第90幕 決意の選択
グレリアくんたちとの話が終わって数日……私は一人でダティオの町を歩いていた。
考えるのはグレリアくんに魔方陣を教わりたいって言ったときのこと……。
――はっきり断られちゃったなぁ……。
しかも、私が全然考えにも及ばなかった諭され方をされて。
「家族、かぁ……」
ぽつり、と零した言葉はそのままどこかに吸い込まれていって……余計に心を虚しくしてしまう。
全然考えてなかった。私はきっと親不孝者なんだと思う。
グレリアくんの側にいたい。側で寄り添っていたい。
今まで以上にそんな風に強く想えるようになった私は……きっと……守られて一緒に旅をして、恋をしてるんだと思う。
……恥ずかしいし、誰かを好きになった経験なんてなかったから中々認められなかったけど。
でも、だからグレリアくんに言われた言葉が突き刺さってくる。
本当はすぐに受け入れて欲しかった。
お前が必要だって言って欲しかった。
グレリアくんがそんな事を言うわけないのにね。
「はぁ……」
強く深いため息をついて、空を見てみると、太陽が眩しくて思わず手をかざして空を見る。
こんなにも気持ちの良い青空に、悲しい気持ちが湧いてくるのはなんでだろう?
「はぁ……」
「なにをそんなにため息付いてるのよ」
「えっ!?」
後ろからぽん、と肩を叩かれて思わず飛び上がるほど驚いて……恐る恐る後ろを振り向くと、そこにはくずはちゃんが面白いものでも見るかのような顔で私を見ていた。
「く、くずはちゃん……びっくりしたぁ」
「エセルカらしくないじゃない。そんなに悩みながら歩いてるなんて」
軽く笑ってるその姿は、昔初めて会ったきついくずはちゃんじゃなくて、私たちと打ち解けた彼女がそこにいた。
「……私もセイルくんと同じように魔方陣を習おうとしたの」
「それで、どうせグレリアに考え直せって言われたんでしょ?」
「うっ……」
図星を突かれて思わず胸を抑えてしまう。
教わろうとした……って言った瞬間、まるですべてを理解したかのような顔で『しょうがないなぁ』というような目を向けてくるのはちょっとやめてほしいかな……。
「なんで、って顔してるけど、魔方陣を教わろうとしてそんな悩むような顔してるってことは、断られたってことでしょうに……」
「うぅ……だって……」
「馬鹿ねぇ、グレリアの言うことも最もだけど、それ以上に大切なのは自分の気持ちでしょうに」
自分の気持ち……そんなことくらい、言われなくてもわかってるつもりなのに、はっきりとそう言い返せなかったのは、少なくとも私の心の中に思うところがあったからかな。
結局、言葉に詰まって上手く返事ができずにいたことを肯定と取られてしまった。
「家族がどうとかって言われたら、そりゃ動けなくなっちゃうけどさ……。
でも、そればっかり気にしてたら本当にしたいことを見失っちゃうわよ?」
「それは……」
――それはくずはちゃんは喚ばれた勇者だから、家族がいないから言えるんだよ……。
そういう言葉が突いて出そうになって、思わず口を閉ざしてしまった。
だって、くずはちゃんはもう、会いたくても会えないんだから。
私とは違う……苦しいとか悲しいとか無理やり背負ってるから……。
「本当に彼の隣にいたいなら……貴女も覚悟を決めないと。
でもま、本来なら比べちゃいけない。比べられないものなのかも知れないけどねっ」
ちょっと自分が言ってることが恥ずかしくなってきたのか、照れ隠しの為にくずはちゃんはそのまままた歩きだしてしまって……私は慌ててそれについていくことにした。
「くずはちゃん……くずはちゃんはセイルくんが魔方陣を使えるようになって……平気なの?」
「当たり前じゃない」
私の質問に、くずはちゃんは『なに当然な事を言ってるのよ?』とでも言いたげな表情を浮かべていて……くずはちゃんはセイルくんが魔人と同等の力を手に入れることを既に受け入れてるんだ……と感じた。
納得とか、諦観とか……そういうのじゃなくて、ごくごく自然の流れのように感じているんだって。
「セイルくんは……納得してるのかな」
「さあね。どうせあの馬鹿のことだから強くなるとか、守るとか……それくらいしか考えてないんじゃない? でもね、あいつはまっすぐだから、やるっていったらやると思うよ」
そういうくずはちゃんの顔はどこか照れてるように頬が赤くて、きっとセイルくんのこと、好きなんだろうなって……だからそうやって進んでいこうとしているセイルくんを受け止めようとしているのかもって……そう思った。
だから……だから私も、決めた。
「くずはちゃん、私も追いかけ続けるよ。だって、もう今更だもん」
今更諦められるわけない。
家族に、友達に迷惑を掛けるかも……それでも……。
前の居場所が無くなっても、今の場所を失いたくないから……。
例え会えなくなったって……敵に回ったとしたって死んでるわけじゃないんだから――。
気付いたらさっき見上げたような空の青さのように、さっぱりとした気持ちで、くずはちゃんの隣を歩いてた。
「……くずはちゃん、ありがとう」
「そうね、なんだか甘い物が食べたくなったと思わない?」
「ふふっ、仕方ないなー」
お礼の催促をしてきたくずはちゃんに『しょうがないなぁ』と苦笑いしてしまって……。
適当なお店に入って、甘いものを奢ってあげることになったのでした。
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