! ……これ食べ終わったら!」
自信満々に胸を逸らしながら得意げにした後、すぐにまた食べ始めた。
食事の方を優先するのは実にシエラらしい。
ま、教えてもらえるならなんでもいいか。
とりあえず俺の方もさっさと料理を片付けよう。
冷まして食べるのも作った人に対して失礼だしな。
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