第91幕 グレリア・シエラの魔方陣講座
数日ダティオに留まったおかげか、ルーシー・エセルカの二人共心の整理がついたようだった。
というか、エセルカに至っては魔方陣の教えを強く俺に請うてきたものだから若干困ってしまったが。
以前と同じ、流されかけていた感じだったら俺もまた色々と断る言葉を口にしていただろうけど、今の彼女はセイルと同じまっすぐで……とても俺が頭ごなしに否定していいようなものではないと思ってしまったからだ。
……正直、俺もエセルカの好意には気付いているつもりだったが、ここまでのものだとは思っても見なかった。
だが、今の俺には彼女の想いに応えることは出来ない。
どう言えばいいのだろうか……どうしても過去、家庭を持っていたことが俺の思考を引きずってくる。
こんな俺で、本当にいいのか? という疑問が頭をよぎり、彼女の好意を受け入れることを拒否することもなく先送りしてしまう……そんな情けない現状が続いているというわけだ。
少なからず彼女の好意を悪くは思わない自分がいるのだから、余計にそう思ってしまうのだろう。
いつかは結論を出さなければならないものだけれど……それを決めるのはもう少し……後少し先にして欲しい。
そう思う、自分がどうしようもなく馬鹿に見えてくるのは……それが彼女が傷つく事になるかもしれないとわかっているからだろう……。
――
エセルカにも魔方陣を教えることになった次の日、俺たちは一度泊まっていた宿屋を引き払い、二区から離れた場所の真逆に位置する宿に取り直すことにした。
そこで俺とセイル、女性陣に分かれて部屋を取ることにする。
女性陣をまとめたのは、三人部屋に六人が集まることに限界を感じたからだ。
いくらなんでもあれは狭すぎる。
だから男性陣は二人部屋の必要最低限に。
女性陣は比較的広い部屋を取り、そこで魔方陣を教えるということにしたのだ。
セイルはなぜか学園にいた頃の事を思い出せて嬉しい様子だったが、これからしばらく、目が覚めたら一汗かいたセイルがいるかもしれないとなると俺の方は多少憂鬱になるんだけどな。
「それじゃ、早速魔方陣の事について教えてくれよ」
自分たちの部屋に荷物を置き、女性陣側の部屋に集結した俺たちに向かって早速セイルが教えてくれと催促してきた。
いや別に教えてもいいんだが……という雰囲気を出しつつ、くずはとルーシーの方に視線を向ける。
「どうしたんですの?」
「いや、お前たちにも教えていいのか? いざという時知っておいたほうがいいのは確かだろうが……」
「ヘンリーが使ってきたっていうんなら、もしかしたら他にも魔方陣を操る勇者が出てくるかも知れないじゃない。
その時、足手まといになったら嫌だもの」
「右に同じですわ。わたくしも、貴方たちと行動を共にする以上、覚えておいて損はないでしょう。
普段は使わなければいいんですしね」
シエラの方もそれには了承済みだったようで、至って涼しい顔で『早く教えなさいよ』というかのような態度を取っていた。
仕方ない。それなら早速講義しようか。
さて――
「それじゃあ、まず何から話そうか……」
「まずは魔方陣の根底から話したほうがいいんじゃない? 私とグレリアが知ってることも違っていそうだし……」
それもそうか。
もしかしたら俺の話を聞いたシエラが何かに気づくかも知れない。
最初から……は長くなるからある程度端折った感じで話をしようか。
「俺が知っている魔方陣なんだが……これはこの世界を創った神の
魔方陣の大きさ、構築時間で威力が変わる。より大きく綿密に構築した魔方陣ほど高威力になるというわけだな」
「だけど、グレリアくんは一瞬でいっぱい魔方陣を作ってたよ?」
俺がヘンリーと戦う姿を見ていたエセルカはその事に対し疑問を持っていたようだ。
魔方陣とほとんど触れ合うことのなかった人としてはその着眼点はいい。
「それは元々一瞬で展開できるようにして使うものだからよ。
一番最初……初めて使う魔方陣は一から
だから次に発動するときは何を使うか考えて展開すればいい、ってわけ」
俺が言葉を発する前にシエラが代わりに説明してくれた。
大体その通りだ。使う最初の一度だけは自分で一から構築しなければならない。
……が、大体は本や他のやつに教えて貰えるし、身体強化の魔方陣はかなり構築しやすい。
大きい魔方陣だと一度構築した後でも一瞬というわけにはいかないんだけどな。
「へぇ……便利なものですわねぇ。一々唱えなくてはならない詠唱魔法を馬鹿にする魔人の気持ちもわかるというものですわ」
「……あのさ、俺も一つ、疑問に思ったんだけどさ」
ここでセイルが微妙に納得が行かないというような表情で右手を上げていた。
くずはとエセルカが珍しいものを見るような目でセイルを見ているけれど、それだけ勉強熱心というわけだろう。
全く気にしないで質問をしてきた。
「グレリアが神って言ってたけどさ、それって『魔方陣の書』や他の本に書かれている邪神ファルトのことなのか?」
「それは……」
そう言えばそんな風に本に書かれていることもあったな。
『邪神』という単語にシエラは顔をしかめていたが、それだけで済んだということは彼女も少しは成長したということだろう。
しかしそこのところは俺も気になる。
魔方陣に邪神ファルトが関係していないのは間違いないけど、俺のファミリーネームをそのまま使っていることが、な。
だからこそ、皆から向けられた視線には答えず、そのままシエラの方に『代わりに答えてくれ』という視線を向けるのだった。
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