第93幕 新しい力を得る日々
どうにも微妙な終わり方をしてしまった最初の魔方陣講座だったが、結局の所、俺の杞憂。
つまりは取り越し苦労だったっていうわけだ。受け入れてくれるかどうか不安だったり、否定されたらどうしようかなどと考えていたのが多少馬鹿らしく思えてきたもんだ。
今では大分、肩の荷が下りたような気さえする。
それからの魔方陣講座は滞りなく進んだ。
少しルーシーが俺を見定めるような視線を投げかけてくるのが多少気にはなったが、それ以上の行動をするわけでもないし、むしろ気になったことは率先して質問を投げかけてくる。
生徒としては非常に教え甲斐がある方なのだが……素質がなぁ……。
少し話は変わるが、詠唱魔法っていうのは大体消費する魔力が少ない。
なんで少ないのかは……さすがの俺もわからない。本当に魔素が存在してるのか? とも思うけど、見えないものに何を考えても仕方ないだろう。
詠唱魔法は消費する魔力が少ない。それだけで十分だろう。
逆に魔方陣は魔力の消費多い。詠唱と
魔力を注げば注ぐだけ威力が上がる魔方陣は、詠唱魔法で消費する程度の魔力じゃ大して効果がないからな。
だから必要なのは生まれ持っての魔力量。それに加えて魔方陣を扱える素養というわけだ。
ルーシーとくずははその魔力量が低い。
使える魔方陣は身体強化くらいしかないだろう。後は目眩まし系を含めた幾つかの細かいものか……。
これは俺の仮説だが、恐らく勇者としての能力――【英雄召喚】で喚び出されたさいに与えられた能力が原因なんじゃないかと思う。
もちろん外れているかも知れない。
だが少なくとも今の二人の魔力量が少なく、魔方陣を扱う奴に対抗するには、勇者としての能力を自在に駆使できるようになるしかないというのが現状だ。
逆に魔力量が一番多い――つまり魔方陣を扱う事に最も長けているのは多分エセルカだろう。
以前、遠くの森で魔方陣の訓練をした時……真っ先に教えたのが『気配遮断』と『姿隠蔽』……ようは姿を消す魔方陣だ。
なにかに触れれば解除できるし、周囲に危険があるわけでもない。
魔力の消費量も他の魔方陣の中でも相当大きいし、尽きた時や自身の魔力が少なくなっている時の漠然とした感覚も掴みやすくなる……ということで実践させていた。
その時に一番回数が多かったのがエセルカだった。
次にシエラ、セイルの順で、発動すら出来なかったのがくずはとルーシー、といったところだ。
あの時のシエラは本当におかしかった。
「わ、私が……魔人である私が人の、エセルカよりも魔力量が劣っていた……?」
「あ、え、えと……なんだかごめんね?」
なんて落ち込んでるシエラをエセルカが気を使って妙に慰めてる、なんて事もあったりしたくらいだ。
この魔方陣を使えないことで落ち込んでいたルーシーは、こんな事も言っていた。
「こんな恐ろしい魔方陣が存在するなんて……この魔方陣があれば秘密なんてあってないようなものですわね」
「ところが、そうは行かない。これに対抗した魔方陣はもちろんあるし、その範囲内であれば探知することが出来る」
最もそれは常時設置型……つまり発動させるためにはそこに設置させる必要がある。
だからこういう開けた場所よりも狭い――部屋なんかに使うことに適した魔方陣だな。
隠密系と索敵系の魔方陣の宿命のようなもので、片方が発展すれば、もう片方がそれに追いすがっていくような形で
後は消音と併用する場合は、その分見つかりやすくなってしまう。
そういう風に変更しないと魔力が幾つあっても足りないからな。
ああ、でも……今の俺ならそれでも大丈夫なのかも知れない。
転生する前よりずっと魔力量が多くなってる気がする。
イギランスであれだけ色んな魔方陣を使ったはずなのに全然減った様子がなかったからな。
「なるほど……ですが対抗できるものがなければ、この世の中隠し通せるものが無くなってしまいますものね。
それだと都合が悪くなる方も多くなるでしょうし、自然と発展した形でしょうね……。
それで、探知の魔方陣はわたくしたちにも使えますの?」
「やってみないとわからないな。だが、こういう姿を消すタイプの魔方陣よりはずっと可能性がある」
俺の返答にしみじみとした様子で呟いたルーシーは、今度はその探知の魔方陣を使えないか聞いてきた。
その後は彼女のお望み通り、そっちの方面も教えることになったのだが、こっちは全員が覚えることが出来た。
それから暫くの間一ヶ月程度だが、最低限こなせるようには教えることが出来た。
時には暗殺者のような集団が襲いかかってきたりもしたが、大体蹴散らせる程度の実力の持ち主だったし、大方問題はなかったがな。
――そんな風に魔方陣を教えながら過ごす日々は、本当に楽しかった。
この日々が、少しでも長く続けば、と思うようにさえ。
辛い日々ほど長く……楽しい日々ほど短いもんだ。
だいたい世界ってのは――人の心ってのはそういう風に感じるようにできてるものだから。
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