第六節 リアラルト訓練学校編

第95幕 再び魔人の国へ

 ジパーニグのダティオで四人と別れた俺たちは再び身体能力を強化させて適度に全力で走りつつ……グランセストの首都――ではなく、副首都のファロルリアに向かった。


 アッテルヒアに何かがあった時に国としての機能を失わないようにと作られた都市……ここに兵士たちを鍛え上げる場所があるらしい。

 そこから魔人の兵士として国に仕えながら内情を探り入れた方が良いだろう……シエラはそういう提案をしてくれた。


 最初は俺も反対していたんだが……。


「だって、どっちみち探るんでしょう? だったらどこにいても同じじゃない。

 バレたら殺されかねない事しようとしてるんだから、やりやすい場所に行けばいいでしょ」


 と言われてしまった。

 確かに、人の側とは違って魔人の国は姿や気配を消す魔方陣に対抗する手段を持っているはずだ。

 イギランスの時はそんな備えをしてるわけがないと思えたからこそあれだけの強行軍で挑めたんだ。


 それをシエラはわかってくれたからこそ、こういう提案をしてくれたんだろう。

 だから、俺たちは今この副首都に来てるってわけだ。


「ほら、ここよここ。えーっと確か名称は……」


 ――で、彼女の案内でそこまで言ったんだが……。

 大きく広い建物。目の前のそれには建物よりは多少小さい時計塔がそびえ立ち、そこから周囲に広がるように建物が連なってる。


 そう、まるで……。


「そうそう、リアラルト訓練学校だったはずよ」


 ――学校のようだった。

 そう、何度見たとしても……一度目を閉じて開いたとしても、そこにあったのは紛うことなき学び舎、だった。


「何をそんなにうんざりした顔で眺めてるのよ?」

「いや……また……今度は魔人側の学校に通うことになるなんてな……」


 何が悲しくてまた学び舎に入らないといけないんだと若干憂鬱なってきた。

 それでもここが一番グランセストに入り込むのにうってつけだと言われたら……入るしかないよな。


「良いじゃない。あんなところよりもきっと面白いと思うわよ。自由で」


 にやりと口角を少し釣り上げて笑う姿は悪役の真似をしてる子供って感じだけど、学校の時点で自由も何もないだろうといいたい。


「さ、早く行くわよ」

「……わかった」


 なんとも言えない気持ちのまま、俺たちはそのリアラルト訓練学校の敷地内に足を踏み入れた。



 ――



 しばらく中を歩いていて、ふと疑問に思ったことがある。

 それはいきなり来て入学出来るのか? ってことだ。


 その事をシエラに問いかけると、この訓練学校は少し特殊らしく、試験にさえ合格すれば編入という形で入学させてくれるらしい。

 例えその後編入した組がすぐに昇級したとしても、更に特別試験を受ければそのまま昇級出来るのだとか。


 優秀な人材には他にも色々な優遇がされており、より優れた者はより早く昇級し、実践訓練を行うらしい。

 これにも理由があって、ここ、グランセストは大きな大陸の中心に広く位置するからだ。


 上にはシアロル。

 左上にはイギランス。

 左下にはナッチャイス。

 右下にはジパーニグ。

 右上にはアリッカル……。


 もうちょっと複雑なのだが、大まかに、ざっと大雑把に表せばこんな感じで人の国と接している。

 つまり四方八方からヒュルマに囲まれた国……それがアンヒュルの国グランセストなんだ。


 今までよくそれで無事でいられたもんだと思いもしたが、だからこそ魔方陣を使える利を活かそうとしているようで、率先して訓練に組み込まれているそうだ。

 だからこそいつでも編入試験を受けることが出来て、そういう兵士は優遇されるってわけだ。


「すみませーん、試験の受付はここだと聞いたんですけど」

「はい、それではこちらに名前と年齢……それと魔方陣を使えるようになって何年かを記入してください」


 色んな人に道を聞きながらようやく辿り着いた受付の女性が渡してくれた紙に、記入していく。

 一応ここでの俺はグレファ・エルデで通っているが……直接人に名乗る機会が少なかったから通じるかどうか少しヒヤヒヤする。


 ……まあ、シエラはなんとも言ってなかったから大丈夫だとは思うが……。


「はい、シエラ・アルトラさんとグレファ・エル……デさんですね」


 なんで今俺の名前を呼ぶのに一瞬戸惑うかのような表情と声音を向けてきた……と思ったんだが、彼女が見ているのはどうやら名前の項目じゃなくて魔方陣を覚えて何年か……という項目のところだった。

 年齢と交互に見比べているが、ため息を一つ吐かれ、そのまま試験会場に案内してもらうことになった。


「ちょっと! 一体何を書いたのよ」


 女性の態度が気になったのであろうシエラが、彼女の後ろに続くように歩く俺にそっと耳打ちしてきた。


「ん? 年齢に15。魔方陣の項目に12と書いた。それだけだ」

「貴方ねぇ……3歳で魔方陣を使えるようになるわけないじゃない……」


 思いっきり嘆息されてしまったんだが、シエラこそ何言ってるんだ?

 物心ついた時に魔方陣が使えることこそ、それこそザラだろうに。


 そんな風に小声で返してやると、シエラは更に呆れた視線を向けてきた。

 そこで俺は悟る。


 魔方陣の使い方が多少劣化している現在、3歳から魔方陣を使えるほうがおかしいということに……。

 またしくじってしまった、とも思ったが、もう書いてしまったものは仕方ない。


 それだけの力を見せれば済むことだろう。

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