第92幕 邪神の正体と転生

「そっちで邪神って呼ばれてるのはこっちでは過去の英雄グレリア様のもう一つの姿とされているわ」

「グレリア……さまぁ?」


 物凄く違和感があるような目でくずはが俺の方を見ているけど、そんな目で見るな。

 一応俺とは別人って体でいるんだからな。


「そう、創造神に遣わされた彼は魔物の王と呼ばれるものを討つために魔人となってこの世に顕現した……と言われているの。

 そして魔王を討った彼はその魔人としての生が終わって神の座に帰るまで人々の為に生き、繁栄へと導いたって伝承が今でも残ってるわね」


 なるほど……だから魔人たちはグレリア――つまり俺を信仰し、崇拝しているのか……。

 正直なんで俺のファミリーネームが神として君臨しているのかは未だに謎だが、少なくとも俺の魔王を倒した話が伝説になって色々と脚色が加わった……といったところだろう。


「そしてその生まれ変わりを名乗ってるのがそこのグレリアってわけよ」

「グレリアくんが……?」


 魔方陣の勉強や話をしていたはずが、いつのまにか俺の話になり、今度は一斉にこっちに視線が集まってきた。


「つまり、彼は自分が神の化身だと……そう言っているということですの?」

「いや、俺はそんな大したもんじゃない」


 ルーシーが今の話の結論を自分なりに口にしてくれていたが、そんなわけがないだろう。

 俺が神の化身だなんて……冗談じゃない。


「だ、だよね。もし今の話が本当だったら……ちょっと頭がおかしくなったとしか……」


 くずはの方は引きつったような笑みを浮かべているが……随分な言われようだ。


「この話はここで終えて――」

「でも、グレリア様がかつて使っていた武器の本当の在り処を知ってたし、彼の剣は紛うことなく過去グレリア様が魔王を倒した時に愛用していた『グラムレーヴァ』に間違いないわ。

 首都に本物として飾ってあったものなんか比べ物にならない逸品だったわ」


 なんとか話を終えようとした俺を遮ったのはまたしてもシエラだった。

 こいつ……俺になにか恨みでも有るのか……。


 思わず拳を握りしめ、不機嫌そう睨みそうになったが、周囲の目が気になり辛うじてそれを抑える。


「グレリアくん……?」

「……はぁ」


 こうなっては仕方がない。

 最後まで隠し通すつもりだったが……嘘くさくならない程度に本当のことを語るしか無いな。


 それでも俺が『転生』したという事実が変わることはないし、今の状態では疑いの眼差しを向けられてもしかたないだろうが……それはこれが露見したときには既にわかっていたことだし、覚悟も決まってる。


 ただ最後の一線――『神に頼まれて転生を受け入れた』この一点だけは伏せておいた方がいいだろう。

 話が途端に嘘くさくなる可能性が高いしな。


「その過去の英雄の生まれ変わり……といった感じだな」

「生まれ変わり……」


 その単語だけでもセイルやくずはは微妙に表情を暗くしていた。


「私も信じたくはなかったけどね。

 人の方にグレリア様の生まれ変わりが現れた……なんてね。

 でも、肝心の証拠がこの人を過去の英雄だとなによりも証明してる」

「ちょちょ、ちょっと待ってくださいまし」


 すらすらと語るシエラの説明に追いつけてないように頭を振るルーシーは手で制止するように遮ったきた。


「それじゃあグレリアさんは魔人の英雄の生まれ変わりというわけですか?

 というよりもなんでそんな人が今ここにいるのですか!」

「待った待った……あんまり詰め寄らないでくれ。ちゃんと話すから」


 ぐいぐいと攻めてくるルーシーをどうにか宥めて、一旦彼女から身を離すことにした。

 全く……少しは俺の事も考えてほしいものだ。


「まず、ここにいるかなんてこと、俺に聞かれたって困る。

 肝心なことは唯一つ。俺は確かにグレリアで、この世界にいるってことだ」

「でもそれは……イギランスの王様と同じなのでは……」

「違う!」


 ルーシーが更に詰め寄ろうとしたところを、思いっきり強い言葉でエセルカが遮ってきた。

 あまりの強さに俺の方もびっくりしたほどだ。


「エセルカ?」

「あ……ごめんなさい」


 しゅんとしてその小さい身体を余計に縮こまらせてしまって……恥ずかしくて見えなくなりたいとでも思っているかのようだった。


「……俺はそれでもグレリアを……兄貴を信じるって決めてるからな。

 王様も違う形で『転生』したっていうのはわかるけど……遠い他人より身近な兄貴の方が信頼出来る」

「最後の方がなければ完璧だったのにね」


 くずはがため息まじりに頭を左右に振ると、『うるせぇよ』と笑い飛ばしていた。


「そう……ですわね。信じると決めた以上、ちょっとのことで動揺してしまったわたくしが悪いのでしょう」


 どうしても納得できないというような表情を浮かべるルーシーだったが、これだけははっきりと言っておかないといけないだろう。


「俺は……魔人と人がこんな風に分かたれているのがおかしいと感じている。

 もしこれが誰かが意図的に分けられ、争わされているのなら……それをなんとかしたいとも思っている。

 この気持ちだけは、嘘じゃない」

「……わかりましたわ。ひとまず、それで納得してさしあげます。

 ですが、わたくしは民を守るために勇者として戦うと決めました。

 もしもあなたが民を故意に傷つけるのでしたら……」

「わかってる。その時はお前の好きにするといいさ」


 ルーシーは一度警告のようなことを言ってはきたが、それ以上何も言わずにいてくれた。

 ――問い詰めないでいてくれるだけ、ありがたい。


 あまり色々聞かれても、俺には答えることが出来ないからな。

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