第96幕 特別実力試験

 受付をしてくれた女性に連れられてやってきたのは十数人くらいなら動いても平気なぐらいの広さの場所に連れてこられた。


 周囲は魔方陣を封じ込められた石を使って明かりにしているようで、それなりに明るい。


「ここが……」

「はい、ここが試験会場です」


 とは言われたものの……誰もいないし何もない。

 ただ俺たちと受付の女性がいるだけだ。


 後は……様々な武器が両方の壁にかかっていて、剣・杖・大剣に斧状の物まで……全部木でできているようだけれど、その作りは本物だろう。


 見たところ他には何も用意されてはいないようだけれど、一体なんの試験をさせるつもりなんだろうか?


「貴方たちには、これから私と模擬試合をしてもらいます。

 武器種は好きなように。魔方陣での強化も認めます」

「えっと、貴方と……ですか?」

「はい、私はこう見えても強いですよ?」


 髪をかきあげるような仕草をした後、俺たちから離れるように歩いて……そのまま一定の距離を取ってこちらに振り向いてくる。

 その藍色の長い髪を翻しながら俺たちを見る強気な薄い赤色の目は『編入するんだったら私を倒してからにすることね』みたいな事を言っているように見えた。


「まずはシエラ・アルトラさんから」

「はい!」


 最初に戦うシエラは木剣を選んだようで、ブンブンと軽く振り回して感触を確かめながら試していた。

 ……そういえば彼女の戦闘を見るのはアストリカ学園で出会った時以来かも知れない。


 あのときの彼女がまさか俺の子孫だったなんて思いもしなかったな……。


「いいですか? 今からやるのはあくまで模擬試合です。

 あまり熱を入れず、夢中になりすぎないように。下手な怪我をされても困りますからね」


 女性の方は木造の武器の中でも、一般的な剣身の太い剣に比べて若干細く長い剣を手にとったようだ。

 長剣と言うには少し短く大きいそれは、本物の武器だったらなら少々扱いにくいんじゃないだろうか? と思うほどだったが……すぐさまその思考を改めた。


 魔人は身体強化の魔方陣が使えるし、いざとなれば重い武器も軽々に扱うことが出来る。

 他にも魔方陣を用いれば、全く鍛えていない男女が誰でも扱えるように工夫することも出来る。


 見た目だけでは一概に判断は出来ないだろう。


「……行くわよっ!」


 大体木剣の感触を確認し終わったシエラは、そのままなんの脈絡もなく女性の方に走っていって、動作の少ない突きを繰り出した。


「甘いっ!」


 それを身体を多少横に避けただけで終わらせ、女性は攻撃に転じようとしたのだけれど、見た感じシエラは完全に突きを放ちきらないまますぐさま腕を引いて剣を引っ込め、そのまま肘を回して剣を振り下ろす。


 その対応が意外だったようで、女性は顔を苦々しく歪めて、木剣で防御の体勢を取る。

 それと同時にシエラは身体強化の魔方陣を展開させて剣を寸止め。


 そのまま身を翻して真逆の位置から……左斜め下から攻めてくる。

 これは上手い。シエラと戦っている女性は相手に合わせるような対応を取ってきた。

 なら、最初は強化をせずに戦い、相手の隙突くように一気に攻める。


 タイミングも完璧で、慌てて速力に特化した起動式マジックコードで魔方陣を使って……力負けして剣を空中に弾き飛ばされてしまった。

 体勢も不安定……だが、今ならあちらの方が速く動くことが出来る。


 すぐさま体勢を整えた彼女はそのまま右足に力を入れて地面を踏みしめ、シエラの追撃にタイミングを合わせるように左で膝蹴りの動作を取り……そのまま放った瞬間に膝を開いてフェイント気味に蹴りを飛ばしてきた。


 相手を倒す一撃じゃなく、牽制するような蹴り。

 シエラは既に剣を引けるような状態ではなく……半ば放り投げるように剣を手放して、身体強化を速力に特化させて一気に女性の懐に潜り込んで、攻撃系統の魔方陣を展開する。


 ――勝負あり、だ。


「……」

「……いいでしょう。私の負けです」


 女性が負けを認めたのを確認したと同時に、シエラは適当なところに魔方陣で作った炎の球を飛ばして、戦闘態勢を解く。

 一度作った魔方陣はきちんと効力を発揮させないといけないからな。


「いい動きでした。これからも頑張ってくださいね。

 ようこそ、リアラルト訓練学校へ」

「ありがとう」


 おそらく一度きりしか通じない戦法を見事にやってのけたシエラは文句なしの合格を貰ったようだ。

 女性は一度体についたほこりをはたいて……今度は俺の方を見てくる。


 よし、次は俺の番、ということか。


「あっれぇ? ここで何してるの?」


 準備運動をしながら身体の筋を伸ばしてからいざ行こうとした時、およそ今この場に似つかわしくない可愛らしい声が聞こえてきた。


 入り口の方に目を向けてみると、透明感のある少し濃い――バイオレットだっけか。そういう色合いの肩ぐらいまで伸ばされた髪に蒼い瞳の……しょう、じょがいた。


 微妙に判断がつかないのは、来ている服が男の子用の制服……のように思えたからだ。

 多分それがなかったら完全に少女だと思っただろう。



「貴方は……」

「ねぇ、ねぇ、ぼくも混ぜてよっ」


 無邪気な笑顔を浮かべる彼(彼女?)をさっきまで勇ましく戦っていた受付だった女性は……どこか恐ろしいものを見る目で見ていた。

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