第103幕 申し子の意味
「いやぁ、食べた食べた……ごちそうさま!」
「はいはい」
まさかパンとシチューに加えてサラダとチーズタルトまで奢らされる羽目になったが……これで特に大した情報じゃなかったらいずれ仕返ししてやる。
「それにしても、あの剣売ってなかったらこんな食事出来なかったわねー」
お腹を擦りながら呟いてるシエラが言ってるのは多分司の剣の事を言っているのだろう。
セイルたちと別れ、魔人の国に行き、学校に向かうと決めた俺がまず最初にやったのは路銀の調達だった。
一年前の時はシエラのお金や適当に魔物を狩って、それを売って生活していた。
肉は恐ろしくまずく、とても食えたものではないらしいが、なるべく傷つかずに倒して皮やら角やらを素材にすれば金は稼げたからな。
でも学校に入ったとなればそういうこともしづらくなるだろう。
となれば残った手段はいつまでも持ってて使わなかった司の剣を売ってしまうという選択肢だ。
どうせあいつと会う時は戦いになるし、エセルカの件では随分と世話を掛けさせられた。
これくらいのことはやってもいいだろう。
ジパーニグの勇者が使っていた剣だけあって、『グラムレーヴァ』には遠く及ばないものの、中々の名剣だったらしく結構ないい値で売れた。しばらくはこれで暮らせるほどだ。
加えてリアラルト訓練学校の生徒は敷地内の店を安く利用することが出来る。
さらに寮の中ではちゃんと食堂もあり、朝と夜はそこで食事を摂る事が可能だ。
少なくともこの学校にいる間は寝食に困ることはないだろう。
「で、『グレリア様の申し子』について知りたいんだが」
「え? ああ、そうだったわね」
今まで忘れてたとでもいうかのように頬を掻いて照れくさそうにしているが、それで誤魔化されても困る。
「シエラ」
少々恨めしい声を上げると、慌てて両手を目の前でぱたぱた振って『いや、忘れてたわけじゃないのよ』って感じのアピールをしてきた。
「えっと、まず転生英雄のことは知ってるわよね?」
「ああ、具体的なことは知らないけどな」
人側の【英雄召喚】の事について書かれていた本にさらっと触れてあった。
「このグランセストで英雄といえば基本的にグレリア様の事を指しているんだけど、それ以外にも過去に活躍した英雄がいたの。
例えば昔は魔人同士で争っていた時代があったの。それを一つにまとめ治めた英雄はケイオーン様だし、その後もケイオーン様に匹敵する英雄は数多く生まれてきたわ」
ケイオーン……俺は知らない英雄だな。
しかし、そういうこと聞くとホッとする。俺以外にも英雄は生まれ続けているってことだしな。
「でも、国を統べたケイオーン様が言った『俺はかの方から贈り物をいただきし者……グレリア様の申し子なり! 彼の英雄伝説は今もなお続いている!』って言葉がきっかけで、グレリア様以外の英雄は全て『申し子』と呼ばれるようになったと言われてるわね」
俺がいないところでなんて恥ずかしいことを言ってくれてるのだろうか。
自分のことじゃないにしても顔が熱くなってきそうだ。
「じゃ、じゃあルットなんかもその『申し子』の一人なのか?」
そう推察しても仕方ない言い方をシエラはしていたが、ふるふると首を横に振ってそれを否定した。
「昔はそうだったんだけど……ここで転生英雄の存在が絡んでくるの。
『グレリア様の申し子』と呼ばれていた彼らの記憶の一部と能力を引き継いで生まれてくる魔人が現れだしたのよ。
記憶の一部を持ってる……っていってもそれだけだし、性格に影響を与えることはあっても完全にその英雄と同じってわけじゃないのよね。
それからは『グレリア様の申し子』っていうのは転生英雄や今の時代で英雄になれる素質を持った魔人の事を指すようになったというわけよ」
「なるほど……」
これで大体の事はわかった。
ついでになんでG級でこの内容の勉強をしなかったか、ということも。
つまりG級に選ばれた、ということは『グレリア様の申し子』――『英雄の卵』として判断されたということだろう。
そんな相手に一々説明する必要もないってわけだ。
「ということは、ルットはその二つのどちらかっていうわけか」
「ううん、ルット先輩は前者の『転生英雄』だってわかってる。
昔、魔物が異常発生した時に活躍したエンドラムって英雄の記憶の一部と能力を受け継いでるって本人が言ってたそうだし……」
エンドラム……か。
聞いたことのない名前だが、それだけ俺が自分の時代以外の事を知らない証拠とも言えるだろう。
今の授業では現代の事以外は触れてないし……これからは自分で調べてみるのもありかもしれないな。
「でも……」
深いため息をついてどこか明後日の方向を見やるシエラはなにか不思議ににやけた顔をしている。
「いくら転生英雄でも……最古の英雄の、しかも『本人』に勝てるわけがないのにねぇ……」
「それ、他の奴には絶対にバラすなよ? お前は迂闊なところがあるからな」
「わかってるって。魔人である私に言うってことはそれだけ信用してるってわけだしね」
「信用じゃねぇよ」
「え……」
『嘘……』みたいな顔して寂しそうに俺の事を見ているが、色々奢ってやったんだ。
これくらいの事は言わせてもらわないとな。
席を立って会計に向かう俺はシエラの肩に手をおいて一言だけ言ってやった。
「信頼してんだよ」
「グレリ――グレファ……!」
背後から喜んでんだか怒ってんだかよくわからない声が聞こえてきたが、適当に手を振ってさっさと支払いを終えてカフェから出ることにした。
――それじゃ、さっさと訓練してルットと戦うとするか。
シエラの信頼を裏切らない為にも、な。
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