第32幕 勇者と呼ばれた少年たち

 結果として、俺の要求は受け入れられることになった。

 まあ、その代わり英雄勇者達の身になにか起こりそうな時はそっちを優先すること。

 エセルカとセイルの方は後で宿代を請求してくれれば出してくれる……が、それ以上の事は出来ないそうだ。


 このことについては俺も不満はない。二人には外の世界を知ってほしいというか……まあ、俺一人でその勇者達の面倒を見きれるか不安だったというのもある。

 一応護衛は付けてくれるそうだが……それはそれで不安でしょうがない。


 ま、後は二人にも良い結果をもたらしてくれるだろうと思ってな。

 特にエセルカはもうちょっと社交的になってほしいとも考えてたし、それも含めてちょうどいいってもんだった。


 話が終わった後、早速二人に告げるとものすごく驚いていた。

 まあそうだろうな。学長室に案内された挙げ句、【英雄召喚】で呼ばれた奴らのおもりをするハメになったと聞けばな。

 ちなみに学長室の場所と行き方は秘密にするように言われていたから、そこのところだけは伏せて、な。


「ま、まじでか……」

「そ、そんな勇者様と……」


 と言った感じでまるで、信じられないと言った様子だった。

 ようやく我に返った二人は、今度は各自違った反応を見せてくれた。

 セイルはガッツポーズで気合を入れて。エセルカはわたわたと慌てて。


「あまり気負う必要はないって。護衛もつくし、いざとなったら俺がなんとかしてやるから」


 本当に危なくなったら俺も本気で安全を確保するつもりだし、【英雄召喚】で喚ばれた勇者は強いと聞く。

 よほどの事がない限り問題にはならないだろう。


 それから実際勇者と合流するまでの間、セイルはより一層気合を入れるべく、筋トレに勢いが増していた。

 エセルカも思うところがあるのか、剣の稽古をしているようだった。



 ――



 俺が二人に話をしてしばらく経ったある日、それは訪れた。


「グレリア君、セイル君、エセルカさん、訓練場のリングの方に来てもらっていいですか?」


 クルスィが相変わらずの暗い顔を向けながらだが、俺達を呼んできた。

 というかわざわざ訓練場の方まで行かないといけないのか……てっきり校門のところで迎えるみたいな形だと思っていた。


「はい。二人共、いくぞ」

「おう!」

「は、はい!」


 他のクラスメイトは何事かと騒ぎ立てているようだったが、勇者会合に行く面々以外には秘密にしておくようにと事だったからな。

 いきなり呼び出しを食らったとしたらそうもなるだろう。


 そんな視線を感じながら、俺達はクルスィに案内されながら訓練場の方に向かう。

 すると……三つの人の姿が確認できた。二人は俺より多少上といった少年少女。

 もう一人は年上っていうか……明らかに大人。間違いなくこの人が護衛役だろう。


 顔が確認出来るほどまで来ると、少年の方はすごく嬉しそうに俺達を待ち構えていた。

 ……が、なんだろうか。その目は自分に相当自信を持っているようで、若干危なっかしく見える。


 対する少女は若干不機嫌そうな表情をしている……ように見えるが、あれは目がちょっと釣り上がっているように見えるだけで、生まれつきなんじゃないかと思った。

 その証拠に少しだが眉が下がっている。あれは誤解を受けやすいタイプだろう。


 最後の護衛役の女性だが、流石に国が付けてくる護衛だ。全体的に隙が少ない。

 短いながらもウェーブのかかった薄い金色の髪にオレンジ色の目。柔らかそうな顔つきがどこかお姉さん然とした雰囲気を醸し出している。

 それが白く輝く銀色の鎧を着込んでいて、背中にシンプルな大剣を背負っている。


「おまたせしました」

「いいえ、わざわざご足労ありがとうございます」


 護衛の人とクルスィが挨拶を含めて色々とやりとりしてるのを見ながら、ふと後ろの勇者二人に目をやると、少年の方はどうもやる気がなさそうに見える。

 少女の方はキッとこっちをにらみつけるように様子を伺ってるし、これはちょっと先が思いやられそうだ。


「二人共、自己紹介を」

「霧崎くずは」

「くずは、もうちょっと愛想よくしろよ。おれたちより下そうなのに」

「うるさい」

「はぁ……悪いな。くすはも悪気があるわけじゃないんだけど……おれは時雨しぐれ司だ。よろしくっ」


 ぷいっとそのままふてくされるように顔を背けたのがくずはで、片手を上げて若干馴れ馴れしいのが司か。


 それから俺達三人が自己紹介を終えた辺りにすっと前に出てきて、胸に手を当てる。


「今回勇者様方と貴方達の護衛を任されたミシェリ・セイテリアです。よろしくね」


 そのにこやかに笑って差し出したその手を軽く握ると、意外と強く握り返してくれた。

 なるほど、流石女性だてら大剣を使うだけはある。恐らく相当鍛えてあるのだろう。


「よろしくお願いします」

「はい。それでは、早速行きましょうか」


 挨拶もそこそこに、さっさと校門の方に向かうと……そこには立派な馬車があった。

 馬はこのルエンジャにきて初めて見たゴーレムより立派なのが代わりにいた。


「これはまた……」

「さ、お早く」


 ミシェリに促されるままにみんなで乗り込んだんだが……五人で乗っても全然狭くない。

 こうして俺達は勇者会合の開催される国に……ってどこに行くんだっけか……。


 あるとは聞いたけど、どこで行われるか聞くの忘れてた!

 世界を見て回りたい、二人を稽古付けてやりたいという感情が先走ってしまい、肝心の行き先を知らないとは……。

 頭を抱えそうになったが、まあなんとかなるだろう。


 それくらいの気概でいかなければこれから先、もっと大変なことが起こりそうだからな。

 さあ、ルエンジャを出発して、新しい場所への旅立ちだ――。

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